【ピリカ文庫】タンポポの思い出
あれは確か、一学期の中間テストのあとだ。公園で一心不乱にタンポポの綿毛を吹く少女を見た。
同じ学校の制服だ、何してるんだ?
そうっと後ろに回りこんで声を掛けてみた。
「なにしてんの?」
声に驚いて振り向いた彼女は、隣のクラスの空野マキコだった。
「びっくりした!」とびきりの笑顔を見せながら「恋占い!あのね、綿毛を吹いて一度に全部飛んだら恋が叶うんだって」
「へぇー、初めて聞いたよ。てかさ、何人好きな人いるの?」地面にはおそらくマキコが吹いたであろうタンポポの茎が数本転がっていた。
「へへ、ひとりだよ。でもね、中々上手く飛んでくれなくてさ、ダメかなって思って。これが最後の1本」
そんなのって普通は1本だけでするんじゃないのか?と思いながら最後の1本を吹くのをブランコに乗りながら眺めていると…。
「やったー!キレイに飛んだ!」ふわふわ飛ぶ綿毛の中をくるくると舞うマキコにしばらく見惚れていた。
「叶うといいね、そんなに想われるヤツがうらやましいよ。」ブランコからポンッと飛び降りておめでとう!とハイタッチをすると、「うん!ありがとう!叶うかはわからないけどさ」不意に顔を赤らめてマキコが意を決したように「あのね、アキラくんに届くようにって願ってたの。」「え!?オレ?」「うん!実はここを通って帰るの知ってたんだ。ま ち ぶ せ」…突然の告白に面喰らったものの悪い気はしない。
きっかけはいきなりだったが、そんな事からマキコと付き合うようになった。
とにかく明るくてよく笑うマキコと人付き合いの苦手な俺。
アンバランスと言われながらも、夏休みが来て体育祭に修学旅行…。彼女がいるといないのでは、全く景色の違うイベントをタンポポのおかげで過ごせることになった。
ビバ青春!
ある晴れた日、屋上でマキコが作ってくれた弁当を一緒に食べていると不意に「ねぇ、卵焼きって甘いのが好き?」と聞かれて「うん。確かにうちのは甘いけど、これはこれで十分美味しい」
「そっか、なら良かった」にっこり笑うマキコは俺にとってまさに天使だった…。
それから数年後、マキコと一緒になった。人付き合いが苦手で連絡が一番取りにくいヤツだった俺にとって社交的なマキコは眩しくてそれでいて学ぶところも多く、子宝にも恵まれますます満ち足りた日々を過ごしていた。
そう、ずっと続くと信じていたのに…。
気がついたときにはもう手の施しようがないところまで病気は進行して、後は静かに自宅で過ごしてくださいと主治医に告げられた俺にできることは落ち込むこと、息子の世話をすることだけだった。
久しぶりに太陽を浴びたい!息子を保育園に送った後、マキコにせがまれて車椅子で近くの公園に行った。
「ねぇアキラ、わたしが居なくなっても泣いちゃ嫌だからね。」まだ黄色いタンポポを摘まみながらマキコが言う。
「シュンだってまだ小さいもの、できたら再婚してね」「なにをバカなこと言ってるんだよ」「真剣だよ、残った時間もそうないから今のうちに言っておくね!」そう言いながらタンポポをくるくる回して「タンポポの花言葉ってね、誠実とか幸せって言うんだって綿毛には別離っていうのがあるらしいけど、わたし、幸せだよ。ずっと誠実に愛してもらったから。恋占い叶ってからずっとね。今日は甘い卵焼き作ってあげるから一緒に食べよ」
その日から坂を転がるように具合が悪くなり、数日後、小さな箱に入って帰ってきた。
「とうしゃん!タンポコ!」シュンが公園で、タンポポを見つけた。
「ふーしていい?」綿毛になったタンポポをシュンが持って言う。
「いいよ、やってみて」「とうしゃんも一緒にふーしよ!」
ふたりで並んで綿毛を吹くとパアーッと飛ぶタンポポ…。
「かあしゃん!」シュンの指差す方を見るとまだ若いままのマキコがいる。
「アキラ!シュンを頼んだよ!」そう言うかのように綿毛に乗ってマキコは行ってしまった。
「かあしゃん、また来てくれるかなぁ」「きっと来るよ。そのときはまた、ふーしような」「うん!」
マキコ…俺、再婚なんてしないよ。ひとりで育ててみせるさ。見ててくれよな!
溢れる涙を堪えながら空を見上げると一つの綿毛が「わかったよ!」とでも言うように遠くに飛んで行くのが見えた。
ふたりを繋いだタンポポ…。毎年ここで綿毛を吹こう。やがてひとりになるときが来たらマキコが迎えに来てくれるだろう。
完
(1818文字)
★ピリカさんからの突然のお声掛けに、驚くやらわたしで良いのかと慌てるばかりで😅
★心を込めて一気に書き上げました。
お読みくださってありがとうございました!
