【8】かぐや姫の憂うつ (短編小説)
8:噂の真偽
かぐやのチチオヤが、ミカドから便りをもらう数日前。
「それで、どうだった?」
ミカドは待ちきれないと言わんばかりの表情で、目の前に座る花愛君(はなめづるきみ)に尋ねた。
花愛君はミカドの腹違いのオトウト(弟)であり、アニ(兄)の命を受けミカドのゴテンに偵察に行っていた。
「噂にたがわぬ美しさでございました」
「本当か?この世の噂ほど、信用できないものはない」
ミカドは慎重な性格だ。
「お前を疑っているわけではないが、娘の美しさは、親たちが良い縁談のためにと誇張して流すものだから」
「お褒めにあずかり光栄でございます。しかし、本当に美しいお姿でいらっしゃいました。私がこの目でしかと見ましたから」
それを聞いてミカドは満足そうに目を細めた。
わざわざ花愛君を使に出したのは、彼が数々の浮名を流してきたからだ。
彼ほどオンナを知っているなら、きっと噂が本当かどうか見極められるはずである。
もちろん、その人となりも。
「黒く艶やかな長い髪に、透き通るような白い肌。壁の隙間から覗いたので、遠目ではありましたが、その姿はまるで天女のようでした」
「そなたが言うのなら、間違いはない。なにせそなたは、都一の色男だからな」
「ははは、恐縮です。ですが、あなたが恋敵になったら、私などかないません」
花愛君は美しいオンナに目がない。
オンナの扱いも上手いから、求められることも多く、今や都中の美しいオンナたちが、彼と関係を結んでいると言っても過言ではなかった。
一方、ミカドは政一辺倒で色恋には疎い。
正反対の性格を持つ二人は仲が良く、いつも一緒にいた。
兄弟仲が良いのは微笑ましいことではあるが、一つ弊害があった。
あまりにも一緒にいることが多いせいで、花愛君の派手なオンナ関係が一部ミカドのものとして広まるというとんでもない事態が起こっていたのだ。
ミカド本人はそれほど気にしていないようだったが、花愛君は申し訳なさを感じていたため、ミカドの頼み事は出来る限り聞くようにしていた。
「それで、他に気になる事は?」
ミカドは本題を切り出した。
かぐやについては、その美しさばかりが噂になっているが、ケッコン話はおろか浮名一つ聞かない。
求婚したオトコたちに会って秘かに聞きだしたところ、彼女から到底実現不可能な要求を出されたと知った。
これは、ケッコンする気がないとしか考えられない。
「ええ…」
花愛君は、どう事実を伝えるべきか迷った。
キゾクの姫が、肌着一枚で床に寝転がっていた、というのはあまり褒められたものではない。
少なくとも、ミカドのソクシツにはふさわしくないだろう。
「私は、この好機を逃したくない。あの古狸どもを退けるためには、新しい勢力から次期帝を輩出する必要がある。そのために側室選びは重要なのだ」
現在の政においてミカドの力は弱く、セイシツの一族が幅を利かせている。
その次に勢力を持っているのがソクシツの一族だ。
「存じています。そのために、新興勢力である竹取家に白羽の矢を立てたのでしょう」
「ああ。表向きは、美人好きの私がかぐや姫を見て一目ぼれしてしまった、だがな」
間違った噂も役に立つ、とミカドは笑って付け加えた。
「新しい側室には、気骨のある者が欲しい。妻たちからの攻撃に耐え、私と一緒に戦ってもらわねば」
ミカドの言葉を聞いて、花愛君は決心した。
そういうことであれば、彼女に可能性はあるかもしれない。
「かのお方は、かなりくつろいだ様子で…薄着でお部屋におられました。侍女たちに聞いたところ、いつも部屋ではそのようなお姿だということです。誰の言うことも聞かないが、目上の者にこびへつらうことも、目下の者に横暴な態度をとることもないと」
「…お前、侍女とどんな関係だ」
ミカドのツッコミに、花愛君は笑って答えた。
「かなり変わった娘ではあるようだな」
「はい。しかし、普通の姫ではあなたの相棒は務まりません」
「確かにな…」
ミカドは少し考えた後、立ち上がって空にかかる月を見上げた。
「面白そうだ。会ってみるか」
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