新卒のための「役職ってなに?」 先輩・上司は何をしている人かを知ろう
この4月に入社しそろそろ配属される方もいらっしゃると思います。
部門に配属されると新卒研修期間と異なり、様々な役職を目にします。
「メンバー」「主任」「課長」「部長」みたいな肩書きがたくさん出てきますよね。なんとなく「上に行くほど偉い人」というイメージがあるかもしれません。
でも、ひとつ最初にお伝えしたいことがあります。役職は「偉い順」ではありません。 それぞれの役職は、見ているもの・背負っているもの・頭の使い方が違うだけなんです。
役職を理解するのに、便利な3つのモノサシがあります。この記事では、このモノサシを使いながら、あなたの足元から順に、それぞれの役職が「何に責任を持ち、ふだん何をしているのか」を見ていきます。
見ている時間:どれくらい先の未来に責任を持っているか(今日のこと? 3年後? 10年後?)
背負う責任の大きさ:自分の仕事だけか、チームか、事業全体か、会社全体か
考えている「層」:手を動かすことか、やり方を考えることか、大きな方向を決めることか
最初は全部わからなくて大丈夫。自分の一歩先、二歩先がどうなっているかが見えてくると、成長のスピードがぐっと上がります。
そしてもうひとつ、大事な前提があります。上の役職の人は、下の役職の仕事を一通り通ってきています。 課長は主任の仕事を、部長は課長の仕事を、ぜんぶ経験してきた人たちで、勘所がわかっています(ただし、最新の技術そのものは若手のあなたのほうが詳しいこともあります。それでいいんです)。そのうえで、もう一段広い責任が肩に乗っている。つまり上司は、「あなたのやっていることは当然わかったうえで、さらに先を見ている」人だと考えると、ぐっと信頼できます。役職が上がるとは、できることを捨てて偉くなることではなく、できることの上に、新しい責任を積み重ねていくことなんです。
では、いきましょう!
【注意!】
本記事で示す以下は、世の中の平均的な企業における例です。
本記事における職名や責任範囲等の記述は、全ての企業に当てはまるものではありませんが、概ねこういうかんじというイメージを持っていただければと思います。また、ひとつの物差しとして自分の会社を眺めてもらうのもよいでしょう。
まず、あなた(新卒) 〜プロになるために指示を受けて学ぶ見習い
入社したばかりのあなたの仕事は、ずばり「一人前になること」です。まだ会社の戦力として数えられる前の、いわば「準備運動」の期間。だからこそ、いちばん伸びる時期でもあります。
責任:自分が戦力になれるよう、専門性と仕事の進め方を身につけること。今はまだ、会社の数字に直接の責任はありません。そのぶん、学んで成長すること自体が、あなたの責任です。
やること:基本は、主任クラスの指導役のもとで、指示をもらってタスクを着実にこなすこと。わからないことは早めに聞き、報告・連絡・相談(いわゆる「ほうれんそう」)を習慣にする。相談は、まず直属の先輩や主任など、いちばん近くの人へ(いきなり何段も上の人に持っていくより、近くの人に聞くのが基本です)。自分の作業を振り返って「次はこうしよう」と小さく改善する。この自己管理の習慣が、後でずっと効いてきます。
見ている時間:半年から1年くらい先。「次にできるようになりたいこと」が目標です。
考えている層:まずは「実行」。決まったことを、確実にやりきる力をつける段階です。
新卒のいちばんの武器は、素直に聞けること、そしてまっさらな目で「これって何でこうなってるんだろう?」と疑問を持てることです。先輩には当たり前すぎて見えなくなったことに、新人が気づくこともよくあります。だから「こんなこと聞いたら恥ずかしいかな」とためらわず、どんどん聞いてください。
そして大事なのは、完璧じゃなくていいということ。新卒は「育ててもらう期間」です。多くの会社では、新卒からメンバーへ上がるときに、ちょっとした節目(研修の修了や、学んだことの発表など)があります。そこを通ると、いよいよ「一人で任される」メンバーの世界が始まります。
つまずきポイント:新卒のいちばんの失敗は、わからないことを抱えたまま黙ってしまうこと。聞くのは恥ではなく、新卒のうちは「聞くこと」そのものが仕事です。
一歩先: メンバー 〜プロとして自律的に動くプレイヤー
新卒の次のステップが「メンバー」です。あなたが一番近くで一緒に働く先輩の多くがここにいます。新卒との一番の違いは、指示を待つのではなく、自律的に動けるようになること。新卒のうちは指導役から指示をもらって動いていましたが、メンバーになると、自分で考えて判断し、自分の力で仕事を前に進めます。教わる側から、自分でやり切る側へ変わるのです。
責任:新卒のころに身につけた基礎は当然のものとして、与えられた仕事を自分の力で最後までやりきること。さらにもう一歩進んで、「自分の仕事が会社の利益にどうつながるか」を意識しはじめます。やがて新卒の後輩ができたら、その面倒を少し見るのもメンバーの役割です。
やること:指示を待つだけでなく、自分で考えて動き、工夫し、毎日の改善を回す。たとえば「同じ成果を、もっと少ない手間で出せないか」「この作業、来月の自分が楽になるように整えておけないか」と考えるのがメンバーらしさです。会社の仕事はコスト(時間や費用)と成果のバランスで成り立っているので、ここを意識できる人は一気に頼られるようになります。
見ている時間:1年くらい先。「今年の自分の担当をどうやり切るか」が中心です。
考えている層:「実行」が中心ですが、「どうやればもっと良くなるか」という工夫も入ってきます。
メンバーの中でも、じわじわ差がつきます。言われたことを正確にやる人はもちろん大事ですが、そこから一歩出て、「言われる前に気づいて動く」「自分の担当を最後まで持ちきる」ができる人は、主任への階段を登りはじめます。学んだことを社内で共有したり、外のイベントで発信したりするのも、ここから少しずつ始めていけると強いです。
新卒のあなたから見ると、メンバーはいちばん身近なお手本です。仕事の進め方で迷ったら、まずこの先輩に聞くのが近道。そして、ここがあなたの最初の目標地点になります。ちなみに、「ずっと専門性を磨いて、その道のプロになりたい」という人のための道も会社にはあります。これは後でもう少し触れますね。
つまずきポイント:いつまでも指示待ちのままの人、報告が「事後報告」になってしまう人は、ここで足踏みします。「自分で動く」と「勝手にやる」は違うので、迷ったら早めに相談を。
その上: 主任 〜事業経営の一部としてアカウントを預かる現場監督
メンバーの次が「主任」です。課長が持つ事業経営の一部を、アカウント(顧客)単位で預かる「現場監督」です。自分でも手を動かしながら、チームをまとめて案件をやり遂げます。
責任:課長から「アカウント(担当するお客様)」を任され、その案件を確実にやり遂げる責任を持ちます。じつはこれ、課長が持つ事業の責任の一部(そのアカウントの分)が、責任と権限ごと主任に渡されているということなんです。だから主任は、足元の案件をやり切るだけでなく、翌年以降もそのお客様から続けて仕事をもらえるか(継続受注)、そして売上や利益率(売上のうち、どれだけ会社の儲けが残るか)にも責任を持ちます。もちろん、後輩(あなた)を育てるのも大事な役目です。
やること:案件を成功させるために、QCD(Quality=品質、Cost=費用、Delivery=納期)をきっちり管理します。良いものを、予算内で、期日までに届ける。これを成り立たせるために、課長から渡された方針をチームの動きに落とし込み、メンバーに指示を出し、外部への発注や調整も引き受けます。人とお金と時間を動かす、マネジメントの技術が問われる場面です。
見ている時間:2年くらい先。「来年もこのお客様と良い関係を続けられるか」を考えています。
考えている層:「戦術」を現場の動きに落とす役。課長が決めたやり方を、実際にチームが動ける形にして回します。
主任のことで、ひとつ知っておいてほしいことがあります。多くの主任は、自分でも手を動かしながら、人もまとめるという二役をこなしています。これを「プレイングマネージャー」と呼びます。野球でいえば、ベンチで采配をふるう監督が、同時にグラウンドで自分も打って守る選手を兼ねているようなもの。プレイヤー(自分の作業)とマネージャー(人のまとめ)を同時にやるので、実はとても忙しい立場なんです。
しかも、その「プレイヤー」としての腕前がただ者ではありません。多くの主任は、現場で一級品の技術レベルを持っています。人をまとめる立場になっても勉強を欠かさず、社内勉強会で登壇したり、技術ブログを書いたり、社外の勉強会でLT(ライトニングトーク=短い発表)をしたり、資格を取ったりして、自分の(そして会社の)技術力を高め、発信することにも積極的です。「まとめ役」であると同時に「技術のお手本」でもある、それが主任です。
だから新卒のあなたにとって、主任は直接の指導役であり、いちばん近くで成長を見てくれる人であると同時に、いつも時間に追われている人でもあります。相談したいときは、「今ちょっとだけいいですか?」と一声かけてタイミングを計ると、お互い気持ちよく話せますよ。
つまずきポイント:主任の悪夢は、案件の遅れやトラブルでお客様の信頼を失うこと。そして、何でも自分で抱え込んでメンバーに任せられない人は、ここでパンクします。「任せる」のも大事な技術です。
コラム:「労使」ってなに? 課長から「会社側」になる
会社には、大きく分けて2つの立場があります。
労働者:会社に雇われて、指示を受けて働く側。新卒・メンバー・主任は、基本的にこちらです。
使用者:会社の側に立って人を動かし、事業や数字に責任を持つ側。「経営する側」と言ってもいいでしょう。
この2つをまとめて「労使(ろうし)」と呼びます。働く人と会社、それぞれの立場のことです。
では、その境目はどこでしょう。ざっくり言うと、課長からが「使用者=会社側・経営する側」です。 主任までは現場で手を動かす側ですが、課長になると、事業の数字に責任を持ち、人やお金の使い方を決める「会社側」の人間になります。だから課長以上は、「自分は経営する側なんだ」という自覚を持って動いています。
厳密には、課長や部長も会社に雇われて給料をもらう一人で、その意味では労働者でもあります。ですが「立場の感覚」としては、課長から上は「会社を背負う側」に切り替わる、と覚えておくとわかりやすいです。
新卒のあなたが知っておくと良いのは、課長と話すときは「会社を背負っている人」と話しているということ。課長は会社の数字と責任を背負って判断しています。そう思って接すると、課長の言葉の重みや、ときに厳しい判断の理由も、すっと理解できるようになります。
さらに上: 課長 〜部長の成長戦略を受け、新たなビジネスを開拓する事業経営者
主任の上が「課長」です。ここからはっきりと「事業に責任を持つ人」になります。ずばり「事業経営者」、と言い切ってもいいでしょう。先程のコラムに書いた通り、「会社側の人」です。
課長は、主任のころにアカウントを任され、QCDの管理も、現場の技術も、後輩の育成も一通りやり切ってきた人です。その主任の仕事を一通りこなせるうえで、今度は複数のアカウントと複数の主任をまとめて、課全体の事業を背負います。
責任:自分の課(チームの集まり)の数字、つまり売上や利益に責任を持ちます。今年の目標を達成するのはもちろん、3年後にチームがどれだけ成長しているかにも責任があります。
やること:部長が描いた大きな計画を、現場で実行できる「やり方(戦術)」に落とし込み、主任に任せて進めてもらう。そしてそれと同じくらい大事なのが、部長の成長戦略を受けて、新しいビジネスやソリューションを開拓してくることです。お客さんの困りごとに対する新しい仕組みやサービス(ソリューション)を提案したり、その開発を率先したりして、事業の「次の柱」を作りに動きます。さらに課長は、事業の成長を支える3つの要素(ビジネス・組織・技術/このあとのコラム参照)を、自分の課のサイズで回します。売上を作り(ビジネス)、主任やメンバーを育て(組織)、新しい技術を現場に取り入れる(技術)。部長が事業全体で見るものを、課の単位で担うイメージです。
見ている時間:3年くらい先。
考えている層:「戦術」を組み立てる。部長の作戦を受けて、現場が勝てるやり方を設計します。
新卒のあなたは、こんなふうに感じるかもしれません。「あれ、うちの課長、あんまり席にいないな?」と。実はそれ、サボっているわけではまったくありません。課長は、部長の成長戦略をもとに、新しいビジネスの種を探して飛び回っているんです。お客さんや世の中の動きから「次にうちが挑むべき新しい仕事は何か」を見つけ、新規の提案やソリューション開発を率先して進めます。
ざっくり言うと、今いるお客さんから続けて仕事をもらう「継続受注」は主に主任が、まだ世の中にない「新しい事業の芽」を作るのは課長が、という役割分担です。もちろん会社によって線引きは違いますし、重なり合うことも多いのですが、「今を守る主任」と「次を作る課長」という関係はイメージしておくとよいでしょう。
課長は、チームという船の「今」を回しながら、同時に「次に進む先(新しいビジネス)」を切り拓く人です。だから席が空いていることが多い。そう知っておくと、たまに席に戻ってきた課長に、「お疲れさまです」と声をかけたくなりますよ。
つまずきポイント:課長がいちばん恐れるのは、目の前の案件に追われて、次の新しいビジネスの種まきが止まってしまうこと。「今」だけになると、事業はじわじわ細っていきます。
課長の上: 部長 〜事業の今と未来のすべてに責任を持ち牽引する事業経営総責任者
課長の上が「部長」です。課長が一つの「課」の事業経営者なら、部長は事業の今と未来のすべてに責任を持つ「事業経営総責任者」です。
責任:事業全体の数字に責任を持ちます。たとえば「この事業の売上と利益率を3倍に伸ばす」といった、会社の成長そのものを背負う立場です。一度約束した成長(これを「コミット」と言います)を実現するため、中長期(3年など)のロードマップ(道筋)を描き、最後までやり切る責任があります。そして、もし事業が赤字になれば、その責任を負うのも部長です。事業の今と未来の、良いことも悪いことも、すべてを引き受ける立場なのです。
やること:まず、その事業が目指す姿を言葉にします。「私たちは何のために存在し(ミッション)、どこを目指し(ビジョン)、何を大切にするか(バリュー)」をチームに示し、進む方向をそろえる。そのうえで「どこに、どれだけの力(人・お金・時間)を割くか」という大きな計画(作戦)を立て、複数の課をまとめます。課長たちが取ってきた案件や現場の状況を束ねて、事業として一番良い形に組み立てます。そしてこれらの判断はすべて、事業の成長を支える3つの要素(ビジネス・組織・技術/このあとのコラム参照)を、どれも欠かさず掛け算で伸ばすためのものです。部長は、この3つすべてに責任を持つ立場です。
見ている時間:4年くらい先。
考えている層:「作戦」を描く。どの戦線に、どれだけの力を割くかを決める層です。
部長は、ただ後ろで指示を出す人ではありません。常に部の先頭に立って行動する人です。ビジネスやマネジメントの面で頼れる実力者であることが多く(技術の最前線そのものは現場の若手や主任のほうが詳しいこともありますが、ものごとを判断する軸を持っています)、だからこそメンバーは「あの人が言うなら」と安心してついていけます。
飛び回り方も、課長より一段広がります。課長が主にお客様のところを回っているのに対して、部長は業界の集まりや勉強会など、もっと広い社外の場へ出ていきます。そこで事業をアピールし、人脈や評判を育て、3年後のロードマップを完遂するための「種まき」をして回るのです。だから部長は、課長以上に席にいないことが多い。もし社内で部長を見かけたら、なかなかレアなタイミングかもしれません。
課長も部長も、共通しているのは事業の数字に責任を持っているということ。違いは、背負っている事業の大きさと、種をまく範囲の広さです。新卒のあなたが部長と日常で話す機会は少ないでしょう。でも、あなたの事業がどこへ向かうかを決め、その先頭で道を切り拓いているのが部長です。
つまずきポイント:部長が最も恐れるのは、事業の赤字。そして、数年先の手を打ち損ねて、事業がじわじわ細っていくことです。「今の数字」と「未来の仕込み」を同時に回す難しさが、この立場の重さです。
コラム:事業の「成長」って、何が伸びること?
課長や部長が背負う「事業の成長」。ひとことで言いますが、じつは中身は3つに分かれます。
ビジネスの成長:売上や利益が増えること。いちばんイメージしやすい「お金」の面です。
組織の成長:人が増え、育ち、チームの仕組み(ルールや役割分担)が整っていくこと。部員の人数、メンバーの等級(グレード)の分布、働き方のルールの改善などが含まれます。
技術の成長:会社が持つ技術の幅と深さが増すこと。新しい技術スタック、特許、社外への発信(勉強会や技術ブログ)などです。
大事なのは、事業の成長はこの3つの掛け算だということ。足し算ではなく掛け算なので、どれか1つでもゼロに近いと、事業全体が伸び悩みます。売上が伸びても(ビジネス)、人が育たず仕組みもバラバラなら(組織)、いずれ現場が回らなくなる。技術が古いままなら(技術)、新しい仕事は取れません。3つがそろって初めて、事業はぐんと伸びます。
ここで特に気をつけたいのが、「業務優先の罠」です。「とにかく今の案件を回すのが最優先だ」と、目の前の案件対応だけに突き進んでしまうこと。まじめに見えますが、これは危険なサインです。案件対応だけに追われると、人を育てる時間(組織)も、新しい技術を学ぶ時間(技術)もゼロになります。3つは掛け算ですから、組織と技術がゼロに近づけば、いくら業務をこなしても事業は伸びません。それどころか、新しい仕事を生み出す力(ビジネスの本当の成長)まで失って、事業はじわじわ衰えていきます。だから良い課長・部長は、どんなに忙しくても「案件対応だけ」にならないよう、組織と技術の成長にも必ず時間を割きます。
(「業務優先の罠」をもっと知りたい人は、こちらの記事を参考にしてください: https://note.com/ikedon0505/n/n8dc92de11c74 )
だから、課長や部長が事業戦略を立てるときは、必ずこの3つをセットで考えます。「売上をどう伸ばすか」「どんなチームを作るか」「どんな技術を育てるか」。それは全て業務です。だから事業戦略には、いつもこの3つが組み込まれているのです。
そして新卒のあなたも、自分の仕事がこの3つのどれに効いているかを意識すると、視野が一段広がります。案件をしっかり仕上げるのは「ビジネス」、後輩に教えたりチームのやり方を改善するのは「組織」、新しい技術を学んで発信するのは「技術」への貢献です。
経営の入口: 取締役・執行役員 〜会社全体を担う会社経営者
部長のさらに上が、取締役や執行役員です。部長として一つの事業をやり切ってきた人が、ここで視野を会社全体へ広げます。そして責任の「種類」も変わります。部長・課長が「事業」に責任を持つ(事業責任)のに対して、役員や社長は「会社の経営そのもの」に責任を持ちます(経営責任)。課長が一つの課の「事業経営者」だったように、役員はいわば「会社経営者」です。
責任:一つの事業だけでなく、会社全体の経営に責任を持ちます。社長が描く長期ビジョンを、自分の担当領域(営業、開発、管理など)で実現させる役目です。
やること:担当領域の大きな方針を決め、どこに会社の力(人やお金)を投資するか、どんなリスクに備えるかを判断します。経営会議で他の役員と議論し、会社としての意思決定に加わる。さらに、株主や取引先、社会といった社外に対して会社を代表して向き合うのも役員の仕事です。
見ている時間:5年くらい先。
考えている層:「戦略」と「作戦」のあいだ。会社全体の方向を踏まえて、自分の領域の大きな段取りを決めます。
ひとつ、ややこしいけれど知っておくと得な話を。「取締役」と「執行役員」は、似ているようで立場が違います。取締役は、株主から会社の経営を正式に任された人で、会社の重要なことを決める法律上の責任を負います(会社とは雇用ではなく「委任」という関係)。一方執行役員は、会社が独自に置いている役職で、経営に近い立場で実行を担いますが、多くの場合は会社に雇われた社員のままです。今は「どちらも経営に近いチームの一員なんだな」と知っておけば十分です(ここは少し細かい話なので、ピンとこなければ読み飛ばして大丈夫です)。
ここが、「事業を伸ばす人(部長・課長)」と「会社を経営する人(役員・社長)」の境目です。この境目をまたぐと背負うものが一段重くなり、判断の一つひとつが会社の未来を左右します。新卒のあなたにはまだ遠い世界に見えるはずですが、「事業責任」と「経営責任」は違うんだ、と知っておくと、会社の仕組みがぐっとクリアに見えてきます。
つまずきポイント:役員が恐れるのは、自分の担当領域の判断ミスが、会社全体に波及してしまうこと。一つの事業の失敗とは、影響の大きさがまるで違います。
いちばん遠くを見る人: 社長 〜未来を描く会社経営総責任者
そして、いちばん遠くを見ているのが社長です。役員が「会社経営者」なら、社長は会社全体を背負う「会社経営総責任者」。役員までのすべてを通ってきた(だからこそ勘所がわかる)人が、最後に会社全体の最終責任を引き受けます。
責任:会社が10年後、その先もずっと続いて成長していくためのビジョンを描き、会社全体の経営に最終的な責任を持つこと(経営責任のいちばん上)。うまくいかなかったときに、最後に責任を取るのも社長です。
やること:会社全体の方向を決め、大きな決断をします。今すぐお金にならなくても10年後に実を結ぶ「種まき」への投資、ときには事業をやめる勇気のいる決断、会社を引っ張る人材や文化を育てること、必要なお金を集めること(資金調達)。そして会社の「顔」として、社外に向けて会社の未来を語ります。
見ている時間:10年以上先。
考えている層:「戦略」そのもの。そもそもどこで戦い、何を目指すのか、という一番大きな方向を決めます。
社長の決断には、「正解が書いてある参考書」がありません。誰も答えを知らない問いに、自分で答えを出し、その結果を引き受ける。だから社長は、いちばん遠くを見ると同時に、いちばん孤独で重い立場でもあります。
社長は「いちばん偉い人」というより、「いちばん遠くまで見て、いちばん大きな責任を背負っている人」と考えるとしっくりきます。あなたが今日の仕事に安心して集中できるのは、その遠くを見て、会社という船を沈ませないようにしている人がいるからでもあるんです。
つまずきポイント:社長が最も恐れるのは、会社が続かなくなること。だからこそ、まだ誰も気づかない10年先のリスクに、今から手を打ちます。
3つのモノサシで整理する
ここまでを1枚にまとめると、こうなります。役職が「偉い順」ではなく、3つのモノサシで段階的に並んでいるのが見えてくるはずです。

3つのモノサシを、もう少しだけ補足します。
① 見ている時間 … 下に行くほど近く、上に行くほど遠い。新卒は半年先、社長は10年先を見ています。
② 背負う責任の大きさ … 自分の手元 → チーム → 事業 → 会社全体、と広がります。課長・部長は「事業の数字」に責任を持つ事業責任、役員・社長は「会社全体の経営」に責任を持つ経営責任。呼び名で見ると、課長=事業経営者/部長=事業経営総責任者、役員=会社経営者/社長=会社経営総責任者と、「経営者」と「経営総責任者」のワンセットが、「事業」レベルから「会社」レベルへ一段上がる、きれいな階段になっています。
③ 考えている層 … 「実行(確実にやりきる)→ 戦術(勝てるやり方を考える)→ 作戦(人やお金の大きな配分を決める)→ 戦略(そもそもどこで戦うかを決める)」。役職が上がるほど、手を動かす時間は減り、方向を決める時間が増えます。
この「層」がいちばんイメージしづらいので、ひとつの大きな例で見てみましょう。たとえば「会社がこの先10年も成長し続け、ちゃんと稼ぎ続けるには?」という同じ問いに、それぞれの層はこう向き合います。お金(売上と利益)の流れにも注目してみてください。
社長:「これからの時代、うちはどの市場で、何で稼ぐ会社になるのか」。10年後の姿を描き、会社全体の売上と利益に最終責任を負って、大きな投資や、ときには事業からの撤退を決める(戦略)
部長:その方向を受けて、「自分の事業の売上と利益率を3倍に伸ばす道筋」を描く。新しい柱を育てる投資をしつつ、今の利益も守る。人とお金をどこに集中させるかを決める(作戦)
課長:部長の絵をもとに、新しいビジネスを開拓して「次の売上の柱」を作る。同時に、課の今年の数字(売上・利益)にも責任を持つ(戦術)
主任:預かったお客様(アカウント)の案件を確実に仕上げ、継続受注で来年の売上につなげる。QCDを守って、きちんと利益が残るように回す(戦術を現場で実行する)
メンバー:自分の担当を、少ない手間で良い成果に仕上げる。その一つひとつの積み重ねが、会社の利益の素になる(実行)
同じ「会社が稼ぎ続ける」という大きなテーマでも、社長は10年先の地図として、メンバーは今日の一つの仕事として見ています。立っている高さが違うから、見える景色も、考えることも違う。でも、新しい仕事を作るのも(新規開拓)、今のお客様との関係を続けるのも(継続受注)、目の前の一件をていねいに仕上げるのも、ぜんぶ会社の数字を支えている。どの層が欠けても会社は前に進めない、という点では、みんな対等です。
そして、自分の一歩上の人が何を見て、何を考えているかを想像すると、成長が早くなります。「主任は2年先を見て、戦術を現場に落としているのか。じゃあ自分も、今日のことだけでなく、もう少し先と、やり方の工夫を意識してみよう」。そんなふうに視野を一段ずつ広げていくのが、次に上がる準備になります。
メンバー以上に共通:学び続ける(しかも上ほど学ぶ量は増える)
役職ごとの違いを見てきましたが、メンバーから上には、ぜんぶに共通する大事な姿勢があります。それは、学び続けること、そして学んだことを外に発信することです。
働きながら勉強するのは当たり前。さらに、主任のところで触れたように、社内外の勉強会で発表したり、技術ブログを書いたり、資格を取ったりして、自分や会社の力を高め、発信していくのも、メンバー以上ではだんだん当たり前になっていきます。「インプット(学ぶ)」と「アウトプット(発信する)」の両方を、仕事と並行して回していくイメージです。
そして、ここがちょっと意外なところ。上に行くほど、勉強の量はむしろ増えていきます。 「偉くなったら勉強しなくてよくなる」と思いがちですが、まったくの逆です。役職が上がるほど、扱う技術や情報の幅が広がり、レベルも高度になるからです。
メンバーは、自分の担当分野を深く
主任は、チームと担当顧客に必要な技術を
課長は、課の事業に関わる技術とビジネスを
部長は、業界全体の動きや最新の流れを
役員は、会社の経営に関わる幅広い知識を
社長は、世の中や10年先の大きな変化を
見る範囲が広く、深くなるぶん、学ぶことも増えていく。だから「いちばん勉強しているのは、実はいちばん上の人」ということも珍しくありません。とくに課長から上になると、その勉強量は日々ものすごいものになります。
ためしに、先輩や上司の机の上や本棚を、そっとのぞいてみてください。並んでいる本の「量」と「中身」には、その人がどれだけ学んでいて、いま何に向き合っているかが、けっこう正直に表れます。プログラミングの技術書が並んでいる人、マネジメントやビジネスの本が増えてきた人、業界動向や経営の本を読んでいる人。読んでいるものを見れば、その人がどの層(実行・戦術・作戦・戦略)で戦っているかも、なんとなく見えてきます。よく学ぶ人の机には、たいてい読みかけの本が積まれているものです。もしも本が積まれて無いとしたら・・・それはあまり良くない兆候かもしれません。
新卒のあなたへ。今のうちから「学び続ける習慣」をつけておくと、どの段に進んでも必ず力になります。発信のほうは、まずは社内勉強会で一回話す、技術ブログを一本書く、くらいの小さな一歩からで十分です。勉強は、新卒のうちだけの宿題ではなく、ずっと続く面白い旅だと思ってください。
全員に共通:ビジネスと数字に貢献する
学びと並んで、もうひとつ全員に共通する大事なことがあります。それは、自分の立場なりに、会社のビジネスと数字に貢献することです。
会社は、誰かが商い(ビジネス)で稼いだお金で動いています。みんなのお給料も、新しい挑戦のための投資も、もとは事業の売上や利益から出ています。すごくおおざっぱに言うと、「売上 − コスト = 利益」で、この利益から、みんなの給料も次の投資も出ています。だから「数字は社長や上司だけが考えるもの」ではありません。役職に関係なく、全員が「自分はどうやって会社の儲けに貢献できるか」を意識することが、強い会社をつくります。
とはいえ、貢献の仕方は立場によって変わります。
新卒:まだ直接の数字責任はありませんが、「早く一人前になること」「与えられた時間の中で、できるだけ良い成果を出すこと」が立派な貢献です。
メンバー:自分の担当を、少ない手間で良い成果に。「この仕事は会社の利益にどうつながるか」を考えはじめます。
主任:預かったアカウントの売上・利益率、そして継続受注に責任を持ちます。
課長・部長:課や事業全体の数字に責任を持ち、新しいビジネスで会社を伸ばします。
役員・社長:会社全体の経営の数字に責任を持ちます。
ポイントは、「自分が動かせる範囲」で数字に貢献すること。動かせない大きな数字まで気に病む必要はありませんが、自分の手元の仕事が会社の儲けにどうつながっているかは、いつも意識しておきたいところです。新卒のうちから「自分の仕事は、どう会社のビジネスに役立っているんだろう?」と考える習慣をつけておくと、上の段に進んだとき、より大きな数字を任せてもらえる人になります。
番外:管理職にならない道もある
「上に行く=人をまとめる管理職になる」と思いがちですが、実はそれだけではありません。
人をまとめるのが得意な人は管理職(主任・課長…)の道へ。一方で、技術や専門性をとことん磨きたい人のために、管理職にならなくても専門職としてステップアップできる道を用意している会社も増えています。難しい技術課題を解決したり、チームの技術の土台を作ったりすることで、管理職と同じくらい評価される、という考え方です。
なので、「自分はマネジメントよりも、手を動かして極めたい」と思っても大丈夫。道はひとつではありません。まずはメンバーを目指しつつ、自分がどちらに向かいたいかは、働きながらゆっくり考えていけば十分です。
おわりに:今日からできる小さなこと
役職の地図が、なんとなく頭に入ったでしょうか。最後に、覚えておくとずっと役立つことと、今日からできる小さなことをお伝えします。
ひとつ大切な考え方があります。それは、責任と権限はセットだということ。役職が上がると、責任が重くなるぶん、決められること(権限)も増えます。たとえば、新卒のあなたが何百万円の発注を一人で決めることはありませんが、主任になればアカウントに関わる一定の判断を任されます。逆に言えば、今のあなたに大きな決定権がないのは、まだ大きな責任を負っていないからで、それは悪いことではありません。一段ずつ、責任と権限を一緒に増やしていくのが、健全な成長です。
そのうえで、今日からできることを3つだけ。
自分の半年先を意識してみる。「半年後、何ができるようになっていたいか」を一つ決めてみましょう。
一歩上の人(メンバーや主任)が何を見て、何を考えているか想像してみる。指示の「その先」が見えると、仕事の意味がわかって面白くなります。
わからないことは早めに聞く。これは新卒の特権であり、いちばん大事なスキルです。
この記事は、一度で全部わからなくて大丈夫です。メンバーになったら主任の章を、後輩ができたら新卒の章を、というように、あなたが一段上がるたびに読み返すと、そのたびに新しい発見があるはずです。
役職は、あなたを縛るための階段ではありません。「次にどんな景色が見えるのか」を教えてくれる地図です。焦らず、一段ずつ、自分のペースで登っていってください。
これからの活躍を応援しています!
