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創戯旅団 理念の記録-SM奇譚 第23夜-名づけ損ねた店の季節

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店というものは、たいてい看板よりも先に、空気のほうから壊れていく。表の灯りはまだ点いている。電話も鳴る。女たちは化粧を直し、男たちは帳場で煙草を揉み消し、売上表の数字は、とりあえずまだ息をしている。外から見れば、どこにでもある夜の商いの一つにすぎない。だが、そういうときに限って、内部ではすでに、目には見えない崩落が始まっている。壁の裏側で、湿気を吸った柱が、誰にも聞こえない音で、じりじりと痩せていくように。私が思い出すのは、いつも最初に、待機室である。あの部屋は狭かった。狭いくせに、妙に深かった。古い鏡、安物のソファ、香水と整髪料と煙草の名残、誰かが半分だけ飲んで放置したペットボトルの口に貼りついた薄い水滴。そこには生活の続きのようなものと、仕事の直前のようなものとが、区別もつかずに重なっていた。女たちはそこで順番を待っていたのだが、いまになって思えば、待っていたのは出番ではなく、もっと別のものだったのかもしれない。たとえば、影響される順番。たとえば、染まる順番。たとえば、誰かの言葉が自分の骨にまで滲みこんでくる、その静かな時刻を。うちの店は、はじめから輪郭が曖昧だった。『総合SM倶楽部 厚木エレガンス』の名簿に載っている女たちが『真性痴女ハードコアコネクション グランブルー厚木』にも在籍し、客の目から見れば、同じ鏡を別の場所に移しただけのように映っただろう。だからミラー店ではないのか、と言われるのも、無理はなかった。世の中の大半は、少し似ているものを、すぐに同じものと呼びたがる。同じ娘がいて、同じような名前の店があり、似たような夜の匂いがするなら、それはつまり複製なのだ、と。人は分類によって安心する。引き出しにしまえるものを理解した気になる。だが現実というのは、整理箪笥の寸法どおりにはできていない。同じ顔ぶれが並んでいても、そこで行われることが微妙に違えば、それはもう別の店の、別の呼吸である。たとえば、同じ水でも、湯呑みに注がれた水と花瓶に注がれた水とでは役目が違う。飲まれるための水と、花を延命させるための水とでは、たしかに同じ透明をしていても、その沈黙の意味が異なる。女たちも同じだ。誰もが同じ仕事を同じ温度でこなせるわけではない。得意不得意があり、身体の向きがあり、心の皮膚の厚みがある。とくに女王様は、総じてヘルスの仕事に向かない者も多い。できないというより、そういう種類の身体の言葉を持っていない。すると、客から見える在籍表の整然とした表面とは裏腹に、実際に案内できる内容は、娘ごとに、コースごとに、まるで違う地形を描き始める。表向きの近似と、実務上の差異。その両方を抱えたまま進む店は、鏡ではなく、むしろ水面に近い。似たものを映しているようで、少し風が吹けばすぐに歪む。ただ、その歪み以上に厄介だったのが、待機室という一室だった。職種の違いは、帳簿にも料金表にも表れる。しかし、同じ空気を吸っていることの影響は、数字になりにくい。だからこそ見落とされる。私たちは、そこを軽く見ていた。店を運営するというのは、つい売上や指名本数や採用数といった、手で触れられるものばかりを数えたくなる。だが、本当に店を腐らせるものは、いつだってもっと柔らかく、もっと曖昧なかたちをしている。空気、視線、沈黙、そして声色。たかが一言、と片づけられる言葉の棘が、何人もの胸の内側に、繰り返し浅く刺さっていく。

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店というものは、売上表だけを見ていても、その本当の姿は見えてこない。
数字が落ちる前に、空気が変わる。
人が辞める前に、表情が変わる。
客が減る前に、客層が変わる。
そして、その変化の中心にあったのが、私たちが当時ほとんど意識していなかった「待機室」という空間でした。

ここから先は、私たちが当時気づけなかった、店の内部で起きていたことを書きます。
女王様とM女。
同じ店に所属し、同じ空間で時間を過ごすことで、少しずつ変質していった人間関係。
そこから生まれた、私が後になって「負のS女スパイラル」と呼ぶようになった現象。
そして、その空気が、働く女の子だけではなく、いつしか客層にまで影響を及ぼしていたこと。

さらに私たちは、そもそも「この店は何を売る店なのか」という、商売の根本すら明確にできていませんでした。
船の漕ぎ方ばかりを考えて、どこの海に出るのかを決めていなかった。
そんな、名前のない店が迎えた転機。

そこに現れた一つの助言。
そして私が、師匠に十分な相談もせず、半ば確信犯的に立ち上げた新しいコース。
「痴女」という、当時の私たちの店にはなかった新しい名前が、なぜ爆発的に受け入れられたのか。
店は、名前を得ることで初めて、自分自身の輪郭を手に入れることがあります。

ここからは、
「店が壊れていった季節」から、
「店が自分の名前を見つけた季節」へ。
その間にあった、私たち自身も気づいていなかった「店の本当の病巣」と、そこから偶然掴んだ再生の梯子について書いていきます。

そして最後には、なぜ私は今でも、厚木にもう一度、特殊風俗の店が増えてほしいと思っているのか。
これは単なる店舗運営の話ではありません。
一つの店が、自分が何者なのかを探し続けた記録です。

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