BE MY VALENTINE ❶
ふったらどしゃぶり 一顕と整
「萩原、何か買ってやろうか。このまんじゅうみたいなねずみのチョコとか」
「ちいかわのことそんなふうに言ってんすか? 卵買ってくれるほうが嬉しいです。あしたの朝使うから」
「いいじゃん、買ってもらえよ俺に」
「なんでそんなに買ってくれたいんすか」
「きょう何か買い与えて一カ月寝かせといたら利子ついて返ってくるんだろ」
「言い方……じゃあ来月、俺がこのハチワレのやつ三個買ってあげますね」
「え、いらない。小菓子なんか欲しけりゃ自分で買うし」
「俺もそうなんだけど……てか、内勤の人たちのほうがこういうのデスクに常備してません?」
「そうだな、萩原ちょいちょいもらってるしな」
「え、何で知ってんすか」
「言わせんなよ恥ずかしい」
「全然恥ずかしそうじゃない……」
「ばれたか」
「ちゃんと騙してくれる気あった? いや、ありがたいですよ、小分けの非常食。外でめし食う時間ない時に駅のホームとかでささっと食べられるんで。夏場のチョコは危険すぎるけど」
「餌付けされやがって」
「人聞きの悪い。半井さんだってもらうでしょ」
「俺は断り続けてたらもう声かけられなくなったよ。旅行の土産とかも」
「……何でって、訊いてもいい?」
「そんな気遣うようなことじゃないって。単純に『いま』必要としてないものを人からわざわざもらうのが苦手なんだと思う。煩わしい。向こうも軽い気持ちだとかそういうのは関係なく」
「……ふうん」
「わかんないって顔してんな」
「半井さんぽいな、って意味ではわかってますよ、たぶん」
「ありがとう」
「てか、じゃあめちゃくちゃ腹減ったタイミングであげたらもらってくれるってこと?」
「そうかも。理論上は」
「理論上って」
「ずっと会社の中にいてそこまで空腹になることないじゃん」
「そっか、よかった」
「何が」
「餌付けされずにすむから」
「でも朝めし食べそびれたまま昼まで仕事食い込んで一時過ぎたりするとやばいかな」
「あー駄目だ、絶対あしたの朝たらふく食わせる、やっぱ卵買って卵。ベーコンも」
「必死すぎ」
「タイミングが合った誰かに餌付けされたらめちゃくちゃ懐きそうだから」
「……それさ、まんまお前のことなんだけど自覚ない?」
「え、ごめん、聞こえなかった。なに?」
「なんでもない」
「うそ、笑ってる」
「てか、俺のこと野生動物だと思ってる?」
「近いものはあると思ってます」
「よし襲う。この後めちゃくちゃ襲う」
「やった最高かよ。バレンタインだし」
そういえば金曜日だったし。あしたの朝食が昼食に(あるいは夕食に)なっちゃったっていいんだし。
