サマーシチュエーション(短編小説)
2026.8.14 36℃ 65%
ワンショット、の合図で飲み始めた氷結のスイカ味の缶に、ユグドラシルみてえに染野の小指が屹立している。結露の水滴は、小指を伝って、畳に落ちる前に、サーキュレータ―の風で吹き飛ぶ、行方は西陽で見えない。サーキュレーターの後ろにはかつては凍っていたポカリスエットが何本か入れられたボウルがある。「死ぬこともエアコンの風も嫌なんだ、エアコンって、金持ちみてえじゃん」と染野は言う。染野は別に貧乏ではない。
「スイカ味は美味いって聞いたぜ」「誰から?」「お前が知らねえやつ」「これ綺麗じゃないカタチのスイカ使ってるから環境に良いんだぜ、飲んだ?」「どうせウリ臭えだろ」「あれだよ、スイカバーと一緒だよ、もうイチゴだぜ」「じゃあ一口くれよ」「……バカ口移しでやれって誰が言ったよ」「美味いべ?」「九パーだな」「アホ、四パーだよ」
窓のカーテンが揺れているのに少しも涼しくはない。僕はサーキュレーター後のポカリスエットを拝借して一息に飲む、煙草を吸いたい気分になったが、暑くてメルトダウンするから染野のループドを探そうと思うと端でバラで置かれていて、その時にシンクに沈んだ卵の殻とトマトのヘタが何個か見えて、首筋を掻く。座っている染野のベッドが僕の尻の汗で湿ってきた、それが染野の寝汗に思えて、立ち上がる。「なあガチでエアコンつけろや、耐えらんねえ」「リモコン見つけられたらいいよ」「……ハイみっけ百万円」「頼むから二十六度までな」「エアコンキンキンで煙溜まんのってガチいいよな」うーん。
染野は僕が部屋に来た二時間前から部屋の小机に向かって永遠と何枚かの硬貨を得体の知れない薬品で磨いている。窓を閉めたせいでその匂いが立ち込める、鼻に刺激がくる。僕は「それなんだよ」とは聞かないけれど、とにかく染野の大事なものなのだろう、どこかの国の硬貨だ。染野はサラリーマンだし忙しい時期だと言っていたから土産物なのだろうとまでは考えて、それ以上は興味がないから辞めた。「終わんねえの?」と聞くと「いや、終わりねえけど、お前来たし、やめるわ」と言った。「嘘だろじゃあ来た瞬間に言えばよかったわ」と言うと「別に話してはいただろ」と言って、それもそうだった。
「確かにエアコン涼しいわ……全ての思索はエアコンから生まれる」
染野は抱き締めるみたいにエアコンの風を浴びる。
*
記憶喪失。
*
2016~17 とにかく夏の夜
「今から俺の尻に打上花火挟むからよ、火ィつけてや、それで俺がバズ・ライトイヤーみてえに飛ぶから」「やだよお前ここは花火禁止だぜ」「じゃあ尿道に線香花火で耐久レースしようぜ」「もういいって」
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僕は街に立った。ネタツイみたいに言えば「ねえ、チュウ、しよ?」を早く言ったバージョンだった。エナジードリンクを大量に飲んだ象の鼻から出る噴水について考えた。
