河川敷の狐
正月太りがだらだらと春まで長引いてしまった。小躍りしたいほど嬉しい春なのに、如何せん身体が重く、まともなステップも踏めない。とりあえず軽い運動がてらに、雪が解けたばかりの河川敷を散歩する。
「どうも、調子どうですか。」
そんな時に、狐に化かされた。
「まあ、風邪も引いてないのでいいですよ。」
突然のことに驚きながらも答えてみる。
「そうですか、それは良かったです。」
人間のような世辞を言う狐だ。
「そちらは?」
しかしせっかく話しかけられたので、会話を続けてみることにした。
「ええ、こちらも問題なく、相変わらず痩せこけています。」
真ん丸な私とは対照的な、肋骨が浮き出ている身体をくるんと一回転。河川敷にひょっこり顔を出す狐は、大抵が痩せ細っているのだ。それが何故か気になり聞く。
「そんなにご飯を見つけるのは大変ですか。」
「それはもう、昔と違ってほとんどがコンクリートに覆われていますから。埋められていない所を見つけるのも、そこから掘り出すのも一苦労ですよ。」
「やはり、虫を食べるんですね。」
「ここらでは貴重なタンパク源ですから、ねっ」
ねっ、のタイミングで狐は羽虫を口で捉えていた。
「いやあ、ありがたい。この時期になると、餌が自分から飛んできてくれるから嬉しい限りです。」
くちゃりにちゃり、と汚い咀嚼音。
しかし、狐の目はこちらを見据えたまま。それにしても嫌な視線だな。そういえば、河川敷に出てくる狐はいきなり目の前に現れたと思ったら、しばらくその場に留まりじっとこちらを見てくるのだった。なんだか、獲物かどうか値踏みされているような錯覚に陥る。それに囚われ、こちらもしばらく動けない。少しすると興味を無くしたのかそっぽを向いて去っていくので、そのときになってやっと一息つけるのだ。あの野生的な感覚はどうも苦手だった。
ふと、あれは恐怖で身体が強張っていたんだと気づく。そして私に餌としての価値がなかったために去っていったことにも。
あのときの私はそれ以上近づくことを本能的に恐れていたのだ。だが今は、狐との距離は近い。
「しかし、本当に嬉しい季節になりましたね。」
狐は楽しそうに笑いながら言う。ああしまった、丸くでっぷりとした身体は動かない。春になったことだし呑気に散歩から始めようと思ったが、それがまずかった。あのときの恐怖が甦る。この狐の目の前にいるのは、わざわざ土を掘り返さなくてもいい、自分から飛び込んできた格好の獲物だ。
相変わらず、狐から目を逸らせずにいる。今回はそっぽを向く気配がない。
