妄想坂道 遠藤さくら『好きだよ。いきなり。』
「翼、早く。」
「遥香、お前が歩くん早すぎるねん。」
「知らん知らん。」
「ほら、さくらも来て。」
「……うん。」

放課後。
今日も三人で帰る。
これが俺たちの日常だった。
俺、〇〇翼。
幼馴染の遠藤さくら。
そして、
中学二年の春に大阪から転校してきた賀喜遥香。
最初は二人だった。
静かなさくらと。
おしゃべりな俺。
そこへ遥香が入ってきた。
「なぁ!友達なろ!」
その一言で全部変わった。
今では三人で帰るのが当たり前。
---
「だからな!」
遥香は身振り手振りを交えながら話す。
「先生にちゃんと言わなあかんねん!」
「いやいや。」
俺は苦笑する。
「言い過ぎやって。」
「言わな分からん人もおるやん。」
「でも相手にも事情が……」
「翼は優しすぎ。」
「なぁ、さくら?」
急に話を振られたさくらは少し驚く。
「……うん。」

「ほら!」
「味方できた。」
「絶対分かってないやろ。」
「分かってるもん。」
「あはは。」
三人で笑う。
こんな時間が、
ずっと続くと思っていた。
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分かれ道。
「じゃあ明日。」
「ほな、またな。」
「……また明日。」
遥香は反対方向へ走っていく。
「バイバーイ!」
元気な声が遠ざかる。
残ったのは俺とさくら。
いつものこと。
家が近いから。
ここからは二人で帰る。
---
静かな住宅街。
「今日暑かったな。」
「……うん。」
「体育もしんどかった。」
「……うん。」
俺ばっかり話してる。
昔からそうだ。
さくらは聞くのが好き。
俺は話すのが好き。
その距離感が心地よかった。
でも、今日はさくらからも話をした
「最近さ。」
「ん?」
「翼と遥香。」
「前より仲良く話すよね。」
「え?」
「……ううん。」
「なんでもない。」

---
家が見えてくる。
「じゃあ。」
「また明日。」
「……うん。」
俺はいつものように手を振る。
後ろを向いて歩き始める。
一歩。
二歩。
三歩。
その時だった。
「……好きだよ。」
小さな声。
でも。
はっきり聞こえた。
俺の足が止まる。
「……え?」
振り返る。
さくらと目が合う。

一秒。
二秒。
三秒。
「……。」
さくらの顔が真っ赤になる。
「ち、違……」
そのまま踵を返して走り出した。
「ちょっ!」
「さくら!」
俺も慌てて追いかける。
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「待って!」
「待って!」
「待ってって!」
さくらは全力で走る。
「もう!」
「追いかけないで!」
「いや!」
「今の何!?」
「何でもない!」
「何でもなくない!」
「聞き間違い!」
「聞き間違いじゃない!」
さくらはさらに顔を赤くする。
「もう!」
「忘れて!」
「無理!」
「お願い!」
「もっと無理!」
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さくらの家の前。
ようやく足を止めた。
息を切らしながら、
背中を向けたまま立っている。
「……。」
沈黙。
夕日だけが二人を照らしていた。
俺は深呼吸する。
そして。
静かに言った。
「俺も。」
さくらの肩がぴくっと動く。
「好きだから。」
時間が止まった。
風だけが通り過ぎる。
さくらはゆっくり振り向く。
涙が出そうなくらい真っ赤な顔。
「……え?」
「だから。」
「俺も。」
「さくらが好き。」
「……。」
「ずっと。」
「昔から。」
さくらは何も言えない。
口を開いては閉じる。
その繰り返し。
「ほ、本当に?」
「本当。」
「……。」
「嘘じゃない?」
「そんな嘘つかへん。」
さくらは俯く。
そして。
小さく笑った。
「……馬鹿。」

「え?」
「もっと。」
「普通に言えばいいのに。」
「急に好きって言われたからや。」
「それは……。」
さくらは恥ずかしそうに笑う。
「私も。」
「急に言っちゃった。」
「いきなりやった。」
二人で顔を見合わせる。
思わず笑ってしまう。
「あはは。」
「ふふっ。」
---
少しだけ沈黙。
「じゃあ。」
俺は右手を差し出す。
「これから。」
「よろしく。」
さくらはその手を見る。
少し迷って。
そっと握った。
「……よろしく。」

柔らかい手だった。
ずっと握ってみたかった。
でも。
想像よりずっと温かかった。
---
その時。
スマホが鳴る。
遥香からだった。
【なぁwww】
【言うの忘れてた】
【今日さくらめっちゃソワソワしてたでwww】
【絶対今日告白するやろって思ってた】
【うまくいった?😁】
俺は思わず吹き出した。
「どうしたの?」
「いや。」
「遥香。」
「全部気付いてた。」
さくらもメッセージを見る。
「……。」
「恥ずかしい。」
「全部知ってたんや。」
二人で笑う。
俺は返信する。
【おかげさまで】
【付き合いました】
数秒後。
すぐ返信が来た。
【やっぱりーーーー!!🎉】
【ほな今度はダブルデートやな😁】
【幸せになれよーー!!】
---
「ねぇ。」
さくらが小さく俺の制服の袖をつまむ。
「ん?」
「今日だけ。」
「……うん。」
「家まで。」
「手。」
「繋いで帰っていい?」

俺は笑って頷いた。
「もちろん。」
指と指を絡める。
恋人繋ぎは、
少し照れくさかった。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
ずっとこうしていたかった。
夕日に照らされた帰り道。
幼馴染だった二人は、
今日から恋人になった。
きっかけは、
たった一言。
「好きだよ。」
その一言で、
二人の明日は、
少しだけ特別になった。



💜 Fin
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