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借金は悪だと思っていた僕が、2回目の融資を書類だけで通した話

昨日、金融機関の方から電話がありました。

「融資の件ですが、書類審査のみで決裁が通りました」

面談もなし、追加資料もなし。創業から5年、2回目の融資です。
50歳でサイドFIREを目指している僕にとって、残りは4年。
会社にお金を残しておく判断でした。
僕の目指しているサイドFIREは、会社を辞めることではありません。
会社が僕なしでも回る状態を作って、

「好きな時に好きな人と好きなことができるようにしておく」

そのためには、僕の側に経済的な備えがいるし、会社の側にも体力がいる。今回の融資は、会社の側の準備でした。 電話を切ったあと、少しだけ、5年前の自分を思い出しました。


借金は、悪いものだと思っていました

会社を作ったのは2021年の春です。

このとき、僕は借入を一切しませんでした。20年積み立てたインデックスファンドをほぼ全部売って、開業資金にあてました。

理由は単純で、借金は悪いものだと思っていたからです。

なぜそう思っていたかというと、理由はいくつかありますが、いちばん大きかったのは実家のことでした。

実家は自営業でしたが、僕がそこを離れたあと、事業はうまくいかずに廃業しました。事業所として持っていた不動産も、借入金の返済に充てるために売却しました。それでも返済しきれず、最終的に自己破産という形で整理されました。

すぐ近くで、借金が事業と暮らしを少しずつ削っていく過程を見ていた僕にとって、「借金=悪」は、本で読んで身につけた知識ではなく、もっと体に染み込んだ感覚でした。

「自分の財布で始められないなら、やらないほうがいい」

そう自分に言い聞かせて、20年分の積立を売りました。あの売却ボタンを押した日のことは、いまでもよく覚えています。


一冊目を読んでも、考えは変わりませんでした

20代前半のころ、『金持ち父さん 貧乏父さん』(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房)を読みました。

世界で3000万部以上売れている、お金の本の定番です。

この本には「資産と負債」の定義が書いてあります。持っているとお金が入ってくるのが資産、出ていくのが負債。そして、借金には「良い借金」と「悪い借金」があり、お金を生む投資のための借金は良い借金だ、と。

僕の親も「お金を産むものにお金を使いなさい」と言っていたし、なるほどとは思いました。それでも、心の底では納得していなかったと思います。

実家のことが頭に残っていたからです。本のページに「良い借金」と書いてあっても、自分の目で見てきたのは「借金に追われる」側の景色でした。うまくいっているときはいい。理屈はわかる、でも体は受け入れない——そういう状態だったのだと思います。

本のページを閉じてしまえば、僕はまた会社員に戻りました。毎月の給料があって、家賃を払って、積立投資を続ける。借金を「使う」場面が、自分の生活のどこにもありません。

「良い借金」という言葉は、頭の引き出しに入りました。でも、引き出しから取り出すきっかけがないまま、20年近くが経ちました。


経営相談員の方に言われたひとこと

2021年に独立しました。

最初の1年は、自己資金だけで回しました。借金を避けたい気持ちは、起業しても残っていました。

考えが動いたのは、創業から1〜2年経ったころです。経営相談員の方と話していたとき、こう言われました。

「今は問題なく回っているかもしれない。でも、5年後10年後に何があるかは、誰にもわかりません。金融機関との関係は、困ってからでは作れない。困っていないうちに、小さく借りて返す実績を作っておいたほうがいい」

それまで僕は、金融機関との関係を「困ったときの最後の選択肢」だと思っていました。借りるのは事業がうまくいかなくなったときで、できれば一生関わりたくない、と。

でもこの方の話を聞いて、見えていなかった景色があることに気づきました。順調なときに借りて返す履歴を積み上げておくことが、将来の選択肢を増やすという発想です。

1回目の融資は、このときに受けました。使い道は、当面の運転資金。実績作りが主な目的でした。


二冊目を、独立してから読みました

1回目の融資を受けたころ、もう一冊、キヨサキ氏の本を読みました。

『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』(ロバート・キヨサキ著、白根美保子訳、筑摩書房)。1冊目の続編です。

この本では、働く人を4つに分けています。E(Employee=従業員)、S(Self-employed=自営業者)、B(Business owner=ビジネスオーナー)、I(Investor=投資家)。会社員時代の僕は、ずっとEの側にいました。だから「良い借金」の話も、どこか他人事だったのだと思います。

経営者になってこの2冊目を読み直したとき、初めて借金が自分の道具として見えてきました。Bの側に立つと、お金は「貯めて使うもの」だけではなくなります。資金繰りの選択肢として、借入も、出資も、手元資金も、全部が並列の道具になる。

本を読むタイミングって、不思議だなと思いました。20代前半の僕には「良い借金」がただの言葉でしかなかったのに、経営者になった僕には、まっすぐ届きました。

実家のことがあって、長く受け入れられなかった話を、20年かけてやっと自分のものにできた、という感じです。


インフレ率と金利を、自分の財布で見るようになりました

もう一つ、ここ数年で見方が変わったことがあります。

インフレ率です。

2026年5月時点で、日銀の政策金利は0.75%、コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)の見通しは2%台。長期プライムレートは2.75%です。

数字だけ並べると地味ですが、自分の財布で考えると見え方が変わります。物価の上がり方が借入金利を上回っている期間が続いているなら、現金で持っているお金は静かに目減りしていきます。逆に、固定金利で借りたお金は、返すころには物価換算で軽くなっている可能性があります。

20代半ばから家計簿をつけていた僕は、固定費や手数料を1円単位で気にしてきました。その目線で見ると、ここ数年の日本の金融環境は、「借りる」という選択を一概に否定できなくなってきている、と感じます。

もちろん、借りすぎは別の話です。返せる範囲、無理のない金額。そこは20年積立を続けた性分が、ちゃんとブレーキを踏んでくれます。


資金繰りに余裕があると、判断力が下がりません

2回目の融資を決めたいちばんの理由は、これです。

経営者になって5年やってきて、はっきりわかったことがあります。資金繰りに余裕があるときと、ないときでは、自分の判断の質が変わるということです。

余裕があると、断れます。条件の悪い仕事を断れる。値下げ要求にも、無理に応じなくて済む。スタッフの相談にも、落ち着いて耳を傾けられる。

余裕がないと、これが全部逆になります。とりあえず受けてしまう。値段を下げてしまう。話を最後まで聞けない。

借りた資金には金利がつきます。年に数%。でも、判断力が下がって失う金額のほうが、たぶん大きい。これは数字で証明できる話ではなく、5年間自分の判断を見てきた実感です。

夜、ぐっすり眠れるかどうか。これも判断の質に直結します。資金繰りの心配がない状態で眠れるなら、それは金利を払う価値のあるものだ、と今は思っています。


事業も、投資の一つでした

5年やってきて、もう一つ気づいたことがあります。

事業は、投資の一つです。

会社の口座にお金を置いておくことも、設備を買うことも、人を採用することも、スタッフが「これをやってみたい」と持ってきた事業計画書に資金を出すことも、全部、未来に向けた資金配分です。

僕は創業時から、スタッフにこう伝えてきました。

「将来、チャレンジしたいことが出てきたら、事業計画書を出してほしい」

これは、スタッフのチャンスを応援したい気持ちと、経営判断としての規律の両方が入っています。気持ちだけで「いいよ」と言うと、あとで誰も幸せにならない。でも、計画書として整理してくれたら、僕は本気で検討します。

そのとき、会社の資金繰りに余裕がないと、応援したくてもできません。「気持ちはわかるけど、今は無理だ」になってしまいます。

2回目の融資を受けようと決めた裏側には、この考えもあります。誰かが何かを持ってきたとき、すぐに「いいね、やってみよう」と言える状態を、自分の側に作っておきたい。


書類だけで通った、ということ

昨日の電話に話を戻します。

書類審査だけで融資が通ったのは、1回目の融資をきちんと返してきた履歴があるからです。創業2年目に経営相談員の方の助言で受けた、あの実績作りのための融資です。

あのとき、面談で何時間もかけて事業の説明をしました。決算書もまだ少ない。信用は、これから積み上げるしかない状態でした。

5年経って、書類だけで通る。
金利も前回の借り入れ時よりも優遇されている。

これが意味するのは、たぶん「借りる側」としての信用がついた、ということです。お金を借りる能力もまた、5年かけて積み上げる資産なのだと、昨日初めて思いました。

借金は悪だと思って始めた経営が、ちゃんと借りられる経営に変わっていました。

来月、振込が確認できたら、まずは普段どおりの月初の作業をします。
請求書を出して、入金を確認して、給与計算をして、月次の数字を眺める。

借りたお金は、しばらくは何もせずに置いておくつもりです。
チャンスが来るまで、眠らせておく。

それくらいで、ちょうどいい気がしています。


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