飛鳥と僕 特別編『まだ見ぬ君と、今の私』
最近の翼は――
少しだけ、おかしい。
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「陽菜ちゃん」
お腹に手を当てて、
当たり前みたいに話しかける。
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「お母さんね、昔アイドルだったんだよ」
「めちゃくちゃ美人でさ」
「でもな、キス魔なんだよ」
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「ちょっと!!」

飛鳥が思わず声を上げる。
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「余計なこと言わないでよ」
「事実じゃん」
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翼は笑いながら、続ける。
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「あとね、お父さんのこと好きすぎて、
すぐ嫉妬するんだよ」
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「それも言う!?」
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そのやり取りに――
お腹が、ぽんっと動いた。
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「……ほら」
翼が嬉しそうに笑う。
「陽菜も笑ってる」
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「もう……」
飛鳥は口を膨らませながら、
そっとお腹を撫でた。
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少しの沈黙。
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ぽつりと、飛鳥が言う。
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「……最近さ」
「ん?」
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「陽菜にばっかり話してるよね」

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翼が少しだけ顔を上げる。
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「そう?」
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「……うん」
少しだけ目を逸らす。
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「私には?」
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その言葉に、
翼は何も言わず――
そっとキスをした。
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「……それで済ませるの?」
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少しだけ拗ねた声。
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「ちゃんと話してよ」
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翼は少し考えてから言った。
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「だってさ」
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「仕事は乃木坂のマネージャーだし」
「メンバーの話したら……嫉妬するでしょ」
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「……しないもん」
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即答。
でも、声が小さい。
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その瞬間――
また、お腹が動いた。
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「ほら」
翼が笑う。
「陽菜が“してるよ”って」
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「もう!!」
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飛鳥は耐えきれず、翼に抱きついた。
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「……なんかさ」
小さく呟く。
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「ちょっとだけ、悔しい」
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「え?」
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「まだ会ってもないのに」
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少しだけ笑って、
でも目は少しだけ潤んでいる。
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「もう陽菜に負けてる気がする」
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翼は一瞬だけ黙って、
それから静かに言った。
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「負けてないよ」
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「……ほんとに?」
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「うん」
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ゆっくりと、
飛鳥の頬に手を添える。
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「陽菜は“これからの家族”」
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少し間を置いて――
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「飛鳥は、“俺の全部”」
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その言葉で、
飛鳥の目から涙がこぼれた。
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「……ずるい」

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「なんで?」
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「そういうの、
ちゃんと刺さるタイミングで言うから」
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涙を拭きながら笑う。
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「昔の私だったらさ」
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少しだけ遠くを見る。
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「たぶん、こんな風に笑えてなかった」
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「……うん」
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「冷たかったし、素直じゃなかったし」
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そっと、お腹に手を当てる。
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「でも今はさ」
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翼を見上げて、
少しだけ照れながら言った。
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「こうやって、誰かを一緒に愛せるの」
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「それって、すごいことだよね」
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翼は何も言わず、
ただ優しく抱き寄せた。
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そのまま、
お腹にもう一度手を当てる。
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「陽菜」
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「お母さんね、ちょっとだけ嫉妬するけど」
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「それくらい、お父さんのこと大好きなんだよ」
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飛鳥は笑って、軽く肩を叩いた。
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「ちょっとじゃないでしょ」
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「……バレた?」
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二人で笑う。
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そして、自然にキスをした。
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今度は――
お腹に向かって。
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💜Fin
> 嫉妬は、減ったんじゃない。
“分けられるようになった”だけ。
愛する人と、まだ見ぬ命へ――
飛鳥の心は、静かに広がっていた。

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