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翼ちゃんと5期生 菅原咲月 5話「翼ちゃんの修正」

本番まで、あと十分。

スタジオの空気が一段階、張りつめる。



スタッフの声が短くなり、

時計を見る回数が増える。


菅原咲月は、

台本を握ったまま立ち尽くしていた。

(……やっぱり、ここ)

最後の一行。

意味は正しい。

内容も間違っていない。

でも――

胸に引っかかる。


その時。

「咲月」

翼が、静かに横に立った。


「時間、ないですよね」

「……はい」

「最後、読ませてください」

咲月は黙って、台本を差し出す。


翼は、ほんの一瞬だけ目を走らせた。

数秒。

本当に、それだけ。

そしてペンを取り、

最後の一行に、迷いなく手を入れる。


削ったのは、たった一語。

入れ替えたのは、語尾だけ。


「……これで」

「え?」

「意味は変わってません。

 でも、“言われてる”感じが消えます」

咲月は目を落とす。

(……軽い)

さっきまで重かった言葉が、

少しだけ息をし始めている。


「……私、

 こんな言い方していいんですか?」

「いいです」

即答だった。


「それ、

 普段の咲月ですから」



本番。

カメラが回る。

ライトが当たる。

最後のMC。

咲月は、一度だけ息を吸って、

修正された一行を口にした。


――言葉が、前に出る。

押しつけじゃない。

でも、ちゃんと届く。

スタジオの空気が、柔らかくなった。

本番終了。





「……終わった……」

咲月は肩の力を抜く。

「お疲れさまでした」

翼はいつも通り、淡々としていた。

「翼ちゃん」

「はい」

「……ありがとうございました」

「いえ」




少し間があって、

翼がふっと言う。



「小吉はさ」


「……は?」

「MCで言葉を大切にするクセにさ、

 みんなと話すとダル絡み多いよね」

「なっ……!」

「そんときみたいに喋れば、

 もっと良くなるのにね」


「翼ちゃんが小吉言うな!!」

咲月は思わず声を荒げる。


「顔は可愛いクセに、

 そんな悪い言葉使っちゃ

 ファンに嫌われますよ」


「っ……!!」

咲月の顔が、一気に赤くなる。


「翼ちゃんは一言うるさい!!」


背を向けながら、

胸の奥が、変にざわつく。

(……可愛いって、

 今さら言うなよ)


小さくて、

年下で、

生意気で。

  

でも――

誰よりも冷静で、

誰よりも頼れて、

誰よりも“見てる”。


(ドキドキしちゃうじゃん)


咲月は心の中で、叫んだ。


(……馬鹿!)



正しい言葉と、伝わる言葉。

その間に立って、

そっと背中を押すのが、翼ちゃんだった

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