【17】かぐや姫の憂うつ (短編小説)
17: かぐやの決断
部屋に帰ってきたかぐやに、ヨウが控えめな口調で問いかける。
「あのままで、良かったのですか?」
「ええ」
かぐやは暗い部屋の中でヨウの方を振り返った。
部屋の中には明かりがなく、彼女がどんな表情をしているのかは分からない。
「ヨウ、私は月へ帰るわ」
静かな部屋に、かぐやの声だけが響いた。
その声は少し震えているようにも聞こえる。
ヨウは自分の心臓の音が、今までで一番大きく聞こえた。
「…いつ、帰られるのですか?」
「次の満月の日に」
満月までは今日から数えるとあと数日だ。
かぐやはヨウを見つめた。
ヨウもかぐやを見つめた。
視線が暗い闇の中で絡まりあい、もつれ合う。
「ヨウ。お前に黙っていたことがあるの」
視線を絡ませたまま、かぐやは語り始めた。
「花愛君は私の遣いよ。人間ではない。私の力を使って妖をニンゲンの姿に変身させ、ミカドの動向を探らせていたの」
「そんな…まさか」
「本当の花愛君には、眠ってもらっているわ」
ヨウは言葉を失った。
まさかかぐやにそんな力まであったのかという驚きと、本当のことを知らせてくれなかったことへの寂しさが一気に押し寄せてきた。
沈黙が二人を包み込む。
いつの間にか雲が月を隠し始め、沈黙を埋めるようにポツポツと雨音が聞こえ始めた。
「月人救済計画には、第五の条件があると、以前、上司に聞いたことがあるわ。公式なものではないし、本気にはしていなかったけれど」
「第五の条件…?」
「四つの条件を満たすニンゲンのオトコが、月人を『アイシテイル(愛している)』こと」
かぐやは、ヨウに向かって一歩踏み出した。
「ヨウ、お前の体のことは知っている」
「…」
「でも、試してみたいわ」
あの妖に言われたからというのが癪だけれど、という言葉は飲み込んだ。
ヨウは目を見開いて、その場から動けなくなった。
それから、泣いているような笑っているような声で言った。
「姫様は、やはり、姫様だ。強くて、使命に忠実。どんな状況でも諦めない。俺は、そんなあなたを愛しています」
二つの影が一つになったとき、雨音は一層強まった。
まるで二人を世間から隠すように。
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