黒目フィクション 第六話
7/16 10:39
スルガとショウゴはエノが借りているアパートの前で彼と合流した。車で郊外にあるトミタヒロシの家に向かうためだ。トミタは1965年から中西市の中学校で理科の授業を担当していた教師のようだが、その実態は謎に包まれている。エノの予想ではトミタは政府関係者で、何らかの実験を進めていたが何らかの失敗が原因で大変なことが起きて、皆殺しにされてしまったのではないか?という非常に馬鹿げた予想だった。だが、そんなバカげた予想も今じゃ信じられずにはいられない。あの森に居たのはいったい何だったのか。そして何がカズマに起こっているのか。それが知りたい。そしてカズマを助けたい。彼女の目的はそれだけだった。
「ついたでー。管理人さん曰く鍵はもう開いとるから入っても平気だとよ」
なんて無責任な管理人だろうか。とはいえすぐに家の中を調べられるのはありがたい。スルガは家の中に入っていった。ここに蜘蛛賀山に潜んでいる謎の答えがあるはずだ。
7/16 11:15
「ここに映っているのは君の父親で間違いないね?」
ノボルはホテルの監視映像を見て驚きを隠せなかった。画面の向こうには顔色を変えてない父の姿がある。2人の男女がズタズタにされた死体が見つかった部屋から出ていく父の姿が。
「あの野郎・・・どうして・・・・」
「ショックなのはわかるが、今はタカヒロさんの所在を確認しなくちゃならない。ノボル巡査、最近家庭内で何か問題はあったかね?」
「問題が多すぎる家庭ではありました。うちの親父は最悪な男です。ことあるごとに母親を殴るわ弟にまで手を出すわで、病院での性格と真逆なくそ野郎です。火曜のことです。久々に家に帰ったらアイツ弟を殴っていて、もう一発殴ろうとしたから、俺それを止めたんです。そんでそのまま家から追い出して、帰ってくんなって怒鳴り散らかしたんです。けど、そんなことされた腹いせであんなことできますか!?」
ノボルの主張は正しかった。家庭内の事情を外に向けて暴力的な手段を講じて八つ当たりするだろうか?確かに似たような事例は多いがこれは度が過ぎている。動機はわからないが容疑者であることに変わりはない。ノボルは改めて決意を固めた。
「俺が捕まえます。この男を止めます」
「アダチ巡査・・・」
タケウチ刑事が心配したまなざしを向ける。
突然ドアが勢いよく開いた。
「タケウチさん!今さっき交通課から連絡あってアダチ容疑者の車が中西市郊外で目撃があったようです!」
7/16 11:20
カズマは一階から発せられた物音で目が覚めた。じっとしているか、それとも勇気を出して外に出て逃げるか。サワコは千葉までお見舞いに行きノボルは夕方まで戻ってこないはずだ。つまり、今この家に上がり込んでいるのは父親だ。あの怪物が約束を破って帰ってきやがった。それなら今すぐ逃げ出すしかない。カズマはゆっくりとベッドから起き上がり、スマホを持ち逃げる準備を整えた。スマホがあれば万が一どこかに連れ去られても見つかる可能性が高い。
音を出さないようにドアを開け、階段の先を見る。ダイニングルームから音がする。テレビを見ているのか?テレビから流れているニュースでは、今朝発覚したホテルで発生した事件を繰り返し伝えていた。そんなのに構ってられない。ゆっくりと玄関まで歩く。
『続報です。先ほど警察関係者の取材で容疑者の身元が判明しました。容疑者はアダチタカヒロ54歳。中西市にある中西総合病院の院長です』
「お父さん有名人になっちゃたなー」
タカヒロがじっとカズマを睨みつけていた。その目は正気を失っているのか虚ろだった。カズマは後ろに下がりながら玄関に向かい慌てながら靴を履き始めた。
「お前たちが俺を信じなかったせいだ。ここまですればお前も心を開いてくれると思ったんだけどなー。なんで俺を受け入れてくれなかったんだよカズマあああああ!!」
手にナイフを握りしめたタカヒロがカズマに向かって走り込んできた。カズマは玄関の引き戸を思い切り開けて逃げ出した。
7/16 11:25
「スルガ!エノさん!なんかヤバそうなの見つけた!」
ショウゴは見つけた日記を上にあげた。
「ショウゴ、それなに?」
「博士の研究日記みたいなんだ。まだちゃんと読んでないんだけどどうして俺らが蜘蛛賀山忘れた理由もわかった」
「でかしたなサカタ君!」
ショウゴは読んでもらいたいページを開き「ここを読んでくれ」と諭した。
”実験は成功と言えるだろう。中西市の中心にある蜘蛛賀山の存在を忘れさせることに成功した。Rの催眠術は蜘蛛賀山を中間地点にすることで、Rを収容している館を中心に中西市全域に催眠を掛けるためにアンテナを設置したのが功を奏したといえるだろう。一方でRの精神的な安定性に問題があるため、このままでは破棄されるだろう。それだけはどうにかして避けなければならない。”
「R?それのせいでみんな忘れてたの?」
「そうみたいだ。この日記、日付が1969年10月5日って書いてあるから50年以上そのRってのが催眠術をかけ続けてるんだろう」
「中西市全域に催眠術って、いったい何の目的があってんなことしてんだこいつは」
7/16 11:29
カズマは必死に走り続けた。レイナの館まであとどれくらいだろうか。とにかく走り続けるしかない。すぐにでも館は見えてくるだろう。
「カズマあああああああああ!!!!」
タカヒロが後ろから追いかけてくる。獣道を駆け抜ける。早くついてくれ頼む。
7/16 11:35
スルガは資料を見つけた。Rと書かれたその資料には女の子の写真が載っていた。
7/16 11:36
「レイナさん!!助けて!!」
やっとの思いで館についたが、レイナが居ない。だが扉は開いていた。どこに逃げればいいのかわからなくなったカズマは二階に逃げ込むことにした。そういえばこの館の二階に行ったことがなかったが、今は隠れることに徹しなければならない。あの男から逃げなければ。レイナさん助けて。
7/16 11:36
”その少女は日本地図に載っていない村で発見された。調査隊が村に到着した時、村は血の海だった。村人同士が殺し合った形跡があり少女はたった一人家の押し入れに入っているところを発見された。”
7/16 11:37
カズマは二階の適当な部屋に入った。中は暗く隠れるのに最適だろう。一つ違和感を覚えた。生臭い。いや、これは血の匂い?カーテンのようなものが見えた。この先からにおいが漂っている。
7/16 11:37
”調査を進めた結果その少女の遺伝子は非常に特殊なもので、その村で代々伝わる強力な催眠術だけでなく身体機能の強化を行える遺伝子が見受けられたのだ。その能力がいかにして備わったのかは不明だか、超自然的な儀式を経由してこの能力を植え付けられたのかもしれない。その能力とは・・・
7/16 11:38
カーテンを開けた先には3つの頭部と真っ二つに切断されたタカヒロの死体があった。
7/16 11:38
催眠術を使用できなくなる代わりにカマキリのような鎌と蜘蛛のような足を腰から生やし対象を狩るに特化した殺人マシンにすることだ。
7/16 11:38
「ばれてしまいましたね」
後ろからレイナの声がした。口元を押さえつけられる。息ができない。意識が段々と遠のいておく。彼女は人間を食べるなら・・・僕は・・・
「大丈夫。あの子たちのようにちゃーんとおいしくいただきますからね」
彼女の真っ黒な目がカズマを見下ろした。
7/16 11:45
エノの車に乗り込み蜘蛛賀山で急ぐ。この資料が正しければ館に居ると思われる怪物は人を食らい催眠術までかけてくる。
「待っとれよ怪物め!!テメエの頭吹き飛ばしてやらあ!!」
速度オーバーなんて気にせず突っ走る。
「エノさん急いで!!」
「わーってる!!」
エノは蜘蛛賀山の後ろにある車用の入り口を利用して館を目指す。
「計画はあるの?」
「ああ!このまんま突っ込むんだよ!!」
7/16 12:10
アダチカズマは暗闇の中で横たわっていた。拘束具を着けられガムテープで口を塞がれている彼にできることと言えばベッドの上で喚くことだった。ベッドの上で左右に動き泣くのをこらえ物音を出し続ける。だが、誰が来る?ここは人が寄り付かない場所だ。こんなところに来てもきっと長く持たない。この1週間で自身と身の回りで起こった出来事から学んだことは、自分の命があと1時間も持たないことだ。15歳。短かった人生が今終わろうとしている。怖さで涙が溜まっていく。もうここまでだ、誰も助けに来ない。自分もあれと同じ運命を辿ることになるのだろう。涙が止まらない。鼻呼吸も荒くなる。成す術はない。足音が聞こえる。戻ってきた。カズマは目を閉じ震えながら祈った。どうかこれがただの悪夢であってほしい。目が覚めたら家のベッドで目が覚めていてほしい。どうか神様お願いです。こんなところで死にたくない。
祈る彼に細い手が伸びた。
「カズマ君、時間よ」
カズマの体が抱え込みレイナは彼をダイニングルームまで運んだ。
これが彼女が一番楽しみにしていた時間だ。生きたまま少年を食らい絶叫を聞きながらゆっくりと味わう。最初に味を覚えたのは育ててくれた研究員だった。あの人たちには申し訳なかったが、自由になるためには必要な犠牲だった。カズマの口にかぶせたガムテープを取ってあげよう。
「レイナさん!これってどういう事なんですか!?なんでなんで人を殺してるんですか!?」
「カズマ君、私はね人間じゃないの。昔からここに身を潜めていた・・・俗にいう怪物なの。どうして私が若い見た目なのか今から教えてあげる」
レイナはそう言うと、叫び始めた。叫びと同時に彼女の腰から足が生え腕はカマキリの鎌が生えてきた。今見ているのは現実なのか?それとも質の悪い悪夢か?拘束具は外れない。生きたまま食われて人生が終わるとは思ってもいなかった。祈りは届かない。
7/16 12:11
「エノさん待って!突っ込むつもり!?」
「そりゃそうだ!もう時間がないかもしれねえんだぞ!!」
7/16 12:11
「それじゃあカズマ君、いただきます」
彼女の口が大きく開いた。その口には無数の歯があり人間のものではないのが一瞬で理解した。スルガに返事を出せていないのが心残りだ。
目を強く閉じた。
大きな音が響いた。
7/16 12:11
エノの運転する車はぼろくなった館の壁を突き破った。突き破った先には怪物がいた。絶叫しながら突っ込む一同。そして怪物は車に轢かれたまま、壁に強く押し付けられた。
突然の出来事にカズマは困惑した。突然車が入り込んできてレイナを轢き壁に押し付けられている。
車からスルガとショウゴが現れた。
「カズマ!!」
スルガはカズマに駆け寄りショウゴと共に拘束具を解く。
「間に合って本当に良かった」
「2人とも何でここに?」
「そんなのいいからここから出よう!!」
2人に抱きかかえられ、カズマは車が追突してきた壁から出て行った。
エノは目の前に鎮座している怪物の頭部に恐れおののいていた。まさか本当に怪物がいるとは思わなかった。車から降りトランクの中にしまっておいた猟銃を袋から取り出す。
真っ黒な目をした怪物がエノを睨む。
「私は・・・お前なんかに・・・」
と言おうとしたのだろうがエノは口が開いた瞬間引き金を引いた。
7/16 12:14
「みんなー!もう平気やで!」
3人が銃声に驚いてしばらく経ってからエノは笑顔で戻ってきた。
「君がカズマ君か。今日はほんまひどい目に遭ったな・・・」
「あの・・・助けてくれてありがとうございました」
「礼なんてええって、ボランティアとして当然のことしたまでや。あいつも頭潰したから間違いなく死んどるな」
エノは一息つきカズマたちの隣に座り込んだ。
「ねえカズマ、これからどうするの?」
「まずは誰か来るのを待つ。こんな騒ぎだきっと誰か気づくよ」
「それ以外もあんだろカズマ」
ショウゴがツッコむ。その通りだ。こんな状況でもちゃんと答えておくべきだろう。
「なあスルガ、あの夜君が勇気をもって告白してくれたよね。俺は君の気持にこたえたい。僕も君が好きだスルガ」
「カズマ・・・!」
スルガは瞳に涙を浮かべながらカズマに抱き着いた。カズマもそれに応えるように強く抱き返した。
遠くからサイレンが聞こえる。パトカーのサイレンだ。
このあとどうなるかなんてわからない。だが、これだけはわかる。この3人ならどんな困難も乗り越えるだろう。
そして大切な教訓も得られた。いつか教えてくれた通り、どんなにでかく見せてるやつでも結局は強く見せてるだけで弱いってことだ。
完
