三度目の席【もしもの始まりを、忘れないうちに】
あの店には、2回行った。
初めては座敷。
2回目は、テーブル席で。
お寿司屋さんらしい、ちょっと古びた暖簾と、木の匂いのする店内。
あなたは「落ち着くね」って言って、熱いお茶をふうふうしながら飲んでた。
3回目も、行くつもりだった。
「今度はカウンター座ってみたいね」って、帰り道に笑いながら話した。
でも「今度」は、来なかった。
お店はボヤで閉店して、暖簾も木の香りも、全部なくなってしまった。
気づけば、あなたとも会わなくなっていた。
——もしも、あの日の3回目が叶っていたなら。
きっと混んでて、「カウンターしか空いてないんですけど」って言われたんだろう。
ちょっと緊張しながら並んで座って、目の前の職人さんの動きを見てたかもしれない。
「今日は、何頼む?」ってあなたに小声で聞いて、
「これにしよう」って注文してくれて。
そうやって、いつもの何気ない日常を過ごしていた気がする。
あの木のカウンターの向こうに、
まだ知らない“もしも”が置かれていたんだ。
あのとき座っていたかもしれない場所に、
今でもふたりの影を、私は想像してしまう。
——それは、叶わなかった「もしも」のひとつ。
けれど、確かにそこにあった、あたたかい約束の形。
