繋げなかったから、繋げた【もしもの始まりを、忘れないうちに】
クリスマスの二日前。
ディナーを終えた帰り道、街のイルミネーションが思ったよりも綺麗で、わたしたちは少しだけ遠回りをして歩いた。
あなたはわたしの少し前を歩いていた。
駅を出て、光が静かに瞬く通り。思ったより人は少なくて、イルミネーションの明かりが、歩くたびに足元で揺れていた。
横断歩道を渡るとき、あなたがふと振り返る。
一瞬、迷うような目をして、それから何かを決めたみたいに、すっと手を差し出してきた。
わたしは、気づいていた。
でも、どうしてか胸の奥が熱くなって、顔が火照ってしまって、
素直になれなくて、あなたのその手を避けるように──
代わりに、あなたのコートの端をそっと掴んだ。
きっと、手を握るほどの勇気は、まだなかった。だけど、離れたくなかった。
あなたは、わたしのその仕草に、すぐ気づいてくれた。
何も言わずに、わたしの腕を脇の下あたりで優しく、でもしっかりと固定した。
はぐれないように。わたしが無理をしなくてもいいように。
その包み込むような力の強さは、今でもはっきりと覚えてる。
混雑を抜けて、少し歩いたところで、あなたの腕は自然と離れた。
空気は少し冷えていたけれど、心の奥にだけ、あたたかさが残っていた。
そして数分後。
人もまばらな、静かな場所で。
今度は理由もなく、あなたがもう一度、手を差し出してくれた。
わたしはその手を見て、ほんの少しだけ迷って──
気まずさをごまかすみたいに、わざと別の話題を口にした。
あなたは驚くこともなく、ただ、差し出した手をそっと引っ込めた。
それ以上、なにも聞いてこなかった。
わたしの小さな戸惑いごと、受け取ってくれたみたいに。
あの時、もしも繋いでいたら──
きっともっと早く、あなたの隣にいたかもしれない。
でも数週間後、あなたはちゃんと告白してくれた。
過ぎた季節の話をしたとき、あなたは少し照れながら言ったね。
「繋げなかったのは残念だったけど…そのおかげで絶対繋ごうって思えた」って。
もしもじゃなくて、ちゃんと続いていた現実。
あの夜の、すれ違った手は、想いを強くするための準備だったのかもしれない。
あの夜の、わたしの手。
逃げたはずなのに、
ちゃんと、届いていたんだね。
これは──
ifじゃなかったんだ。
