なぜ動画を見ると文章が読めなくなるのか? ―文藝春秋の動画メディア「文藝春秋PLUS」を考察してみた
「もうパズドラくらいしかできない」
映画『花束みたいな恋をした』で、主人公の麦は、彼女との会話で「ゼルダやらないの?」と聞かれると「もうパズドラくらいしかできない」と答えます。心の余裕のなさ、趣味に対する情熱や恋さえも冷めていく様子が印象的でした。時間に追われ、シゴトに追われ、スマホの動画ばかり見てしまう。そんな日常に埋もれてませんか。

「仕事に追われて趣味が楽しくない」
「疲れているとスマホを見て時間をつぶしてしまう」
書店員が選ぶノンフィクション大賞2024を受賞、発行部数20万部を突破した「なぜ働いていると本が読めなくなるのか 」(集英社新書) にも、スマホを眺めていると本を読まなくなることが書かれています。
私は「読書筋力」と呼んでるんですが、動画を見てるとなかなか本を読む気になれません。月に10冊以上読んでたのが1冊も読めない。読書力の衰退ぶりが凄いのはなぜでしょう。読書筋の回復まで相当な努力が必要でした。皆さんもそんな事はありませんか?
文藝春秋が動画メディア「文藝春秋PLUS」を始めた理由に、「読書筋力の衰退」があるのではないか?と感じたのは私だけでしょうか。しかも文春noteを立ち上げた村井さんが編集長になられたのは理由があるはず。文藝春秋の動画メディア「文藝春秋PLUS」を考察してみました。
熱量高めの約7,000字。興味のある方はどうぞお付き合いください。
池松潤/Jun Ikematsu
コミュニケーションデザイン/事業計画/エクイティストーリー/エンタープライズ営業コンテンツ/マーケティング/コンテンツなど。スタートアップCEOの壁打ち相手。慶応義塾大学卒/博報堂を経てスタートアップの若手と世代間常識を埋める現役58歳。ときどき婦人公論.jpにコラムなど。 ⇒ https://lit.link/junikematsu
1:文藝春秋PLUS編集⻑ 村井弦さん

文藝春秋PLUS編集⻑・村井弦さん
1988年、東京都稲城市出身。2011年4月に株式会社文藝春秋に入社し、「週刊文春」編集部に配属。2015年7月、「文藝春秋」編集部。2019年7月、「文藝春秋digital」プロジェクトマネージャー。2021年7月、「週刊文春電子版」デスク。2024年7月から「電子版統括編集⻑」となり、2024年12月に映像メディア「文藝春秋PLUS」初代編集⻑に就任。
じつは、村井さんが書かれたnoteの「川上慶子さんに書いた手紙」を忘れられません。機会があれば、いつかお会いしたいなと思ってたら5年も経っていました。
「川上慶子さん」
1985年8月12日の日航123便機墜落事故。通称・御巣鷹山事故。乗客乗員520名が亡くなる史上最大で最悪の航空機事故。軌跡の生存者4名のうちのお一人で、当時小学生だった川上慶子さんは奇跡的に救出されました。
日航機墜落事故があった1985年は、僕にとって印象深い年です。プラザ合意、阪神タイガース優勝と昭和がバブル絶頂に向かっていく頃。「Japan as No.1」という本が読まれ、日本は世界中に売る製品が沢山あって「黄金の国」でした。僕が大学に入った年でもあります。なので1985年をテーマに岡田監督・阪神タイガース優勝の記事を、婦人公論.jpに書いたほどです。
ところで、ヒトは会ってみないとわかりません。文章が面白い人ほど実際にお会いすると想像以上にツマラナかったり、Zoomの印象とも違う方も多いものです。だからお会いする事を大事にしています。
村井さんには、先日トークイベントで初めてお会いしたのですが、想像通りのナイスガイでした。トークでも相手の言いたいことを(ほんの少しだけ)間合いを取って引き出す感じから、優れた編集者を感じました。
ご挨拶したのは退室される間際だったのですが、終電が迫っているにも関わらず「いつもtweetに「いいね」ありがとうございます」と気遣いを忘れないのが素敵でした。時間や余裕が無いときほど「地」がでるのが人の情です。「あ。そうそう。noteの…書かれてますよね」と記憶を引っ張り出して頂きました。嬉しかったです。
皆さんにお伝えしたいのは、村井さんは文春でnoteアカウントを立ち上げた方だということです。
noteユーザーの方なら、村井さんが文春のデジタル化を担ってきた方だということは経歴からも感じるのではないでしょうか。
2019年7月 「文藝春秋digital」プロジェクトマネージャー
2021年7月 「週刊文春電子版」デスク
2024年7月 「電子版統括編集⻑」
2024年12月 映像メディア「文藝春秋PLUS」初代編集⻑
2:文藝春秋について

資本金1億4,400万円
社員数351名(2023年7月1日現在)
「文春砲」をイメージしている方には意外かもしれませんが、大手出版社の中で、株式会社 文藝春秋の方々は、他とはちがう自由な空気をまとっています。もちろん違う意見の方もいらっしゃるでしょう。でも私は出版社のなかでも株式会社 文藝春秋 は他の出版社とは違う社風の会社ではないか思うのです。少しお付き合いください。
1923年(大正12年)に小説家・菊池寛が創業し、100周年を迎える名門の大手出版社。芥川賞、直木賞での受賞作決定は、現役作家の方々が集う選考会の結果に委ねられるものの、その選考会の司会を担うのは芥川賞は「文藝春秋」編集長、直木賞は「オール讀物」編集長というのが長年の伝統です。
私が博報堂に在籍していた時期、文藝春秋の方々を思い出します。当時の博報堂には、雑誌関連の部署として「雑誌局」と「出版営業局」という二つの異なる部門が存在していました。雑誌局は雑誌の広告枠を仕入れてくる部署、一方の出版営業局は出版社が新聞などに広告出稿する営業部署です。各出版社には専任の担当者が配置されていました。
博報堂は広告業界の黎明期に出版社の「円本」(昭和初期に流行した本で廉価な全集として販売された)の広告を新聞に出したことで大成功した歴史があります。「円本」の広告を新聞の一面記事下に出す、今で言うクロスメディア戦略を最初に成功させました。だから「出版営業局」という部署があるのです。
私たちが社会人となったのはバブル期で、同時に「マーケティング・ブーム」の第一波が到来した頃でした。しかし今では想像しづらいかもしれませんが、かつて一般家庭の表札には「押し売り・不動産・広告はお断り」という文言が記されていることがあり、広告業界の社会的地位は低かったのです。
そのような背景と歴史があるので、編集者の方々が広告会社に対して上下関係が生まれるのもある意味で理解できることでした。しかし株式会社 文藝春秋の方々は違ったように思います。だから印象深い出来事として記憶に残ってるのでしょう。これは外部からの視点ですが、その後、同じ意見の方々と出会うことが多かったのも事実です。
月刊文藝春秋、週刊文春、オール読物、Sports Graphic Number、CREAなど様々な雑誌や、書籍部門があるのですが、ローテーションで様々な部署を担当されるそうで、ゆえに偏った育ち方をしないように見えました。いい意味で「会社員っぽい」感じでマスコミっぽくないのです。今風にいえば「フラットでオープン」な感覚が、社員の方々に根付いていたのだと思います。

編集現場の様子を肌で感じられる記事に興味がある方はこちらをどうぞ▼
村井さんが、このような状況でネット部門を牽引してきたのは、noteの存在が大きいのではないでしょうか。というわけで、わたしが今回のnoteを書きたくなった理由をご理解頂けるかと思います。
※文春はTech子会社を作りました
3:なぜ文春がyoutubeなのか?
「文春砲」のイメージが強いと、その理由は「流行っているから」と考えがちですが、その理由を遠回りしてひも解いてみます。
・自社Webへトラフィック流入を増やすのはYahooニュース次第
公正取引委員会が2023年9月21日に公表した「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」で、ニュースコンテンツの配信に関する取引実態や課題が詳細に分析されました。
この報告書は、特にプラットフォームとニュースメディアの関係に焦点を当てており、メディアがプラットフォームに依存している現状や、その影響についての指摘がなされています。
調査報告書では、ヤフーがメディアに支払う記事使用料の平均が1千PVあたり124円であり、最も高い事業者で251円、最も低い事業者で49円という大きな差がありました。メディア側は適正価格の水準や決定根拠が不明確で公平な交渉ができないという不満がありました。
つまり
①Yahooの広告収益額に比べて新聞・雑誌社への収益配分は超低くて、約5分の1くらいの場合もある
②Yahooの力が強すぎて交渉にも至らない
③Yahooは公取の指摘を受けて対応すると言ったが…
しかしこれは2023年のこと。2024年4月22日には「Googleに公取委が初の行政処分 ヤフーの広告制限疑」ということで、グーグルの技術的優位性や市場シェアをベースにLINEヤフーに対してスマホ向けの広告配信をやめるよう一方的に要求。これを公取が問題視しました。
このように刻々と変わるネット界の競争環境ですが、今後は生成AIでどう変わるのでしょうか。いずれにせよ巨大テックカンパニーに翻弄させられることは間違いありません。だから「読者開発」をしていかねばならない。文春がYouTubeをやるのもこの辺に理由があることがわかります。
◆「読者開発」とは?
この「読者開発」(Audience Development)とは、紙が落ち込んで業績悪化に陥っていたニューヨーク・タイムズ(NYT)が「イノベーション・レポート」で書かれていたキーワードです。
このレポートは、バズフィードが全文をスクープ公開したことで話題になりました。NYTはこの改革戦略によってV字回復を遂げたのですが、もう10年前のことです。

このNYTのデジタル改革には、スタート当初みんな懐疑的でした。しかし見事にネットメディアの購読制(サブスクリプション)を成功させたのです。その背景には優れたデジタル戦略とグロース戦略が貫かれていました。そのキーワードのひとつが「読者開発」です。

本や記事を届けるだけではダメで、読者を探して、情報を届けて、買ってもらって(サブスク登録)、スキになってもらって、推奨してもらう。一般企業では当たり前のマーケティングが、大手メディアにも必要になった事を感慨深く感じたものです。
元朝日新聞記者でBuzzFeed Japan 創刊編集長 だった古田さんが詳しく6回にわかってnoteを書いてます。ご興味のある方はこちらをどうぞ▼
◆「記事を分析する基盤」づくり
ネット企業ではない文春が、どのようなデジタル戦略を具体的に記事作成に反映させているか?公開されている情報がこちらです。(最新情報ではありませんご了承ください)
文春オンラインで1年間にわたりPVを高めるために量的・質的分析を行っていて、ストリーツ株式会社・田島代表取締役CEOの上記note記事が参考になります。現在はどのようなのか気になるところですが、このように可視化することで、記事作成に役立てているのが読者開発にも繋がっているのでしょう。

◆格差が広がるネットメディアの「SaaSビジネス・スキル」
Webメディアの成長モデルの起点は「良質な記事」で、その記事を書くためには「インサイト」が必要で、必要なデータを「可視化」して行く過程が大事だということがわかります。しかし、このような戦略や思考様式を持ったネットメディアはどれだけ存在するのでしょうか。
下記の図を見てください。ポジティブ・フィードバックサイクルが描かれています。これを実現するためのスキルについて、SaaSビジネスに関わったヒトならピンと来るでしょうが、既存メディアしか経験がないとヒートマップ分析さえ思いつかないでしょう。「SaaSビジネス・スキル」をどのように自分ごと化するかが、その後の成功を分けるのではないでしょうか。

◆読者開発には「記事を出してから」が大事
下記の図を見れば「従来の編集者スキル」(緑色)と「現在のスキル」(オレンジ色)の違いがわかります。「記事は出して終わり」ではなく、出してからが大事で「読者開発」はこの一連の流れが出来ているかにかかっているからです。この簡単な事が既存出版社には難しいのは、本を出した事や、コラムを書いた事がある人なら理解できると思います。
余談:
多くの出版社は本を出したら終わりで何もしてくれません。つい先日も宇野常寛さんが自著の本のプロモーションを全くしてくれなくて嘆いてました。

なぜ文春がyoutubeなのか?それは「読者接点」と「読者開発」をするために必要だったことが解ります。
3:PIVOTとの共同番組へ
株式会社文藝春秋は、ビジネス映像メディア「PIVOT」と共同制作番組「JAPAN FUTURE DISCUSSION」を本日10月22日から配信を開始しました。文藝春秋取締役・文藝春秋総局長の新谷学氏と、PIVOT代表取締役の佐々木紀彦氏がダブルMCで、日本を代表する政財官のキーパーソンを招いて日本や各業界の未来について議論。各界のキーパーソンを招いて議論を展開。2024年10月22日に初回が配信されゲストには自民党の小泉進次郎選挙対策委員長が登場しました。

新番組「JAPAN FUTURE DISCUSSION」は、文藝春秋とPIVOTのコラボレーションで行われ、番組の前編はPIVOTのYouTube公式チャンネルとアプリ・WEBサイトで配信。後編は「文藝春秋電子版」のYouTube公式チャンネルと電子版サイトで配信。月1回を予定。
読者開発のためのコラボ戦略。それは内容に影響する「出演者のキャスティング力」が大きな決め手となるのだと思いますが今後が楽しみです。(一部この提携をあーだこーだ言うtweetを存じ上げてますが私は英断だったと思います)
◆ 2024年を振り返る
既存メディアの戦場は「可処分時間」の奪い合いでした。このnoteも可処分時間を食う一つのプラットフォームです。情報大洪水のなか、限られた時間を、いかに自社プラットフォームに振り向けさせるか?それが勝利の方程式でした。
しかし、2024年の兵庫県知事選は単なるプラットフォームの交代劇だったのでしょうか。なぜなら価値基準そのものの転換が起きているように感じるからです。「文藝春秋PLUS」のこちらの回を興味深く見ました。
【“メディア不信”が生まれる理由】
〈後編〉2024年の日本で起こった「カウンターエリート」現象
1つのテーマを分かりやすく読み解く「+ RONTEN」。ゲストは「The HEADLINE」編集長の石田健さん。今回のテーマは「カウンターエリート」と「オールドメディアの敗北」。アメリカではピーター・ティールなど、エリート的な出自を持ちつつ、既存の権威に対抗する存在が社会を動かしつつあります。その根底にある「オールドメディア」への反発はどこから来るのか? 石田さんに訊きました。
振り返れば、40年前の1986年に出版された「メディアの興亡」(著・杉山隆男)はコンピューターによる新聞社の大変化を辿った本でした。コンピューターで新聞を作ることを「コスト削減と捉えた朝日新聞」と「取材情報はすべてデータベースにする日経テレコンをイメージした日経新聞」の違いは、その後の様子を見れば明らかです。
いつの時代も、新しい技術による将来を見通すことは困難な事ですが、未来予想図を描くことが如何に大事か現代史から学ぶことができます。「メディアの興亡」を読むとわかるのは、「未来地図を描く」ことの重要性ではないでしょうか。
ピーター・ティールは「空飛ぶクルマを望んでいたのに、手にしていたのは140文字だった」と嘆きました。
ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、情報経済の視点で考えると「文春PLUS」は「月刊文藝春秋」「週刊文春」など文藝春秋らしい視点で、豊かな情報資産を積み上げてくれるのではないでしょうか。手短に言うのは難しいのですが、私は文春さんのある種の「まとも」な感覚を信じています。だからこのnoteを書いています。
私たちが真に必要としている情報経済は、「共感」と「記憶の深さ」の「統合の物語」ではないでしょうか。それは欧米型の「効率」でも、中国型の「人口規模」でもない、日本独自の価値観に基づく新しい情報経済の姿ではないかと思うのです。
世界の中で日本のニュースがどのような変化をしているか「「ロイター・デジタルニュースリポート2024」で客観的に眺めることができます。ご参考までにどうぞ。
「ロイター・デジタルニュースリポート2024」
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/oversea/pdf/20240617_1.pdf
2022年からNHK 放送文化研究所が調査協力していて日本語でまとめられてます。
1:SNSとニュース消費:新たなプラットフォームの台頭
2:オンラインニュースの有料化:日本の購読率最下位レベル(9%)
3:ニュース回避:(ただし世界的傾向と異なり日本においては限定的)
4:ポッドキャストの動向:成長は鈍化するも定着
5:AIの進化:生成AI検索の足音
文春YouTube「文藝春秋PLUS」はまだ始まったばかりですが、文春ならではの番組作りを目指してるように感じます。
今後の文藝春秋PLUSはどんな進展を見せるのか楽しみです。文春noteを立ち上げられた、文藝春秋PLUS編集⻑ 村井さんのご活躍に心から期待してます。
noteユーザーの皆さんへ。「+ RONTEN」シリーズ面白いです▼

ではまたnoteでお会いしましょう
池松潤
◆池松の最新ニュースはXで
現代の金融教育はしばしば「マネーゲーム」のような短期的な利益を追求するスキルに焦点が当てられがちで本当に必要なのは「資本主義の本質を理解する教養」ではないでしょうか? だって僕たちはマネーゲームのために生きているのではないですから。@jun_ikematsu https://t.co/OdjXHcCFhD
— 池松潤 / Jun Ikematsu (@jun_ikematsu) January 13, 2025
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