資産が増えても、欲しいものは増えなかった
中間管理職をやっていた頃、上司、取引先、部下…
鳴り止まない電話の対応がとにかくしんどかった。
どんなに可愛がっていた部下からの電話でも
画面に名前が出るたびに、胃が縮む感覚がいつもあった。
会社を始めたきっかけは、立派なものではなかった。
深夜の部下からの電話が僕の気持ちを後押ししたきっかけになった。
このまま誰かの組織で働き続けるより、
自分で組織を作ったらどうなるんだろう。
そう思ったのが、起業のきっかけだった。
夢があったわけでも、明確なビジョンがあったわけでもない。
ただ、自分でやってみたかった。
一度、資産がゼロに近いところまで戻った
会社を設立するとき、それまでの貯金も運用していた資産も、
全額自己資金として投入した。
20年かけてコツコツ積み上げた資産は、一度ゼロに近いところまで戻った。
もともと、老後のためと準備をしていた分で、
元手は小さかったけど、20年という時間が僕の資産を育ててくれた。複利の力を実感できた。
資産の取り崩し、
しかも、ほぼ全額を取り崩す__
人生を変えるほどの大きな岐路に立っている。
今、使わないで何の意味があるのか?と自分に問いかけた。
資産形成を始めた頃から、贅沢らしい贅沢をするのはやめていたので、
いつの間にか、車にも、時計にも、ブランド物にも興味がなくなっていた。
だからといって運用資産をゼロに戻すことに、抵抗がなかったわけではない。ただ、当時は自分で組織を作るほうに気持ちが向いていたし、
「借金」は悪いものだという考えが頭から離れなかった。
入金力が、すべてを変えた
経営を始めてから、ゼロ近くまで戻っていた資産が
サラリーマン時代より、伸びていくのを感じた。
理由は、はっきりしている。
入金力が上がったからだ。
僕は、起業のために必要だったので、田舎に引っ越した。
築古のアパート、車も持っていなかったので格安の中古車を購入。
とにかく、固定費をまず抑えること。
これは以前からやっていたので苦にならなかった。
毎月の支出をこれまで以上に抑えた。
それから、少しずつ軌道にのってきた事業からの収入が、
運用に回せる金額を押し上げてくれた。
ここ数年の株式市況の追い風も、間違いなく後押ししてくれている。
これは運の部分も大きい。
自分の実力だけで増えたとは、まったく思っていない。
ただ、入金力という土台がなかったら、
追い風が吹いても、ヨットは進まなかったと思う。
増えても、欲しいものは増えなかった
資産が伸び始めた頃、考えることが増えた。
お金が貯まれば、もっといいものが買えるようになる。
もっといい家、もっといい車、もっといい時計。
「経営者なのにそんな車に乗って会社うまくいってないの?」
と言われることもあった。
でも、自分にはその感覚がよく分からなくなっていた。
実際に自分が買えると思うようになると、不思議と
資産が増えても、買いたいものが浮かんでこない。
3万円のスーツと5000円のビジネスシューズ、長く使っている2000円のボールペン、気に入ってるトレランシューズ、毎朝のコーヒーを飲む時に使うタンブラー。
それから、何よりも健康で、以前よりも好きなことに自分の時間を使える。
縛られていない。
今、すでに持っているもので、十分満足してしまっているのに、これ以上なにが僕に必要あるのか?と思うようになった。
知り合いの経営者は、「良い物に触れてみたい」と言い、所有している物のほとんどが、僕が持っている物の何十倍もする値段のものばかりだ。
それが悪いとか、僕の考え方が美徳だとかそういう話ではない。
考え方や価値観の違いだと思う。
ただ、「いつまでこんなに働かないといけないのか?」
という言葉を聞くたびに、僕の時間単価の方がはるかに高いと感じるようになった。
自由のために必要だったのは、お金より欲望の管理
サイドFIREを目指すなかで、わかってきたことがある。
経済的な自由というのは、
資産額だけで決まるわけではない。
同じ収入・同じ資産でも、
欲望の大きさが違えば、感じる自由度はまるで違う。
毎月の支出が手取りの3割で済む人と、
9割使ってしまう人。
前者のほうが、はるかに自由に近い。
資産を増やすのは、もちろん大事だ。
入金力を上げる努力も、相場に乗ることも、これからも続けていく。
でも、欲望を小さくしていく——というより、
最初から大きくしないでおくほうが、ずっと楽だと思う。
欲望が小さいことは、不幸ではない。
むしろ、迷う時間が減る。
選択が減って、身軽になると思う。
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中間管理職の電話に怯えていた頃の自分は、
今の景色が見えていたとは思わない。
ただ、あの時に起業すると決心をした自分に伝えられることがあるなら、
「足るを知る」ということ。
自分は何をしている時が1番幸せなのかを絶対に見失わないこと。
それがなかったら、
追い風が吹いても、たぶん気づかなかったと思う。
