路地裏奇譚2~道の落書き
今では
土の道路はほとんどなくなって
小さな路地でも舗装されています
だから昔の子どもの遊びと
今の子どもの遊びでは
大きな様変わりをしています
昔は男の子ならビー玉とか釘投げもしました
ビー玉は小さな穴を掘る必要があります
釘投げは土でないと刺さりません
小さな女の子だったら
土をこねてままごと遊びをしていました
今の子どもたちは
舗装された道路を画用紙代わりに
チョークをクレヨン代わりに
道いっぱいにお絵描きして遊びます
でも外で遊ぶ子が少なくなったのか
道路に描かれた絵を見ることは
少なくなった気がします
道のお絵描きの話を
書いてみましょう
あきこちゃんはお絵描きが大好きでした
お外で遊ぶことも大好きでした
だからお外でよくお絵描きして遊びます
あきちゃんは近所の子どもたちのお姉さん的な立場
今日も4人ほどあきちゃんと一緒に遊ぼうと待っていました
お家から出てきたあきちゃんは
みんなに何を描いて欲しいと聞きました
花嫁さんとかお花とかワンちゃんとか
みんな口々に言いました
それを聞くが早いかあきちゃんは
ピンクのチョークでなにやら描き始めました
どうやらあきちゃんが好きなお人形さんのようです
花嫁さんを描くのはあきちゃんにはまだむずかしかったようです
花嫁さんを描いてと言った子が
花嫁さんじゃないってあきちゃんに文句を言いました
むずかしいとは言えないあきちゃん
あなたはまだ子どもでしょ
花嫁さんになるのはまだ早いからよ
なんて言ってごまかしていました
お花も描いてワンちゃんも描きました
あきちゃんは立ち上がって描いた絵をながめました
色も塗ったし人形は私みたいに可愛いし
でもワンちゃんはネコみたいと不満に思いながらも
まあよく描けたわと満足しました
お絵描きを見ていたあきちゃんのおばあちゃんは
ある人のことを思い浮かべていました
おばあちゃんの名前はゆきといいます
ゆきおばあちゃんがちょうど今のあきちゃんの年のころ
やはりお絵描きが上手な子でした
あきちゃんはゆきおばあちゃんの血を引いたのかもしれません
ゆきおばあちゃんが子どものころはまだ土の道路でした
だから木の枝や大きな釘や細い石で絵を描きました
あるときは電車の絵を描いていました
停留所を描いて待ってる人を描いて
道路を行き来する人を描いて
線路はどんどん伸びていきました
ゆきちゃんの家から次の道に出るまで続きました
ゆきちゃんはお絵描きに夢中になっていたので
どこまで線路が伸びたか知りませんでした
いつもはあきちゃんの家の周りでお絵描きしていました
お母さんからよその家まで行ってはダメよと言われていたからです
お母さんが迎えに来てやっと次の道まできていたのに気が付いたのです
すると電車の線路の絵が終わった所にある家から
おばさんが出てきて何にも言わずにゆきちゃんの絵を
持っていたホウキで掃いて消し始めたのです
ゆきちゃんはその人に手にしがみついて
消さないで消さないでと泣きながら言いました
おばさんはゆきちゃんの手を払いのけて絵を消し続けます
泣いているゆきちゃんを抱きかかえてお母さんは家まで連れ帰りました
せっかく描いた絵を消されて悔し泣きしていたゆきちゃんは
涙を拭いながらお母さんに聞きました
どうしてあのおばさんはゆきの絵を消すの
お母さんはゆきちゃんの顔をじっとみて
ゆっくり話しだしました
ゆきちゃん覚えていないかな?
あの人の家にはゆきと同じくらいの年の男の子がいたの
生まれたときから病気だったのでお外で遊ぶことがなかったの
ゆきちゃんはその子のことは知りませんでした
おかあさんは話しを続けました
その子の名前はのぞみっていうの
ゆきと同じようにお絵描きが好きで
パイロットになるのが夢だったの
飛行機の絵ばかり描いていたそうよ
ふ~んそうなの
だったらゆきが一緒にお絵描きして遊んであげたのに
そうだよね 一緒に遊べたらよかったね
のぞみくんはね お外で遊びたかったのよ
ゆきちゃんみたいに道いっぱいに絵を描きたかったって
のぞみくんの病気は年々悪くなっていく難病だったの
始めはちゃんとクレヨンを持って描いていてたんだけど
しだいに指でクレヨンを持つのも難しくなって
それでも絵を描きたいのぞみくんは
口で鉛筆の芯をくわえる方法を考えて絵を描き続けたのよ
ゆきはそんなことできないよ
すごいねその子
でどうなったの のぞみくんは
うん 小学校に上がる年の前に亡くなったの
のぞみくんのおかあさんは泣くことも忘れるほど悲しくて悲しくて
のぞみくんが描いた絵をずっと見ていたの
お外で道いっぱいに絵を描かせてあげたかった
好きな飛行機に乗せてあげたかった
なにもしてあげられなくてごめんねってのぞみくんに謝っていたの
そしてのぞみくんのおかあさんは一つのの決心をしたそうよ
もうのぞみくんの描いた絵は見ないって
絵を見ればのぞみくんのことを思い出すから
思い出したら悲しいから辛いから
胸がしめつけられるほど痛いから
ゆきちゃんが道いっぱいに絵を描いたでしょ
のぞみくんの家の前まで書いたでしょ
のぞみくんができなかったことをゆきちゃんがしてる
だからゆきちゃんが描いた絵を見たくなかったの
絵を見るのつらいから悲しくなるから
のぞみくんを思い出すから
だからゆきちゃんが描いた絵を消したのよ
のぞみくんのおかあさんの気持ちわかるよね
うん ゆきは絵を見るのも描くのも楽しいけど
絵を見るのが悲しい人もいるんだね
ゆきちゃんはそのことを心の奥にしまったのでした
ゆきおばあちゃんはあきちゃんが得意げに
道いっぱいに絵を描いているのを見るのが好き
好きな絵をお外の道で描いているあきちゃんは
幸せそのものだと思うから
チョークで道に落書きしても怒る人がいないから
誰もホウキで消したりしないから
道いっぱいにお絵描きしたあきちゃんは
疲れてぐっすり眠りました
お月さまもあきちゃんの絵を見てほほ笑んでいました
すると黒い雲がお月さまを隠してしまい
ポツポツ雨が降ってきました
雨は次第に激しくなりました
朝になりました
もう雨は上がっていました
早起きしたゆきおばあちゃんは窓を開けお外を見ました
そしてつぶやきました
雨さんが絵を消してくれたのね
またいっぱいあきに絵を描いてほしいんだね
終

