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あの日の気持ちは、クローゼットの奥【もしもの始まりを、忘れないうちに】

仕事帰り、少し遅くなった帰路で
ふと、あの時と同じくらいの時間になっていることに気づいた。
職場を抜けて駅に向かう途中、冷たい風と夕方の光があの時の景色と重なって──
それで思い出した。

あの日のこと。
もしあの時、日中の予定を調整していたら、
私たちの2回目の約束は、きっと少し違うものになっていたと思う。


──2回目の約束は、思っていたよりも早く決まった。
1週間後。またすぐに会えることが、ただただ嬉しかった。

でも、私は照れてしまって、「日中は予定があって。夕食だけなら大丈夫」と少しだけ遠慮した。

実際、予定はあった。
けど、それは正直、調整すればどうにでもなるようなものだった。

だから私は、こっそり予定をずらして昼の光がまだ残る時間に、服を買いに出かけた。
目的もなく服を買うには、私は少し浮かれていた。彼に会うという理由を、自分で言い訳にできるくらいには。


待ち合わせは地下鉄の出口、地上階のあたりだった。
私は先にたどり着いて、階段を上がってくる彼を見ていた。
夕方の光がちょうど彼に差し込み、少しだけ長く伸びた影が地面に映えていた。
その光は、どこか柔らかくて温かくて、思わず「ちょっとかっこいいかも」って。
そんなことを思っていたら、ふいに彼のほうから声がした。

「今日の服装、可愛いね。日中、予定あったのにありがとう」
私は「ううん」と笑って返した。
いつもより丁寧に選んだ服に、気づいてくれたこと。
ほんの少しの優しさが、胸の奥をあたためた。


前回は彼の職場の近くを歩いたから、今日は私の職場の周辺を散策した。
だけど、服を褒められたことに照れて、本当は通りたかった道が通れなかった。
話そうと思っていた小さなエピソードも、どこかに飛んでいってしまった。

冬の夜、空気は澄んでいたけれど、思っていたより風が冷たくて。
ゆったりと散策するには、少し寒すぎた。

それでも、彼は寒そうな私に歩幅を合わせてくれた。

お店は、ふたりで「ここ、良さそうだね」と入った。
注文はタッチパネル式で、彼がそれに手を伸ばしたとき──

袖が湯呑みに触れて、お茶が跳ねた。

私は濡れていなかった。けれど彼は、何度も「大丈夫?」と私を気遣ってくれた。
自分が濡れているのに、私の顔や服ばかりを気にして。

「大丈夫だよ」って笑いながら、私は黙ってしまった。
たぶんそのとき、私は彼のことを好きになったんだと思う。

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