見出し画像

【10】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

10:月の宮

ざわめきが一層大きくなった。

それから静寂が訪れる。

同時に、門を叩く音がゴテン中に響いた。

月の宮に一人座るかぐやも、その音を聞いた。

折しも、空の色が濃くなる頃。

黄昏時は終わりを迎えつつあった。

かぐやは頭から被った薄い布を被り直した。

布は細い糸で織られた特注品で、光を受けるときらきら輝く。

月の光が地上に届く頃には、神秘的に見えることだろう。

かぐやは心の中でチチオヤに感謝した。

この布にいくら使ったのだろうか、という疑問は紺色に染まった空に放り投げることにする。

しばらくして衣擦れの音がした。

音はだんだん近づいてくる。

かぐやは座ったまま、頭を垂れた。

オトコ用の靴が視界に現れる。

靴は想像よりも質素だ。

「頭を上げよ」

低くよく通る声が響いた。

もっとか細い声だと思っていた。

ゆっくり視線をあげる。

布越しにオトコを見て、かぐやは動きを止めた。

頭から布を取ったかぐやを見て、ミカドはハッとした。

今まで見たこともないほど、美しい生き物がそこにいたからだ。

天女、という言葉がとっさに浮かんだ。

「陛下」

天女は目線を下げたまま挨拶をした。

彼女の一挙手一投足に目を奪われる。

視線が合ったとき、黒い目に吸い込まれそうだと思った。

「…ああ」

帝は自分の口から声が漏れ出ていることに気づいて、慌てて咳払いをした。

彼女の口角がかすかに上がった気がする。

その姿に眩暈を覚えた。

「ヘイカ?」

鈴を転がすような声、とは正にこのことだ。

ミカドはうっとりしかけた自分を心の中で叱咤激励し、何とかかぐやの正面に座った。

向かい合い、月を背にして座る彼女はさらに美しい。

真っ白な肌、目と同じ黒い髪、紅く艶やかな唇。

そのどれもが、心を捉えて離さない。

ミカドは花愛君の意見もあり、多少は期待していたが、それを遥かに上回るかぐやの美しさに見入った。

かぐやはミカドをじっと見た。

鍛えられた身体、整った顔立ち、深い眼差し。

今まで求婚してきたオトコたちとは、明らかに違う。

極上のオトコである。

これで精子にさえ問題なければ、相手はミカドで決まりだ。

しかし、何事も焦りは禁物である。

ミカドが本当に条件に合うオトコかどうか、見極めなければないけない。

そのためには、もう少し距離を縮める必要があるだろう。

ただ、そう思ってはいても、かぐやにはそれが出来なかった。

ミカドのこちらを見透かすような眼差しが、怖かったのだ。

それで自然、黙ってしまった。

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

ご感想はLINE公式または、画面下部の「クリエイターへのお問い合わせ」からお待ちしております。

#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門

いいなと思ったら応援しよう!

Aoki Ichika(蒼樹唯恭) あなたの応援が、私のコーヒー代に代わり、執筆がはかどります。