また、あったのう
おぉ、いいところに来たな。
今まさに、この石鍋の「お湯が沸く直前の音」を聞き分けておったところじゃ。
この「シュンシュン」という音が「ピチピチ」に変わる瞬間の、あの何とも言えん刹那……。
昨日は沸騰までに瞬きを五百回したが、今日は四百八十回で泡が出てきおった。
この二十回の差は、薪の組み方によるものか、それともワシの集中力が研ぎ澄まされた証か。
お湯が沸くのを待つ時間は、まさに自分自身との対話。
この無味無臭の蒸気が鼻先を掠めるたび、ワシの髭がわずかに右に三ミリほど跳ねるんじゃが、これが実に趣深い。
……ん? 湯を沸かして何を作るのかだと?
そんなことは決まっておらん。
ただ「沸く過程」を楽しんでおるだけじゃ。
なに?
そこの小瓶が気になるのかのう?
ダンジョンで拾ってきたただの空き瓶じゃ欲しけりゃくれてやるよ
