遠い夏の日......
燃えるような暑さと灼熱の午後、
俺は新宿にある自分の事務所に戻ろうとしていた。
本当は午後も何人かと会って話を聞くつもりでいたが、
なにしろこの暑さだ。今日はあきらめた方が良さそうだ。
"昭和"が色濃く残るこの街に探偵である俺が
事務所をかまえてもうかなりの歳月が経った。
その間この街もずいぶん様変わりしたが、それでも新宿は新宿。
やはり昭和のなごりは隠せない。
「おかえりなさい。」
ようやく事務所にたどり着くと助手のけい子が
パソコン作業をしながら俺を出迎えてくれた。
英語、中国語、韓国語、フランス語、そしてドイツ語。
日本語も入れると合計6ヶ国語をあやつるバイリンガルである彼女は、
常に俺をサポートし、今では彼女なしでは
この事務所もまわらないと言ったありさまだ。
「あれ?午後も話を聞きに行くものと思ってましたけど.....。」
「いや、今日はもうやめることにしたよ。」
そうですか.......と言いながらまたパソコン作業に戻る彼女。
俺はひと息つこうと珈琲を淹れることにした。
珈琲好きである俺は、いつも飲む時はたいていブラックだ。
しかも今日のような暑さであっても必ずホットで飲む。
「よくそんな熱いの、飲めますねぇ~。」
けい子が からかい気味で言う。
俺も半ば笑いながら自分の淹れた熱いブラック珈琲を飲む。
梅雨が2,3日前に明けたらしく、
今年の夏も去年同様、暑くなりそうだ。
俺は事務所の窓から見える新宿の街並みを眺めながら
"ある事件"を思い出していた。
そう、あの時も今日のように
強い日差しの照りつける暑い夏の日だった.........
