「なないろ」と「おかえりモネ」の共演を読み解く~紅白歌唱&シングル発売記念考察~

前クールの朝ドラ「おかえりモネ」の主題歌、BUMP OF CHICKEN「なないろ」について、ネタバレを避けつつドラマとの関係を考えていく記事です。

前回はコチラ。

他の話もすると言いつつ、すっかり別件(カクヨムでのコンテスト参加)にかまけておりましたが。BUMPが「なないろ」のCDを出し、さらに紅白でも歌ってくれるらしい……とのことで、書くなら今と決めた次第です。


ドラマ本編の振り返りも行っていますが、具体的なネタバレは避けていますので、未見のBUMPリスナーの方もお気軽にご覧ください。

本稿で取り上げたいテーマは主に3つです。
①自然・気象をモチーフにした歌詞の巧さと、それらが暗示するもの
②「記憶」「経験」を巡るBUMPらしい人生観と、リスナーへのエール
③ドラマと主題歌から感じられる、過去のBUMP曲のエッセンス

ちなみに。筆者は勿論BUMPを聴いてきた人間ですが、そこまで深いリスナーでもないかな……というレベルです(全曲は分からないし現地ライブも未経験)(ノンタイで特に好きなのは「pinkie」「才悩人応援歌」です)


ここから先。
「主人公」と書いた場合は、「なないろ」曲中での「僕」を指します。
ドラマのヒロインの場合は「モネ」と書いています。
……書き分けているんですが、やっぱり混同されていきましたね。混ざっちゃうのが面白い、とでも思っていただければ。

天気の描写の妙と、「雨」の立ち位置

ドラマが気象予報をテーマにしていることもあって、自然や気象を思わせるワードが続きます。なんといっても朝らしく爽やか、リリース開始してからは目覚ましに使っている僕です。

まず注目したいのは、TVサイズでも使われていた1番Bメロ。

昨夜の雨の事なんか 覚えていないようなお日様が
昨夜出来た水たまりが映して キラキラ キラキラ 息をしている

シンプルな雨上がりの描写……と思われるかもしれませんが、ここが凄く巧いのです。

ここで強調したいのは、「キラキラ光る水たまり」です、綺麗だってすぐに分かりますよね。その様子を「息をしている」と表現しているのも良い。
その情景を作っているのは、「いま出ている太陽」と、「水たまりを作った、昨夜の雨」です。

つまりこの曲において、「雨」と「お日様」は対立の関係というより、協奏する関係にあります。性質は正反対だけれども、融合することでプラスを生み出す組み合わせ。この協奏関係に着目しているのも、それをスマートに描いているのも、巧い。

「雨」「お日様」が両方あって出来るものが、もう一つ。
タイトルにも表わされている「虹」ですね。探すもの、取り戻したいものとして描かれています。

さらに、主人公が備え持ったものとして「傘」も登場しています、もちろん「雨から身を守るもの」ですね。

つまりこの曲において「雨」は、
・太陽と同じく、幸せのために必要なモノ
・しかし自分を傷つけることもあるため、警戒が必要なモノ
として描かれています。

「雨」「お日様」から浮かぶ、自然と人間との関係性

ここまででも充分面白いのですが、さらに深く読み込んでみましょう。
(以降は僕の解釈が強く出ています、公式の意図と食い違う可能性もあることはご了承を)

「おかえりモネ」を振り返ると。
自然の脅威と恵みを共に描いた上で、「恵みをより豊かに」「脅威による被害を最小限に」することを目指すプロたちの話、という側面は大きいでしょう。気象予報士をはじめ、林業・水産業に関わる人が多く登場していました。

それを踏まえると、歌詞での「雨」は「自然・環境」を表わしていると取れます。恵みと脅威のどちらかではなく、両方を併せ持った概念として。
そもそも、ドラマにおいて「水の循環」は何度も強調されてきましたからね。海も、空も、大地も、水を介して繋がっている。その水を運ぶのが雨です。

であれば、雨と対比される「お日様」は人間サイド、より絞ると「人間の営み、人間の強さ」なのでは……と思いました。対比だけでなく、他の歌詞からもそう感じられます。
ここで注目したいのは2番Bメロ。

治らない古い傷は 無かったかのように隠す お日様が
昼間の星と同じだね 本当は キラキラ キラキラ この街中に

ドラマにおいて「傷」として描かれていたのは、災害による喪失や痛みです。震災から数年経った宮城の海沿いの街で、人々は元気に生活を営みながらも、奥底には癒えない傷を抱えていた……という構造が随所にありました。
「傷を隠しているお日様」は、こうした人々の営みや力と重なって見えます。

その「お日様」は「昼間の星」につながっています。
星が見えるのは夜、そして歌の主人公は「夜を越えて」、朝を迎え昼に進んでいます。
夜=苦難の時……と捉えると。
「お日様」は、
・苦難の時にこそ存在が際立つモノ
・平穏が戻っても存在し、苦しい記憶に蓋をしているモノ

という解釈ができます。
自然の脅威を乗り越え、生活を支えつつ、悲しみの記憶を秘めている……そんな人々の強さが「お日様」に表れていると感じます。

すると、「キラキラ キラキラ」の意味合いも広がってきます。
1番Bメロは、自然と人間の生かし合いへの祝福
2番Bメロは、自然に翻弄されつつも逞しく生きる人間への賛歌
ラスサビ直前は、人間による克服が進む中での自然への敬意
……といった所でしょうか。ポップな擬音に込められた意味、考えてみるともっと面白いのでは。

そして「雨」も「お日様」も「虹」も包む、大きな存在としての「空」です。シンプルに、「空」は社会・世界全体を指すと読んでいいかな……

ここで1番と2番のサビを比べてみましょう、

高く遠く広すぎる空の下 おはよう僕は昨日からやってきたよ

「すぎる」と言っているので、壮大さに圧倒されているんですよね。果てしないことに戸惑いつつも、前向きに進んでいこうとしている。

涙の砂 散らばる銀河の中 疲れた靴でどこへだって行ける

空から銀河にスケールアップ、その上で「どこへだって行ける」と強気です。旅の中盤に差し掛かり、疲れものし掛かる中で、それでも闘志は高まっている。ドラマでのモネの成長とも繋がりますね。


モネの旅路と「傘」と「虹」

ここまで読み解いていくと、「傘」が示すものも浮かんできます。
自然の脅威から人を守るもの……モネたちが磨いていく、気象予報の技術です。他の分野も含め、「自然と向き合う」プロたちの象徴。

その根底にあるのは「失くせない記憶」です。
ドラマでは、ゆっくりと時間をかけながら、震災の傷跡に向き合っていました。二度と会えない絶望、何も出来なかった悔しさ、変わらないことへの諦め……など。ドラマで最も重視されてきたテーマだと思います。
悲しみを乗り越えながら、悲しみを繰り返さないために、それぞれの場所で「傘」を作り上げる。

その「傘」は、今は「鞄の中」です。つまりは使われていない。
それを踏まえると、「なないろ」はあくまでも平時の歌です。有事の後、次の有事に備える平時。過去は変えられないとしても、未来を守るために努力を重ねる現在。

そして、「傘」と共に主人公が探すのは「あの日の虹」「あの日の七色」です。
「虹」も「水たまり」も、「雨」と「お日様」の両方があることで作られるモノ……という点は同じです。

ただ、存在する時制が違うんですよね。
曲中に登場する自然ワードの中で、「虹」だけが現在にありません。過去に見た、そして未来に探すモノです。ドラマにおいては、モネが取り戻したいと願うモノ。

同じ成り立ちでありながら、「水たまり」と「虹」を決定的に分けるものは何か。過去の傷により、現在から失われてしまったものは何か。

自然への感謝や人への愛情……という感情の「純粋さ」だと、僕は解釈しました。
震災後を描いたドラマにおいても、喜びはたくさん描かれていました。悲しみを抱えつつも、ポジティブな感情が全編に描かれたドラマです。

けど、どうしても、影がついて回りました。
嬉しい、楽しい、愛しい、誇らしい、美しい……「けど、あの頃とは違う、あの人はいない」という喪失が離れてくれない。

自然と人間の織りなす恵みや幸福を、影のない心で喜べたのは喪失以前だけでした。
だからこそ、その喪失を繰り返さないように進み続けた先で、きっと、かつての純粋な喜びが待っている。
自然の美しさに胸を躍らせること、海と陸の恵みに感謝すること、それらを人と分かち合うこと。そうした喜びを純粋に喜べることが、自分らしくありのままで喜べることが、「なないろ」に表わされる感情です。
モネたちが目指し、少しずつ取り戻していく感情です。

震災に限らず。大きな傷の跡は、心に長く残ります。死ぬまで、かもしれません。
だからこそ、安易に「傷が治った」としないことに、作り手の誠実さを感じました。
同時に、いつかの未来に希望を見いだしたことに、人の強さへの信頼を感じました。

スライド

人生は戻れない、それでも同じ命で続く

ここまで書いたように、過去を惜しみながらも未来へ進んでいく……という構図が重要なテーマでした。勿論、歌でも強調されています。

1番サビで「僕は昨日からやってきたよ」「手探りで今日を歩く今日の僕が」とあり、ラスサビでは「鞄の中で明日へ向かう」が加わっているのが、その一つ。

特に注目したいのが2番A~Bメロ。

胸の中 君がいる場所 ここでしか会えない瞳
ずっと変わらないままだから ほっとしたり たまに目を逸らしたり

明示されてはいませんが、「ここでしか会えない」「ずっと変わらない」というフレーズから、別れてしまった人(特に故人)を指しているように思えます。転じて、失ってしまったモノ全般とも取れますね。

本当に大事だったモノは、思い出の中にしかない。
それと対比されているのが1番Aメロの「よく晴れた時には時々 一人ぼっちにされちゃうから」です。
「あの日の虹」もそうでしたが、過去へのシンパシーが強調されるぶん、現在の孤独が浮き彫りになる曲です。ドラマにおけるモネの、「大事にしてくれる人は周りにいる」「けど本当に望むものが取り戻せない」という心情にも重なります。

だからこそ、「(思い出が)ずっと変わらないままだから」ほっとする、安らぎを得ることが出来る。
同時に、もう会えないことを痛感してしまうから、後悔を刺激されるから、「たまに目を逸らしたり」もしてしまう。

ドラマを観た方は分かると思いますが、震災からの再生として「故人への向き合い方」に丁寧にフォーカスしたドラマでした。決して過去には戻れないし、失ってしまったモノ自体は取り戻せない、故人その人には会えない。

思い出すと寂しいけど 思い出せないと寂しいこと
忘れないことしか出来ない 夜を越えて続く僕の旅

過去を完全に切り離せたなら、こんなに苦しい思いもしないで済む。
けど、切り離していいとは簡単に思えない……という板挟み。

何より、記憶とはままならないものです。
自分を構成する要素の中で、制御できない苦しみが最も大きいモノの一つは記憶だと思っています。思い出せない・覚えられない故の悔しさも、トラウマに襲われる苦しみも、誰もが経験していることでしょう。

だからこそ、記憶と共に生きていくからこその強さが、人生の連続性ゆえの希望が歌われます。
同じ命でずっと生きてきた自分への、つまりはリスナーへの賛歌。

疑ってしまう時は教えるよ あのときの心の色
相変わらずの猫背でもいいよ 僕は僕を笑えるから
躓いて転んだとき時は教えるよ 起き方を知っていること

記憶とは動機であり、経験としての強さでもあります。
気象予報をはじめとする、知識や技術の数々は、人類や社会が積み重ねてきた記憶ともいえます。悲しみを忘れられないからこそ、未来で悲しみを繰り返さないために、みんなが歩んでいます。

失くせない記憶も傘のように 鞄の中で明日へ向かう


BUMP版エンドゲーム、過去の名曲の面影

ここまで書いたように、「なないろ」と「おかえりモネ」は濃密に響き合っているわけですが。

BUMPファン的には「この感じ、あの曲で聴いたぞ!」となる部分が非常に多いのです。僕より聴きこんでいる人はもっと気づきそうですし。

・天体観測
かつて一緒に追いかけたものを、君と会えなくなった今も、一人で追いかけている……というストーリー、「なないろ」とも被ります。

・ダイヤモンド
過去に置いてきた自分自身を探すストーリー、生きている自分をまず尊んでほしいというメッセージ。

・Stage of ground

すれ違う誰かが落としていった涙を数えるそのたびに
「優しくなりたい」と願う 君は誰よりも優しい人 ルララ

モネじゃん……

・ロストマン
喪失からの再出発、ですからね。過去を振り返りつつ「現在地」にフォーカスを当てていく構成も似ています。

・リトルブレイバー
モネも、みんなも「守るべきものがあればリトルブレイバー」なんだよ!!!!

・supernova
出会えば別れが来る、だとしても「誰かの世界は、それがあって造られる」だし、「本当の存在は、いなくなってもここに居る」です。いま生きる人との絆の再生を描いたドラマにぴったり。

・R.I.P
世の無常、人の儚さ、「変わってしまう」現在に正面から向き合った曲。

・HAPPY

続きを進む恐怖の途中、続きがくれる勇気にも出会う

まさに「人生」を励ますフレーズ。故郷との関係を結び直す、モネの決意が浮かびます。

なんか食おうぜ、そんで行こうぜ、これほど容易く日は昇る

「なないろ」2番サビもそうなんですけど、藤くんが急に生活感を出してくるの大好きなんですよね。みんな同じ人間として生きているんだ、その日常こそ尊いんだ、みたいな。

・宇宙飛行士への手紙
ドラマのテーマの一つに、「自分が経験していない他人の痛みは、どうやっても分からない」「それでも一緒にいて支えたい、罪と思うなら許したい」がありました。そういう歌です。

・Smile
この歌は震災直後に作られています。生き残った人が、自分自身を誇れるように……という願い。
ドラマ作中においても、震災当時にどこに居たかによって精神的な分断が起こっていました。罪悪感や疎外感に負けず、まず「自分自身は味方」です。

・ウェザーリポート
タイトルがまんま天気予報。この曲でも、「あなたがあなたを許せますように」と歌われています。

・ゼロ

あの日のように笑えなくていい、だってずっとその体で生きてきたんでしょう

とかまさに「なないろ」ですよね。虹も登場しています。

・グッドラック

君の生きる明日が好き その時 隣にいなくても

旅立ちを描いたドラマには沁みます……モネは送り出される側であり、送り出す側でもありました。

・虹を待つ人
また虹です、というだけでなく。
壁に隔てられていても、人と人は手を取り合える……というエールを感じもします。

・リボン

僕らを結ぶリボンは 解けないわけじゃない 結んできたんだ

これほど「おかえりモネ」に合うフレーズもないですよ、安達さんこの曲聴きながら書いてました?? ってくらいです。


……ここに来て一気に「オタクは無い文脈を勝手に読む」が大量発生したのですが。
BUMPが歌い続けてきたテーマと、「おかえりモネ」が届けようとしていたテーマ、両者の親和性は非常に高かった……というのは、自信を持って言えそうです。

さて。ここまで6千字あまり、お読みくださりありがとうございました。
あくまでも個人の解釈、公式の意図から外れる点も多いでしょうが、皆さんにとって面白い発見になれば幸いです。

僕も含め、BUMP×朝ドラのコラボに燃えた人は多いでしょうし、そうした人にとっては感動の多い半年間だったことと思います。

しかしBUMP、つくづくタイアップでいい仕事しますよね……「友達の唄」「ゼロ」「アカシア」あたりは特に涙腺がやばいです。
そんなBUMPが、「朝ドラ担当アーティスト」というVIP待遇で紅白復活です。ドラマキャストとの絡みも楽しみですね、いい年越しになりそうです。






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