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能を見る席

能楽堂の研修時代の思い出はたくさんあるが、観能も研修のひとつであり、脇正面に研修生席があった。
後方の御簾のある席で、今では一般に販売されている。

脇正面に座ると、当然ワキの正面にいることになり、薄暗い中ではあるが、観能中にいねむりをすると「おまえら、寝てただろ」と先生に笑われる。
さすがにいねむりをすることはしかたないと達観されているのか、それ以上何を言われることもないのだが、以後、ワキ座に先生のいるときは寝ないように気をつけた。

御簾といえば、地謡の後ろにもあり、楽屋での研修が始まると、観世能楽堂などでは地謡の後ろの御簾の中から能を見ることになった。
なかなか貴重なアングルではあるが、やはり見にくい。
おまけにタイミングを見て、楽屋側に戻る必要もあり、ゆっくり見ることはなくなった。
着付けの手伝いや片付けもするので、無駄にバタバタ立ち回っていた。

平日が国立で研修、土日が楽屋で研修。
これは結構忙しかったが、ヒマだと我慢できることも忙しくなると耐えられなくなってくる。
自分が研修生をやめたのもそういう流れではなかったかと思うが、我慢して続けることさえできなくなったタイミングだったのだろう。
あれ以上、あの世界に身を置くことは今考えても、自分がかわいそうであった。

しかし、何をやってもうまくいかないというのが本音で、大阪に行ってもあかんかったし、戻った東京でもだめ。
こういう時代も振り返れば、良き時代になるのだが、当時はそんな悠長なことは言っておれず、すがるようにエロ本屋の編集部におさまったのである。

能は数年見なかった。
国立でチケットを買って、脇正面以外で見た時、全然見やすいと思った。
能は正面から見るもので、横から見たり、柱の影から見るような席はあかんのやなと感じた。
高くても正面が能を見る席だ。
まあ、どこに座ってもいねむりするのだが。
自分でチケットを買った席でも寝る。
ただし、見どころがわかってるので、謡がその前に差し掛かると目を覚ます。
能の常連客というのは、そういう不思議な見方をするものだ。

(つづく)

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