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板橋区の数学入門講座が本気すぎる。ExcelからTransformerとハルシネーションまで



こんにちは、黒パグです🐾

※見出し画像が公式のPRぽく見えますがPRではありません

Xを眺めていたら、板橋区の講座広告が流れてきました。

「ビジネスパーソンのための数学入門講座」。

自治体や公的施設が開催する、社会人向けの学び直し講座でしょう。最近は生成AI関連のセミナーも増えていますし、ChatGPTの使い方やプロンプトの基本を紹介する内容だろうと思い、何気なくページを開きました。

そこに並んでいたのは、最小二乗法、損失関数、勾配降下法、ニューラルネットワーク、Transformer、Self-Attention、そしてハルシネーションでした。

待ってください。

数学とプログラミングの予備知識は一切不要。演習はすべてExcelで行います。

では、勾配降下法とTransformerを始めます。

板橋区、何を始めているんですか。



AIを初めて触る講座ではなかった

ただし、この講座を「完全なAI初心者を突然Transformerまで連行する講座」と紹介するのは正確ではありません。

公式ページは、対象者を「AIツールは使いこなしている。次は中身を見てみたい」という人として説明しています。ChatGPTを初めて触るための入口ではなく、すでに生成AIを利用している人が、その仕組みを理解するための「次のステップ」として設計された講座です。

この違いは重要です。

現在の生成AI講座では、文章作成、画像生成、議事録、資料作成、プロンプトの工夫など、すぐ業務に使える内容が多く扱われています。それ自体は必要ですし、AIを使い始めるきっかけとして十分な価値があります。

しかし、使い続けていると、その先の疑問が出てきます。

なぜAIは、もっともらしい間違いを答えるのか。なぜ同じ質問でも回答が変わるのか。そもそも、AIが「学習する」とは何をしているのか。

板橋区立企業活性化センターの講座は、AIの使い方ではなく、その中身へ一歩踏み込もうとしています。



難しい内容を、簡単な内容にすり替えていない

講座は、最小二乗法と損失関数から始まります。

予測と正解の差をどのように測るのか。その差を小さくするには、何を変えればよいのか。そこから微分と勾配降下法へ進み、ニューラルネットワーク、Transformer、Self-Attention、ハルシネーションへつながっていきます。

つまりカリキュラムは、難しそうな単語を並べただけではありません。

誤差を測る。誤差を減らす。モデルが学習する。言葉同士の関係を扱う。そして、なぜ自然な文章を生成しながら誤ることがあるのかを考える。

一本の道として構成されています。

演習はすべてExcelです。Pythonの知識は必要ありません。大学の専門課程のように数学的証明を完全に追う講座でもありませんが、「AIは大量のデータを学習しています」と説明して終わる内容でもない。

予測値やパラメータを実際に動かし、誤差がどう変化するかを目で確認する。プログラムを書く前に、モデルが何をしているのかを体験する。

難しい内容を削ったのではなく、数式とプログラミングという二つの壁を、Excelによる可視化へ置き換えているのです。

易しく教えることと、内容を薄くすることは別である。

私はここに、ものすごく公的な黒パグ臭を感じました。

「幼稚園児向けです。ただし導出と検算は省略しません」

方向性が、かなりこちら側です。



講師の経歴を見ると、偶然ではないと分かる

講師を務める鈴木桜子氏は博士(理学)で、河合塾や早稲田塾などの予備校、複数の大学、昭和大学、東京都の職業能力開発センターなどで数学や統計を教えてきました。東京図書の編集部では、統計検定公認テキストを含む数学・統計書籍の編集にも携わっています。

大切なのは、博士が教えるからすごい、という話ではありません。

高度な専門知識を持っていることと、それを初学者が理解できる形へ変換できることは別の能力です。

鈴木氏は、予備校、大学、職業訓練、教材編集という異なる教育現場を横断しています。今回の講座でも、企業研修用に制作した教材を、一般のビジネスパーソン向けに全面的に組み直したと説明されています。

つまり、数学を知っている人ではなく、数学を他人が理解できる形へ変換してきた人を講師に置いている。

講座内容の本気度は、専門用語の数ではなく、この講師選定に表れています。

会場へ行ってもZoomを見る

講座は2026年8月8日、午前10時から午後3時まで開催されます。昼休憩と途中休憩を除くと、講義と演習は実質約3時間40分です。参加費は会場・オンラインともに9,800円となっています。

少し面白いのが、会場参加者もZoom画面を見ながら受講することです。

会場まで行ってZoomを見る。

一瞬、何かがおかしいように感じますが、Excel操作や講師の画面共有を、会場とオンラインで同じ条件にそろえるには合理的です。会場の後方からスクリーンを眺めるよりも、手元の画面でセルや数値の変化を確認できます。

録画は申込者へ2週間限定で公開され、演習に使ったExcelファイルも持ち帰れます。板橋区民だけでなく、全国からオンライン参加が可能です。

板橋区の地域講座でありながら、実態は全国向けのハイブリッド専門講座でした。

公式ページは、9,800円の受講料を「板橋区民向けの格安講座」と表現しています。ただし、これは無料の行政サービスではありません。講師謝金や事業収支、公費負担の内訳も公開されていないため、「専門家を無償で呼んだ」「税金で大幅に安くした」といった推測はできません。

それでも、約4時間の講義と演習、オリジナル教材、Excelファイル、録画公開まで含む専門講座として見れば、価格設定に一定の理由はあります。

面白い講座であることと、確認できない部分まで礼賛することは別です。



調べたら、単発の暴走講座ではなかった

最初は、板橋区の数学講座にTransformerが入っていることだけで笑っていました。

ところが、板橋区立企業活性化センターの講座一覧を見ると、数学、統計、機械学習、データサイエンス、Pythonによる業務自動化、NotebookLM、AIエージェント、生成AIによる資料作成、セキュリティ、金融、起業、子ども向け起業塾などが並んでいます。

今回だけ、数学好きの担当者が突然暴走したわけではありません。

AIを使う。業務へ導入する。データ分析やPythonへ進む。数学や機械学習の仕組みを理解する。

複数の段階が、講座群として用意されています。

これは一度きりのイベントというより、かなり小さな社会人大学に近い構造です。もちろん正式な大学ではありませんが、受講者が興味や必要性に応じて次の講座へ進めるという意味では、単発の体験会とは性格が違います。

板橋区立企業活性化センターが作っているのは、AIへの入口だけではありません。

入口を通過した人が、次に進むための階段です。

自治体のAI講座にも、それぞれの役割がある

全国の自治体関連事業を調べると、生成AI講座にはいくつかの型があります。

一般市民向けには、生成AIを初めて触る体験会。自治会や地域活動向けには、チラシ、案内文、議事録の作成。中小企業向けには、業務効率化やBPR。子ども向けには、画像生成を使った創作とAIリテラシー。就職や再就職支援では、数か月単位のデジタル人材育成。自治体職員向けでは、個人情報、著作権、出力確認、利用ルールの研修が行われています。

短時間の体験講座には、デジタルディバイドを広げないという公共的な役割があります。子ども向け講座と職員向け研修では、目的も評価基準も異なります。

したがって、「多くの自治体講座は浅く、板橋区だけが正しい」という話ではありません。

自治体の講座は、それぞれの政策課題に応じて設計されています。その中で板橋区立企業活性化センターは、AIを使い始めた社会人が、原理理解や実装へ進むための専門教育という、比較的珍しい場所を担っています。

違いは、Transformerという難しい言葉を講座名へ入れたことではありません。

体験講座の次に、理解と実装へ進む講座があることです。

「公務員の正しい使い方」の実態は、公設民営だった

最初は「板橋区の公務員が本気すぎる」と思いました。

しかし運営構造を確認すると、もう少し正確な姿が見えてきます。

センター公式によれば、板橋区立企業活性化センターは2005年4月から、民間の起業家専門組織である板橋区起業支援フォーラム有限責任事業組合、通称LLPによって運営されています。現在は同LLPが、板橋区から指定された指定管理者として、施設の管理運営を担っています。

板橋区の公式資料では、公募に応募した団体について書類審査や財務評価を行い、指定管理者を選定した経緯も公開されています。

つまり、行政がすべての講座を直接企画し、区職員がTransformerを教えているわけではありません。

行政が施設、制度、公共目的を用意する。公募と審査を経た民間組織が、センターの現場運営と講座事業を担う。

これは民間への丸投げではなく、公的な信用と民間の専門性を組み合わせる仕組みです。

ここでいう「公務員の正しい使い方」とは、役所の職員が自分で数学教材を作ることではありません。行政だけでは作りにくい学びの場を、制度によって継続的に生み出すことです。



自治体も「導入」から「教育」へ動き始めている

生成AIは、すでに一部の専門家だけが使うものではありません。

総務省『令和8年版情報通信白書』によると、日本の生成AI利用経験率は2025年度に58.8%となりました。ただし、この調査では15歳から19歳が新たに対象へ加わっており、20歳以上に限ると52.2%です。前年との単純比較には注意が必要ですが、利用経験者が急速に増えていることは確かです。

企業向け調査では、何らかの業務で生成AIを利用している割合が86.4%とされています。ただし、対象は従業員10人以上で、2025年までにデジタル化を開始した企業の管理職以上です。日本企業全体の単純な利用率として扱うことはできません。

自治体自身も、導入へ急速に動いています。

総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度)」は、全国1,788団体すべてから回答を得た調査です。基準日は2025年10月31日。生成AIを導入済みの団体は、都道府県と指定都市で100%、その他の市区町村では45.6%でした。

ここだけを見ると規模による差は大きい。しかし、実証中、導入予定、導入検討中まで含めると、その他の市区町村でも約88%が導入へ向けて動いています。

自治体は何もしていないのではありません。差を残しながらも、導入は急速に広がっています。

そして、ここからが重要です。

同調査で、生成AI導入上の課題として最も多く挙げられたのは、AI生成物の正確性への懸念でした。次に多かったのが、取組を進める人材の不足です。

つまり自治体が直面している課題は、「生成AIを知っているか」から、「生成された内容が正しいかを判断できるか」へ移っています。

人材確保の取組についても、令和6年度までは「取組をしていない」が最多でしたが、令和7年度には「職員の育成、研修会の開催など」が最多へ変わりました。

自治体の生成AI活用は、ツールを試す段階から、使う人を育てる段階へ入り始めています。

その流れで見ると、板橋区の講座がハルシネーションを単なる注意事項として扱わず、損失関数、勾配降下法、Transformerから説明しようとしている意味が見えてきます。

AIが間違えるから使わないのではない。

AIが間違える可能性を理解し、どこを人間が確認するべきかを考える。

板橋区が先取りしていたのは、生成AIの導入そのものではありません。導入後に必ず問題になる、正確性をどう判断するか、理解できる人をどう育てるかという次の課題でした。

もちろん、板橋区を神格化はしない

この講座一回で、Transformerを完全に理解できるわけではありません。数学的証明や実装を、大学の専門課程と同じ深さで扱う講座でもありません。

参加費は9,800円で、誰でも無料で受けられる行政サービスではありません。講師謝金、講座単体の収支、公費負担の内訳も分かりません。

また、全国すべての自治体講座を網羅したわけではないため、「全国唯一」「日本一高度」といった表現もできません。

それでも、公開されているカリキュラム、講座群、運営の仕組みを見る限り、板橋区立企業活性化センターが、AI利用者を次の段階へ進める教育を継続的に提供していることは確認できます。

最初に感じた「板橋区どうなっているんだ」という驚きを、そのまま礼賛で終わらせなくてよかったと思います。

入口の次に、階段を作る

最初は、自治体の数学講座なのにTransformerが出てくる。その落差がおかしくて笑っていました。

しかし、調べてみると、本当に重要なのは講座の難しさではありませんでした。

AIを触る講座の次に、その仕組みを知る講座がある。業務で使う講座の次に、データ分析やPythonへ進む道がある。便利さを知った次に、なぜAIが間違えるのかを考える場所がある。

板橋区立企業活性化センターが用意していたのは、AIを一度触るための入口ではありません。

入口を通った人が、理解し、検証し、実装するための階段でした。

易しい講座とは、難しい内容を削った講座ではない。

難しい場所まで、初めて歩く人が迷わないように道を作った講座である。

板橋区が作っていたのは、たぶん、そういう道なのだと思います。

講座の専門性だけでなく、広告の出し方まで妙にうまい。板橋区立企業活性化センターの内部には、教育企画だけでなく、集客と商品設計を理解する実務家がいるように見える


※本記事は、板橋区立企業活性化センター、板橋区および総務省が公開する資料をもとに、2026年7月時点で確認できた内容を整理したものです。講座内容、募集状況、開催条件などは変更される場合があります。参加を検討する際は、必ず公式ページで最新情報をご確認ください。


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