話題の東大入試数学(理科)を解いてみた
※3月6日改訂:第5問の参考解も追記しました。
2026年の東大入試数学が非常に難しいとSNS(主にXで、一部では史上最難との声も)上で話題になっていたので解いてみました(実際には毎年恒例行事として解いている)。一応、数学のプロなので解けて当然なのですが、数学的には話題になるほどの難しさではなかったなぁというのが正直な感想なものの、受験事情的には話題になるのが分からないわけでもないのでそのあたりの解説をしようかなと思います。また、第3問、第5問、第6問の自分の解答が大手予備校の解答速報とは異なる解答だったので、世界のだれかの参考になるかもということで(他に置き場がないので)私の別解をここに置いておきます。
東大数学2026は本当に難しかったのか?
結論から言うと、目新しい設定の問題が多かっただけで高度な数学的発想(閃きと俗に言う)が求められる問題は皆無でした。冷静に処理すれば既存の手法の組み合わせで突破できる標準的な出題でした。ただし、例年の如く近年の東大数学は計算量が多すぎる。個人的には最近の東大で最も重要なのは計算力(根性とも言う)だと思っています。以下、各問ごとの解説です。
第1問:被積分関数が$${\sin (\cos x - x)}$$というところが目新しく、この処理に戸惑った受験生が多かったことでしょう。なんのことはない、加法定理を使って分解すると積分の片方は置換積分で処理でき、もう片方は(1)の誘導(テイラー展開を元にした不等式)を利用して不等式を作れます。三角関数の対称性を積分計算の至るところで用いないと煩雑になるのでこれも微妙に難しいポイントだったかもしれません。いずれにせよ、設定が目新しかっただけでただただ計算が面倒な問題にすぎませんでした。理科はこれが完答できないと厳しかったのでは(多少の計算ミスはOKとして)?
第2問:これはただ正確に数えるだけの計算問題です。計算ミスしないように気を付けるだけですが、計算式がそれなりに複雑だし、最終的な答えもそれほどきれいにまとまらなかったので自分の答えに不安になった受験生が多かったことでしょう。明らかにこの問題が一番とっつきやすい問題なので出題側はこれを第一問に採用してあげれば良かったのにと思います。第1問と合わせてこれは確実に解けないといけなかったと思います。
第3問:難しいと評判だった問題。一見、どこからどうみても標準的な問題で難しそうに見えませんし、実際に様々なアプローチで解くことができるのですが、一般的なアプローチで行くと類題で見たことがないような式に辿り着き、最後の処理で手が止まった受験生が多かったことでしょう。具体的には、①(1)で求めた円上の点を$${(x, y)}$$座標で置いたまま逆手流に持ち込むか、②$${(3 + 2\cos \theta, 2 \sin \theta)}$$とパラメータ表示して逆手流もしくは自然流で解きたくなるところです。逆手流の場合、二次方程式の実数解の存在条件に帰着するパターンの入試問題が多いのですが、本問の場合①、②のどちらのアプローチでも二次方程式に帰着できないのでそこで手が止まった人が多かったと思います。実際、①では2円の交点の存在条件に、②では三角関数の合成(もしくはベクトルの内積)に気づかないと難しく、これに気づけずに完答できなかった受験生がほとんどだったに違いありません。一方、②三角関数によるパラメータ表示の元では自然流のアプローチも考えられます。具体的には、直線PQ上の点を$${(X, Y)}$$とおき、$${X = -\frac{\sin \theta}{3 + 2\cos \theta}Y + \frac{13 + 12 \cos \theta}{3 + 2\cos \theta}}$$の形にし、$${Y}$$を固定して$${\theta}$$を動かしたときの$${X}$$の増減を調べることで直線PQの通過範囲を調べることができます。この方法でもこの問題は解けるのですが、試験時間内で冷静に処理するのは困難なほどの地獄の計算が待っています(計算ミスを修正したりと検算も含めると1時間ぐらいかかる作業です)。
まとめると、逆手流➡︎二次方程式の実数解の存在条件という典型的な流れでなかった点が目新しかっただけで、2円の交点の存在条件も三角関数の合成(あるいはベクトルの内積)も標準的な内容ではありますし、自然流でも地獄の計算が待ち構えているだけなので、数学的に高度な発想が求められるほどの難問ではなかったと言えることでしょう。
ちなみに①でも②でもない別のパラメータ表示をすると逆手流でも自然流でも難所があらわれずあっけなく解決します。大手の解答予備校で扱われてないこの別解については添付ファイルをご参照ください。
第4問:$${\tan}$$で考えれば2直線のなす角は簡単に処理できるので、この立式さえできればあとはただの計算問題です。ただし、なす角自体の出題頻度があまり高くないので$${\tan}$$で処理すれば良いと気づけないと沼ります。そう言う意味で難しいと感じた受験生は多かったのかもしれませんが、数学的に難しい箇所は皆無です。ただ、これまた第4問にしては処理量がかなり多いので、あの狭い解答欄にどうやって書くのかという問題もありますし、出題側は実際に時間を測って解いてみたのだろうかと疑問に感じます。
余談:①Oでの接線とPでの接線のなす角、②Oでの接線とQでの接線のなす角の2通りだけ考えれば良いという当たり前っぽいことを厳密に論証しないといけないと考えていて、「これをきちんと説明しようとするとどう考えても解答スペースが足りないなぁ」、「出題側はどう考えてるんだろう」とか考えていたのですが大手予備校はこの論点をスルーしていました(厳密さを気にしすぎるのは職業病です)。
第5問:複素数平面自体が高校数学から消えたり復活したりを繰り返しているせいで受験生的には対策が不足しがちな上、なかなか目新しい設定の問題だったので難しく感じた受験生が多かったと思います。実際のところ偏角だけが問題なので、丁寧に場合分けして不等式処理するだけの計算問題なのですが、大手予備校の解答はやや高度な図形的発想をベースに解いていて興味深かったです(大手予備校の評価は全て「やや難」扱い)。
この発想の違いは大手予備校の方では$${z}$$を中心に考えているのに対し、私は$${w}$$を中心に考えている点にあります。$${z}$$を中心に考えようとすると複素数の$${1/3}$$乗を考えないといけなくなり、分数乗は偏角の場合分けが発生して面倒です。それを大手予備校の解答は図形的発想で乗り越えています。$${w}$$を中心に考えるとそのようなややこしさが解消されて素直に解けるというわけです。具体的には、$${w}$$の偏角の範囲が$${[0, \pi]}$$もしくは$${[\pi, 2\pi]}$$を含めば良いということです。このアプローチの解答の詳細は添付ファイルをご覧ください。
第6問:今年の東大の最難問と評判の問題です。個人的には最も簡単な問題だったので(個人的には第3問の方が難しかった)、数学のプロと受験生の差が顕著に出る興味深い問題だと思いました。個人的に最も楽しい問題でもありました。
本問を難しいと感じるかどうかは合同式の習熟度次第だと思います。合同式に慣れている方は約数を素因数分解したときに3で割って2余る素数の指数($${y_j}$$とおく)だけがポイントであり、さらにその和($${\displaystyle \sum_j y_j}$$)の偶奇だけがポイントであることを直ちに見抜けたことでしょう。これが見抜けてしまえば(2)の証明は数学的帰納法であっさりと解決します。
したがって、合同式に習熟度が高い人にとっては標準的な問題に過ぎず、習熟していない人にとっては手も足もでない難問に感じられたことでしょう。
ところで大手予備校の解答速報の解答は個人的にはやや中途半端な内容に映りました。(3)まで考えると(2)でより精密な結果を証明した方が見通しがぐっと良くなりますし、本問の背景にある数学的事実をより深く押さえることができます。添付ファイルに詳細を記載してありますので興味のある方はご参照ください。
結論:東大数学2026は標準的な出題だった
以上で見た通り、話題になった2026年の東大入試数学(理科)は目新しい出題が目立ったこと、2時間半の試験時間に対して処理量が膨大すぎるため確かに難しかったと思いますが、数学的には標準的な問題でした。
高度な数学的発想が求められるか否かで言えば、華やかだった1997-1999年頃の問題に比べるまでもないほど極めて標準的な問題だったと思います。
これはここ10年ほどの東大の出題傾向で、出題サイドの観点からすると受験生間の実力差が得点に現れやすいような問題を上手に選んでいるのだと思います(閃き重視の問題はたまたま当日気づけたかどうかに依存するので、実力差が必ずしも反映されない)。
