【実録】AirPods 4を店頭に置いて帰った話(Apple帝国のNPC 第1話)
著者:井川 晴
これは、私が所有していた「AirPods 4」の不具合を巡り、Apple 福岡の店舗およびApple本部と繰り広げた、少し奇妙で冷徹な交渉の記録である。
感情的な批判や捏造を目的としたものではない。手元に残る日時やメール履歴といった客観的ファクトと、当時の率直な観察記録を淡々と記述していく。
1. 私のささやかな日課と、快適な毎晩
私には毎晩の静かな日課がある。ベッドに入り、お気に入りのYouTube動画を流しながら眠りに落ちることだ。
そのために欠かせない相棒が、ワイヤレスイヤホンだった。ケーブルの煩わしさから解放され、好きな音声に包まれながら眠る時間は、忙しい一日を締めくくる大切な癒しのひとときでもあった。
2025年12月、私は「AirPods 4」を購入した。ノイズキャンセリングの性能も高く、装着感も軽快で、毎夜の睡眠タイムはさらに快適なものになった。
2. 夜に起こった「片耳の違和感」
変化が訪れたのは、使い始めてから約半年が経過した2026年6月のことだった。
朝、寝落ちして耳から外れたAirPodsを充電ケースに収め、夜になれば100%充電された状態で再び取り出して使う。それがいつものルーティンだった。
しかし、ある夜から異変が起き始めた。
ケースから取り出して耳に装着すると、なぜか左耳から不快音がすると同時に、画面上のiPhoneにバッテリー切れのポップアップが表示されたのだ。確認すると、右側は100%充電されているのに対し、左側だけが「0%」のままになっていた。
「たまたまケースの接触が悪かったのかな」と思い、意識して丁寧にケースに収めるようにした。しかし、症状は収まらなかった。およそ3回に1回という、絶妙に不便な頻度で「左耳だけ0%」という現象が発生し続けた。
「自然に直るかもしれない」としばらく様子を見ながら使い続けたが、数週間が過ぎても状況は変わらなかった。
3. Apple 福岡 Genius Barへ、期待を抱いて
「保証期間内なのだから、一度ちゃんと見てもらおう」
限定保証の期限は2026年12月まで残っている。私は、Apple 福岡の修理・サポート窓口である「Genius Bar」を2026年7月9日(木)に訪問するように予約した。

これさえ受ければ、また以前のように何の問題もなく、毎晩YouTubeを聴きながら安心して眠れるようになるはずだ——そんな期待と希望を胸に、私は店舗へ向かった。
まさかその日の帰りに、自分の耳にAirPodsが戻ってこないことになるとは、知る由もなかった。
4. 「異常なし」の言葉と、理不尽すぎる提案
案内された座席で待つと、担当スタッフのT氏が対応にあたってくれた。私は発生している不具合の条件を正確に伝えた。
「左側のイヤホンだけが、約3回に1回の頻度で充電されない」
「バッテリー残量が0%の状態でケースに入れた際に、この症状が発生する」
T氏は製品を受け取り、店頭の診断プログラムを実行した。しかし、店舗に持ち込んだ時点でAirPodsの両耳は満充電(100%)の状態だった。
数分後、診断を終えたT氏から告げられたのは一言、「プログラムの診断ではエラーが出なかったので、異常はありません。そのまま持ち帰ってください」という言葉だった。
条件が「バッテリー0%の時」であるにもかかわらず、100%の状態でエラーが出ないから「異常なし」と決めつける。まるで「走っている時に異音がする車」を「停車した状態」で調べて「問題ありません」と言われているような違和感を覚えた。
さらに、不具合への対策としてT氏から提案された運用方法は、耳を疑うものだった。
「イヤホンをケースに収納するたびに、毎回スマートフォンの画面を開いて充電が開始されているか確認してください。もし充電されていなければ、一度ケースから出して、再度入れ直してください」
私は呆然とした。
毎回ケースに入れるたびにスマホを開いて確認し、ダメなら出し入れを繰り返す。そんな手間を強いるなら、有線イヤホンを使っているのと何ら変わりがない。生活を便利にするためにワイヤレス製品を買ったのに、本末転倒もいいところだ。
私が絶句していると、T氏は追撃するようにこう言った。
「不具合が起きた時の動画をご自身のスマートフォンで撮影して、それを持ってまた予約を取り直して来店してください」
毎晩の寝落ち前、あるいは朝の無防備な時間に、片手にスマホを構えて「0%から充電失敗する瞬間」を撮影しろというのだ。自分の仕事(その場の対応)を終わらせることしか考えていないようなその提案を聞いた瞬間、私の中で何かが冷めていくのが分かった。
5. 誰も追いかけてこない退店、そして沈黙へ
決まったマニュアル通りのセリフしか口にしない目の前のスタッフと話していると、まるでゲームの中で特定の選択肢しか選べないNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と会話しているような錯覚を覚えた。
これ以上、この場所で押し問答を続けても時間の無駄だ。
「そのような手間がかかるなら、製品はいりません」
私は明確に拒否の意思を伝え、AirPods 4を巨大スクリーン前の座席に残したまま、席を立った。
T氏の目の前に製品を置いたまま、私は歩いて店舗の出口へと向かった。後ろから引き留める声がかかることもなければ、その場で預かりの手続きや書類が作成されることもなかった。私は手ぶらのまま、Apple 福岡を後にした。
店舗を出たとき、「もしかしたら、あとから電話かメールで連絡がくるのだろうか?」という思いが少しだけ頭をよぎった。
しかし、その日、連絡は来なかった。
翌日も、その次の日も、連絡は一切来なかった。
店内に残された私のAirPods 4と、私の存在そのものが、まるで最初からなかったかのように。
何の音沙汰もないまま、1週間以上の静かな時間が流れていった。
あきらめ、忘れかけていたその時に…
(7月17日、Apple 福岡から届いた「1通のメール」によって事態が急変する——第2話へ続く)
