【18・終】かぐや姫の憂うつ (短編小説)
18:ヨウへの手紙
数日後、かぐやは月へ帰還した。
彼女がどうやってゴテンを抜け出し、月へ帰ったのか知る人は誰もいない。
側仕えだったヨウも、かぐやがいなくなると同時に姿を消した。
彼の居場所を知る人もまた、いない。
かぐやを育てたロウフウフは、彼女からの手紙を抱きしめて泣き暮らしていると言う。
*
庭に面した広い部屋で一人外を眺めていたミカドに、花愛君は歩み寄った。
「陛下。どうなされたのですか」
ミカドは物思いに沈んだ表情のまま、花愛君に向き直った。
「いや。ただ、思い出していただけだ」
花愛君は困惑した。
自分が眠り続けていた間に、何かあったのだろうか。
「美しい女と、香りのしないお前を」
「…」
花愛君が眠り続けていたあいだ、彼にそっくりの者がミカドの傍で働いていていたというのは、一部の者しか知らない極秘事項になっている。
「責務を全うするためには、慎重さだけでなく大胆な行動も必要だ」
ミカドは独り言のように言った。
いつの間にか庭に向かって座る彼の膝には、見たことのない白い猫が気持ちよさそうに寝ていた。
*
昔使われていた道を頼りに、山道を登る。
木々が覆い茂っているため、道中は困難を極めた。
この山は周辺でも一番高い。
ヨウはしたたる汗を拭いながら、ひたすら頂上を目指した。
足が鉛のように重く感じられた頃、空が開け、広い場所に出た。
頂上だ。
ヨウはその場で大の字になり、空を仰いだ。
雲一つない青空。
このまま行けば、今夜は満月が美しく見えるだろう。
ヨウは自然と空へ手を伸ばした。
そのとき、懐から白いものが零れ落ちた。
擦り切れ、そこら中に手垢がついているが、どうやら元は高級な紙で書かれた手紙らしい。
ヨウは慌てて、その手紙を拾い、懐に入れる前に広げた。
そこに書かれているのは、流麗な文字で、三行だけ。
『月と太陽は永遠に交わらないと思っていた。だからヨウ(陽)という名前にしたのよ。月からあなたの幸せを祈っているわ。』
ヨウは読み終わると、それを強く抱きしめた。
山の頂上、この辺りでは一番月に近い場所で、彼は今日も満月を待つ。
(終)
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