河津に桜を見に行った。
そろそろ、お花見行っておこう。
あごまでお湯に沈めたたかやまさんが言った。
「お花見って…、桜のですか?」
泡立てたボディソープを身体に纏わせながら答える。まだ2月の中旬である。
「うん。もう南のほうは咲き始めてるから」
そう返ってきた。
「思いつきで九州とか行くのはさすがにもったいない気がしますね」
しばらく考えてからわたしがそう言うと、たかやまさんは一瞬固まってから、あはははっ、と豪快に笑った。
「そこまで南に行かなくても、もうちょっと穏やかな南でいい」
たかやまさんはそう言って湯船から身体を起こす。普段は青白くすら見える肌が上気して赤みがかっている。たかやまさんが湯船の縁に腰かけると、湯を弾く背中から湯気が立ち上った。
「さーさちゃん、お花見の時期になると風邪ひいちゃうから。今年は風邪ひいちゃう前に、お花見行く作戦」
たかやまさんは湯船に向かってそうつぶやき、振り返ってわたしを見て、ね? と言った。
「そんなにいつも風邪ひいてましたっけ」
とわたしが言うと、
「ひいてた。一昨年も去年も」
と確信した声色で瞬間的に返事がある。たかやまさんのほうがわたしよりもずっと記憶が正確なので、実際にそうだったのだろう。
「それで、どこに行くつもりなんですか?」
「わかんない。さーさちゃんの都合もあるし、さーさちゃんが決めて。私もちーちゃんも、どうにでもなるから」
新宿駅南口の指定席券売機でたんまりときっぷを発券し、南改札の花屋の前でいちがやさんと待ち合わせた。時間きっかりにやってきたいちがやさんはベージュのコートを着ていつもより目に優しい格好をしている。
甲州街道を渡った先の改札口から入場する。わざわざ甲州街道を渡るのは、成田エクスプレスに乗るからだ。成田エクスプレスの発着する5・6番線ホームは他のホームよりも代々木方にずれていて、南改札から入ると一旦地下1階まで降りないといけない。甲州街道の南側にあるミライナタワーからはエスカレーターで直接ホームに降りることができるので、無駄がない。
横断歩道を渡り、河津までの乗車券をいちがやさんに渡して入場する。エスカレーターを降りると5番線にE259系がひっそりと停まっていた。
車内は空いている。1車両に10人も乗っていない。指定された席に座ってぼんやりする。車内はしんとしていて、新宿駅で一番静かな場所なのではないかと思った。
発車時刻の9時05分を過ぎても列車は出発しなかった。まもなく車内放送がかかって、渋谷駅で非常停止ボタンが扱われたとアナウンスされる。混雑した山手線の列車がわたしたちを追い抜いていく。成田エクスプレス13号は12分遅れで出発した。列車は遅れを保ったまま、9時32分に品川に着いた。
わたしたちは品川で成田エクスプレスを降りてしまう。特急料金はチケットレス割引があっても660円となっていて、新宿から品川の区間だけ成田エクスプレスに乗るなんて、どんなポンコツな乗換案内で検索しても表示されないと思うが、乗り鉄としては贅沢で楽しい。
品川駅で食事を買う。わたしは海苔弁山登りの海、いちがやさんは300円くらいするおいしそうなおにぎり。JR東海の殺風景な改札口と商売っ気のないコンコースを抜けて、24番線から乗車するのは10時04分発のこだま715号。もちろん自由席に座る。
席に着くと、いちがやさんのハンドバッグからアサヒスーパードライの缶がにょきっと顔を出してきて、驚く。
「今日寒いからさ、普通に持ち歩いてても冷えた感じで飲めるなって思って」
言い訳みたいに言うけれど、単純に喜んでいるだけだと思う。
「さーさちゃんも飲まない?」
といちがやさんは勧めてくれる。遠慮したが、
「調子のって何本も持ってきちゃって重いんだよね。飲んでくれると助かるんだけど」
と言うので、いただくことにした。
海苔弁山登りはビールとも無難に協調するいいお弁当だった。ビールを飲んでお腹の底からぽかぽかしながら、熱海まで新幹線に乗った。今日は河津に河津桜を見に行く。桜を見る前からもうお花見気分だ。
もっとも、伊豆方面に向かう踊り子号も品川から乗れるのだが、数日前の時点で満席となっている。平日なのに、臨時列車も出ているのに、だ。河津桜の集客力は相当なものであるらしい。しかし、そんな踊り子号にも湯河原や熱海が目的地の乗客がいるらしく、熱海から先の区間にわずかに空席があったので、新幹線で先回りしてそこに滑りこもうという作戦だ。
小田原で後続の列車に2本抜かれる。こだま号はとなりの線路を優等列車が通過するとき、あからさまに車体が動揺するのがいい。東北新幹線のやまびこ号なんかではあまり感じない気がする。熱海には定刻どおり10時42分に着いた。
新幹線の改札口を通って在来線のコンコースに向かうと、今日が平日であることを疑ってしまうくらいの混雑ぶりだ。そんな雑踏の中、駅弁屋さんのショーケースをのぞきこみ、吟味している女性の姿が目についた。グレーのふんわりとしたワンピースの上に、ラベンダー色の丈の短いケープコートを羽織っている金髪の女の子。現実感の薄いその出で立ちは間違いなくたかやまさんだった。
「それ、似合ってるじゃん。くくくっ」
といちがやさんがケープコートをからかうと、たかやまさんはお弁当の入ったビニール袋を丁重に受け取ってから、わたしたちのほうを向いて破顔した。
「さーさちゃんひさしぶりー」
と普段あまり聞かない高く澄んだ声で言って、たかやまさんはわたしを抱きしめた。
「おとといの朝、会いましたよ?」
「……そうだったっけ。すごい久々に会う気がする。あれ? お酒飲んだ?」「さっき新幹線の中でビールをいただきまして」
「飲ませたー」
いちがやさんがふふふと笑いながら言った。いちがやさんはお酒は好きだが特別強いわけではない。すっかり上機嫌になっている。
「この人に付き合わないでいいんだよ」
いちがやさんを横目に見て、たかやまさんが言った。この人ってなに? といちがやさん。
「でも、重そうだったので」
「重そうだったので?」
「ねえ、私のほうがよっぽど会うのひさしぶりだと思うんだけど」
いちがやさんが両腕を広げている。いちがやさんは新幹線車内でビールを2缶空けていたが、それにしては少々酔いすぎな気がした。
「そっか。じゃあちーちゃんはきれいにしてあげようか」
「ん? きれいに?」
たかやまさんがいちがやさんに右手を差し出した。鏡のついた、ピンク色の小さな布団たたきみたいな形のおもちゃを握りしめている。
「これはプリキットミラールーペ。浄化技遊びができる」
浄化技遊びとは。なんだか字面が強い。
「まーた新しいの買ったの?」
「またって言うほど買ってない。2年ぶり5度目くらい」
大人になってもプリキュアのアニメを観る人はたくさんいるだろうけれど、子ども向けのおもちゃを何回も買う人はそんなにいないのでは、と思う。
2番線ホームへ上がる。ホーム上では
「本日、踊り子号はすべてのお座席が完売となっております」
とアナウンスされている。と言っても乗車できないわけではなく、座席未指定券を購入すればデッキで過ごせるし、おそらく伊東から先はどこかしらに着席できると思うが、まあそんなややこしいことは言わないか、と思う。
10時56分発の踊り子57号は臨時列車で、使用車両はE257系5000番台である。いちがやさんとたかやまさんは1号車の海側、偶数番号のAB席に。わたしは同じ車両の後方、山側の通路側C席に着席した。数日前に予約した時点で各車両数席ずつしか空席がなく、離れてしまうのはしかたない。海側かつ窓枠のない偶数番号の座席が並びで空いていたので、ふたりのためにその席を取った。わたしは別にどの席でもいい。
今日は朝早く起きて少し眠いので、わたしはひとり離れた座席に座ってうとうとしようと思う。と言いつつ、各駅に停車するたびにすれ違う列車や景色を眺めてしまうのは鉄道ファンの性だった。網代、宇佐美、南伊東とこまめに交換があるダイヤで、臨時列車なので基本的にこちらが待つこともあってなかなか進まない。いささか退屈で、伊東周辺のもこもこした溶岩台地を抜ける前に眠りに落ちた。
景色のいい片瀬白田(かたせしらた)をゆっくりと通過するタイミングで目を覚ます。いつか駅周辺を散策してみたいと思わせる駅だが、下車する日は来るのだろうか。再び眠りに落ちて、伊豆稲取を出たところで目を覚ます。降りる支度をしているとたかやまさんが小さなトランクケースのような見た目のバッグを荷物棚から取り出しているのが見えた。普段はかぎりなく荷物が少ないので、あんなバッグを持ち歩いているのは初めて見た。たかやまさんは生活の拠点を何か所か持っている(わたしの部屋もそのうちのひとつである)ので、わたしが見たことのない持ちものを唐突に持って現れるのは特に珍しくはない。
11時59分、河津で下車する。築堤の上に作られた駅で、広いプラットホームにどこか仮設っぽさを感じる。ホーム上から築堤の法面に植えられた河津桜を眺める。桜のトンネルの下を人々がゆったりと行き交っている様子が見えるのが祝祭感があっていい。

「そのかばん、四角くてちっちゃくて、かわいいですね」
わたしが言うと、たかやまさんがうーん、とうなった。
「昔友だちがくれたからたまに使ってるだけ。あげようか?」
「それめちゃくちゃ高級なやつじゃない?」
そうなの? そうだよ、とたかやまさんといちがやさんが顔を見合わせた。
「そうなんだ。でも、あげるよ?」
たかやまさんが心底興味がないという顔で言った。
「いやいや、どうしてそうなるんですか。大事にしてください」
「ちーちゃん使わない?」
「そんないいものもらっといて気軽にだれかにあげるのダメだって」
そっか、とつぶやいたたかやまさんは、かばんを持ち上げて無表情で眺めていた。
「これくれた友だちはそんなに大事な友だちじゃないよ? いつも偉そうだし、会うたびにおみやげ催促してくるし」
たかやまさんがそうつぶやいて、いちがやさんがあきれたように
「でも友だちなんでしょ?」
と尋ねる。うん、とたかやまさんはうなずいた。

お花見に行く客と早くも帰ろうとする客となんとなく屋内にいたい人たちでごったがえす駅舎を通り抜けて、線路際から河津川の土手に出る。下流側が混んでいるのを見て、
「あっち行ってみない?」
といちがやさんが比較的空いていそうな上流側を指差して提案する。たかやまさんとわたしはうなずく。お花見に行こうと言い出したわりには、たかやまさんはどうでもよさそうだった。
「そういえば名古屋でお仕事だったんですよね?」
わたしが尋ねると、たかやまさんはぼんやりした顔でうなずく。
「知り合いと会って、お茶しただけ。仕事だけど仕事じゃない、みたいな」
「お茶会かあ」
「ミーティングってことですか?」
「そういうちゃんとしたのじゃなくて、お茶しながら、腹の探り合いをするやつ」
「腹の、探り合い!」
わたしが言うと、たかやまさんがにやりと笑った。
「そう。お互いのレバーの下あたりに手をつっこんで、なでなでし合うわけ。すごい生温かくてぬるぬるしてる」
「グロいこと言わないで」
いちがやさんが即座に反応した。
「あ、秘密なんですね?」
わたしがそう言うと、たかやまさんはすん、と元の無表情に戻った。
「うん。さーさちゃんに仕事の話なんかしない。つまんないし」

「わかるなあ。仕事のこと、一切話さない友だちって要るよねえ」
いちがやさんがハンドバッグから新しい缶ビールを取り出しながら言った。いったい何本持ってきたのだろう。
「そういうんじゃない」
「違うんだ」
「でもちょっとは知りたいですよ? 単純な好奇心というか」
わたしがそう言うと、うーん、とたかやまさんは唸って、
「ちなみに今回は、今池のコメダに行った。古いお店」
「わあ、オールドコメダですか。いいですねえ」
「あ、知ってる。レトロなコメダでしょ。なんかで見た」
オールドコメダというのはコメダ珈琲店の創業初期に営業を開始した店舗のことを言う。外観や内装やメニューが見慣れたコメダ珈琲店とは異なることで知られている。
「そこでレバーなでなでしながらアイスコーヒージュニア飲んだ」
「だからレバーなでなではもういいって」
いちがやさんが腕をさすりながら言う。本当に嫌いらしい。
「アイスコーヒージュニア?」
「冷たいミルクコーヒーにソフトクリームのせたやつ。あとはハンバーグサンドも食べた」
「本当に違うお店みたいなメニューですね」
「たまに名古屋行けるのうらやましいなあ」
ふふん、とたかやまさんはわざとらしく鼻を鳴らして腕を組んだ。

「ひだ号を鵜沼で降りて、名鉄乗って、犬山で乗り換えて、平安通まで行って、あれ? ってなった。どっち行き乗ればいいんだろってなった」
たかやまさんが言った。高山から今池へのアクセス経路についてである。
「犬山で乗り換えちゃったんですか。普通に名古屋駅まで行けばいいんですよ。そもそもひだ号を途中で降りなくても…」
わたしの鉄道ファン的乗り換え講評が始まると、たかやまさんが首を傾げた。
「別に迷っていい。ただ乗ってみたかったから」
「どうしてたかやまさんがわたしみたいなこと言ってるんですか」
私がそう言うといちがやさんが笑った。
「たかやまさんもさーさちゃんの影響受けてるってことなのかもね」
「うん」
たかやまさんが無表情なままうなずいた。当然、という感じだった。
「そうなんですか?」
「うん。だからさーさちゃんも『たんプリ』観て。おもしろいから」
「だからっていうのはよくわからないですけど」
たかやまさんが悲しそうな目でわたしを見た。…観るしかなさそうである。
しばらく歩いていると
「これさ、あんまり進みすぎても帰るの大変だよね」
といちがやさんが言った。わたしも同意する。たかやまさんは無表情でわたしたちを見つめながら、咀嚼している。たかやまさんは屋台で買った高価な牛串焼きをあっという間に口の中に収めてしまった。
東京方面に向かう帰りの踊り子号は13時18分発。お花見をするのに無駄に長い時間をとる必要はないと考えてこの時間の列車の指定席を予約してある。

お花見の締めくくりに菜の花と河津桜の写真を撮る。わたしといちがやさんが並んで花の写真を撮り、たかやまさんの元に戻ると、たかやまさんの表情が微妙に曇っている。
「どうしたの、言ってみ」
いちがやさんが言って、風に乱れたたかやまさんの前髪を指先で直す。
「なんか、ふたりを後ろから見てたら普通のふたりに見えて、ちょっと嫌だった」
たかやまさんが言う。なんだか恥ずかしそうにしている。
「わかりやすく嫉妬しますなあ」
いちがやさんも少し恥ずかしそうである。
「あと、どうして私撮らないの? 私、最高の被写体」
右手でピースサインを作って右目の前で横に構える。謎ポーズ。
「たしかに今日はキマってるもんね。じゃあ撮ってあげよう」
「ですね、こんなきれいな格好してることあんまりないですもんね」
「そうそう。撮って撮って」
たかやまさんはそう言ってそそくさと菜の花の向こう側へまわりこんだ。いちがやさんは「そうそう、じゃないのよ」とつぶやいて苦笑いしている。たかやまさんはなぜか微妙に照れながらポーズをとって、わたしたちふたりのスマートフォンとコンデジに収まると満足したようだった。
「そろそろ駅に戻りますか」
わたしがそう言うと
「ねえ、最後にソフトクリーム食べたい。ギザギザしてないやつ」
たかやまさんが提案する。
「ギザギザ?」
いちがやさんが尋ねる。
「その場で作ってないやつ。パックを置いてぐいーってするのはギザギザしてる」
たかやまさんが説明するが、いちがやさんは
「はあ、そういうのがあるんだ? へー?」
と小さい子がする話がいまいちわからない大人みたいな反応をする。
「だからね、パックに入ったアイスがあってね、それをぐいーってしてるのは滑らかさが足りないからギザギザするの」
「ぐいーって? ふーん…」
「そういう機械があるの!」
「おう。なに、なんで怒ってるの?」
いちがやさんが尋ねると、たかやまさんがにこにこしながら、
「それは、今日の私がちょっとめんどくさいから」
と腕を組んで言った。
「自覚、あるんだあ」
いちがやさんは一旦そう言ってから、
「で、ギザギザしてないソフトクリームってどうやって探すの?」
と優しく言った。
「えっとね、いろんな味があったら間違いなくギザギザでね」
たかやまさんが一生懸命話すのをいちがやさんが少々あきれつつも聞いている。たかやまさんがわたしにこんなテンションで話してくれることはなかなかないので、うらやましい。いちがやさんの聞く力、包容力、底抜けの優しさのせいなのだろう。

ギザギザしていないソフトクリームを売っているお店を探すと、すぐに見つかった。桜のソフトクリームと普通のソフトクリームがあって、ミックスは機械の故障で売っていなかった。みんな普通のミルク味のソフトクリームを注文したのが、わたしたちという感じがした。
3人でソフトクリームを食べながら、駅に向かって歩く。帰り道にバイクの臨時駐輪場があって、たかやまさんはソフトクリームを片手にバイクを眺めに走っていった。
「未だにたかやまさんとバイクが結びつかないんですよね」
「乗ってるところ見たことないもんね」
わたしたちが見守っていると、たかやまさんは息を弾ませて戻ってきた。
「高そうなバイクばっかりだった。大型バイク乗ってここに桜見に来るって、どうなんだろう?」
「別にいいと思いますけど。王道って感じで」
わたしがそう言うと、たかやまさんがわざとらしく腕を組んで考えこむポーズをして、
「えっと、皮肉?」
……、そう聞こえなくもないけれども。
「ちがいますよう。わたしたちだって来てるんですから」
「電車で来るのはいい。でもごついバイク乗って河津はなんか」
「ブーメランになりそうな話だなあ」
いちがやさんが言った。たしかに、と思わずうなずいてしまう。
「そんなことない。電車は不自由だから、どこ行ってもいい。私もクロスカブだから、どこ行ってもいい」
たかやまさんがきっぱりと言った。
「でも、それってあなたが普段テキトーな服着てるのと同じじゃない?」
「あ、ブーメランってそういう…」
いちがやさんの言葉にわたしが感心していると、
「ちーちゃんに褒められた。照れる」
たかやまさんがそう言って、へへと笑った。無敵だった。
河津駅に戻って帰りの踊り子6号を待つ。向かいのホームに伊豆急下田行きの下り臨時特急「みなみの桜河津桜高尾号」が入線してきた。この列車は主に土日祝日に運行される踊り子7号のスジを使った臨時列車である。

その後すぐに反対側から私たちの乗る踊り子6号がやってきて、臨時特急がすれ違うように出ていく。踊り子6号はまだ帰る時間には早すぎるのか、山側の席ならまとまって確保できた。着席して発車を待つが、すぐには発車しない。下りのサフィール踊り子1号を待ち合わせて、定刻の13時18分に発車した。

その後は小田原まで踊り子号に乗って、ミナカ小田原という新しい複合施設にある海鮮がメインのお店でごはんを食べて、ロマンスカーに乗って帰った。
ロマンスカーの車内でたかやまさんは眠ってしまい、いちがやさんとわたしは互いの身の上話をした。常識人のいちがやさんにも苦悩があって、頭のいいたかやまさんにもどうやらうまくいかないことはありそうで、ふたりに比べてわたしはずいぶん気楽に生きているらしいということが、いいことなのか悪いことなのか、今のわたしにはわからなかった。
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