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朝と夜のハート【もしもの始まりを、忘れないうちに】

最初のころ、送っていたハートはピンクが多かった。
彼はよく白を送ってきて、私は特に気にせず受け取っていたけれど、ある日ふと理由を聞いたことがある。

「ほんとは紫が好きだけど、紫ってちょっと大人っぽすぎるというか…勘違いされそうで迷ってた」
そう照れくさそうに笑っていた。
誰に対しても無遠慮に送るような人じゃないからこそ、気を遣ってたのかもしれない。

「そんなことないよ」って笑って返したら、その日から、彼は紫のハートをよく使うようになった。
私が水色好きだって言ったのは、もう少し後だったと思う。何気ない話題の中で「水色、落ち着くんだよね」と言っただけ。
それからしばらくして、彼の送ってくるハートが紫と水色の組み合わせになった。

画面の向こうで何を考えてたのかはわからないけど、言葉がなくても伝わる気持ちってあるんだなって思った。
“好き”とか“会いたい”って言葉よりも、日々のやり取りの中に、そういう気持ちがこっそり隠れてた。

もし、あの頃一緒に暮らしていたら、玄関のスリッパは水色と紫にしてたかな。
マグカップや歯ブラシも、自然とそうなってたかもしれない。
別に話し合ったりはせずに、なんとなく、互いが好きな色を覚えていて、選んでいたような気がする。

だけど、私たちは同じ時間にはいられなかった。
早起きの私が送った水色のハートは、彼が目を覚ますころには少し色あせて、
夜に彼が送ってくれた紫のハートも、私が見るころにはもう日が昇っていた。

同じ空にあるのに、交わらない時間みたいに。
でも、だからこそ大切に感じたのかもしれない。

ハートの色なんて、誰かにとっては何でもないかもしれない。
けれど、私にとっては、言葉よりも優しい記憶だった。

朝と夜の間で交わされた、小さな気持ちのやり取り。
それはきっと、ふたりだけが知っている色だった。

たとえ今はもう、画面の向こうにその人がいなくても、
ふとハートの色を見るたびに、あの頃の静かなぬくもりが思い出される。
誰にも気づかれないほどの、でも確かにそこにあった、やさしい気配。

言葉じゃなく、色で伝えあった記憶は、
時間を越えて、まだどこかに静かに残っている気がする。

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