BE MY VALENTINE ❸
横顔と虹彩、竜起と深
これ↓のその後です。
「あ、ちょっと上の階見ていい?」
新作のスニーカーを見たいからと訪れた百貨店で、竜起がそう言った。
「ええよ。何見んの?」
「バレンタインの催事」
もらう一方のはずだけれど、誰かにお使いでも頼まれたんだろうか。
「めっちゃ混んでそやな」
「行ってみないとわかんないかなー」
そんなわけでエレベーターで上階に行き、人口密度が明らかにバグっているエリアに足を踏み入れる。入り口の出店マップをチェックして「こっち」と迷わずに進む竜起の背中を必死で追う。やっぱりお目当てがあるらしい。行列まではいかずとも、人だかりができている店の近くで竜起が立ち止まった。
「行かへんの?」
「人が捌けるまで待つ」
しばし待機して見通しがよくなると竜起はようやく店頭に赴き、気安い口調で「おっすお疲れー」と片手を上げた。
「おう」
ショーケースの向こうにいた店員もラフに応じる。何や、友達か。
「売れてる?」
「まあまあ。何か買ってけ」
「どーしよっかなー。なっちゃんどれにする?」
「なっちゃん……?」
店員が若干訝しげに深を見た。そう、と竜起が頷く。
「あ、なっちゃん、これ俺の弟ね。斎起くんでーす」
「えっ?」
醸す雰囲気が竜起と正反対に落ち着いていて気づかなかったが、確かに顔立ちに共通点がある。弟さんってあの、去年のマカロンの? メッセージカードの?
思考停止に陥る深と対照的に、斎起は「へー」と特に驚きも見せず、深に尋ねた。
「大丈夫でした?」
「え?」
「マカロンの味。こいつ、初めてだったから。一応できる限りつきっきりで監督はしてたんですけど」
「あ、はい、めちゃくちゃおいしかったです」
「よかった。あと、パワー系のパリピだからいろいろ大変、ていうか心配じゃないですか」
「そんなこと」
ないって、と言いかけた竜起にかぶせて「はい」と力説する。「しょっちゅう心配させられてます」
「またまた〜!」
「何で冗談やと思えんの?」
「ですよね。うちの親、こいつの幼少期に一生ぶんはらはらした結果、もう心配を全放棄しました。今は、スワンボートで南極大陸を目指すって言われても何とも思わないと思います」
「自分、親から感情奪ったん? こわ……」
「全然心当たりないんだけどな〜」
「まあ、だから無理せず捨てたい時に捨ててください」
「おい!」
「大丈夫です」
深は斎起の目を見てはっきり言った。
「俺も、一緒にボート漕ぐんで」
パティシエおすすめのチョコが入った紙袋を提げ、下りのエスカレーターに乗る。一段下にいる竜起のつむじをぐいっと指で押した。
「え、なに?」
「びっくりしたやん! 弟さんに会うんやったら前もって言うといてーや」
「ここ来て思い出したんだもん。あ、催事にいるかもって。それに、前もって言ったらなっちゃん来てくんないじゃん」
「それはそうかもしれへんけど………あんな重大なイベントをさらっと……」
「なに言ってんの」
竜起は振り返り、笑った。段差があるぶん、眼差しがいつもより水平にかち合う。
「こんなの、重大でも何でもねーよ」
「……うん」
「いやーそれにしても楽しみだなー、新婚旅行は南極かー。俺、野生のペンギン見てみたかったんだよねー。スワンボートって井の頭公園にお願いしたら貸してくれるのかな?」
「えっ?」
