とんち de ライフハック - 一休さんに学ぶ賢い生き方
第11話 「仏さまに失礼」
形式主義を超えて、イノベーションを起こす智慧
表参道のモダンなカフェで、私は今日も皆さんの相談に耳を傾けています。大きなガラス窓の外では、紅葉した銀杏並木が黄金色に輝き、初冬の澄んだ空気が街を包んでいます。
今日訪ねてきたのは、グローバルIT企業の人事部門でDX推進リーダーを務める佐藤さん(29歳)。
彼女の表情には、疲労と焦りが混ざっています。
佐藤さん「一休さん...会社の頑なな形式主義に、もう限界なんです。デジタル化で業務効率を上げようと提案しても『前例がない』『マニュアル違反』と却下される一方で、『なぜ改革が進まないんだ』と経営陣に叱責される始末で...」
一休「ほう、形式と革新の狭間で板挟みになっているのじゃな。実は私も若い頃、似たような経験をしたことがある。『仏さまに失礼』という出来事を話してあげよう」

その日は、冬の厳しい寒さが寺の境内を包んでいた。
和尚「一休、大変じゃ!本堂のローソクを消し忘れてしまった。火事になっては仏さまに申し訳ない。すぐに消してきておくれ」
私は本堂に駆け込んだ。しかし、ローソクは高い位置にあり、手が届かない。梯子を探す時間もない。その時、私の頭に一つのアイデアが閃いた。
高く飛び上がり、「ふーっ」と息を吹きかけてローソクを消したのじゃ。
和尚「何というけしからん行為だ!仏さまに息を吹きかけるとは、この不届き者め!」
和尚の声が本堂に響き渡る。
しかし、私は冷静さを保ちながら、次の一手を考えていた。
翌日の朝。
本堂での読経の時間。私は意図的に仏さまに背を向けて座った。
和尚「一休!何という無礼な!なぜ仏さまに背を向けるのだ!」
一休「和尚さま、昨日、仏さまに息を吹きかけることは失礼だとおっしゃいました。ですから、お経を上げる際に仏さまに息がかからないよう、このように座っているのです」
場の空気が凍りつく。
しばらくの沈黙の後、和尚は深いため息をつきながら、こう言った。
和尚「なるほど...。形式にとらわれすぎて、本質を見失っていたのは私の方だったようじゃ」

佐藤さん「一休さん、私の会社でも『前例がない』『規則違反』という言葉で新しいアイデアが潰されてしまうんです。なぜ組織はこうも形式に縛られてしまうんでしょうか?」
一休「よい質問じゃ。組織が形式主義に陥る理由は、実は人間の本質的な性質と深く関わっておるのじゃよ」
佐藤さん「人間の本質的な性質、ですか?」
一休「そうじゃ。例えば、和尚さまが『仏さまに息を吹きかけるな』と言ったのは、本当は『仏さまへの礼儀』を気にしていたわけではない。自分の立場や権威を守りたいという無意識の欲求が働いていたのじゃ」
佐藤さん「なるほど...。私の上司も、新しいデジタルツールの導入に反対する時、『セキュリティ上の問題』と言いますが、本当は自分の仕事のやり方が変わることへの不安があるのかもしれません」
一休「その通りじゃ。人は誰しも、変化を恐れる生き物なのじゃ。特に、これまでうまくいってきたやり方を変えることには、強い抵抗を感じる」
佐藤さん「でも、時代は急速に変化していて、古いやり方では立ち行かなくなっているんです」
一休「そこで大切なのは、相手の立場や心理を理解した上で、変化を促す方法を考えることじゃ。私が和尚さまに『仏さまに背を向ける』という行動を取ったのは、単なる皮肉ではない。和尚さま自身に『形式』と『本質』の違いに気づいてもらうための仕掛けじゃったのじゃ」
佐藤さん「つまり、ただ反発するのではなく、相手が自然と気づけるような工夫が必要だということですね」
一休「その通り!例えば、新しいツールを導入する際も、いきなり全面的な変更を迫るのではなく、小さな成功事例を作ることから始めてみてはどうじゃろう?」

佐藤さん「確かに!まずは自分のチームで試験的に導入して、効果を示せれば...」一休「そうじゃ。人は目の前の成功例を見ると、自然と心が動くものじゃ。形式主義を打ち破るには、時には遠回りに見える方法の方が、実は近道だったりするのじゃよ」
佐藤さん「なるほど...。相手の気持ちに寄り添いながら、少しずつ変化を促していく。まさに一休さんが和尚さまにされたように」
一休「そうそう。そして忘れてはならないのは、組織の形式主義には『良い面』もあるということじゃ」
佐藤さん「良い面、ですか?」
一休「そうじゃ。例えば品質管理や安全管理など、守るべきルールもある。大切なのは、『何のための規則なのか』という本質を見極め、本当に必要な形式は守りながら、改善すべき部分を見極めることじゃ」
佐藤さん「つまり、形式主義を完全に否定するのではなく、本質的な価値があるものとそうでないものを区別する。そして、変えるべきものは、相手の心理に配慮しながら、段階的に変えていく...」
一休「その通り!それこそが『智慧』というものじゃ。形式と本質、伝統と革新、この相反するものの間でバランスを取ることこそ、現代のリーダーに求められる大切な資質なのじゃよ」
佐藤さん「では具体的に、どのように組織の形式主義を変えていけばいいのでしょうか?」
一休「まずは『小さな成功体験』を積み重ねることじゃ。例えば、どんな改革を考えているのかな?」
佐藤さん「はい。たとえば、紙の申請書を全部デジタル化したいんです。でも『ハンコ文化』が根強くて...」
一休「なるほど。では、まず小規模なテストケースを作ってみてはどうじゃろう?」
佐藤さん「テストケース、ですか?」一休「そうじゃ。例えば、自分の部署の中で最も単純な申請書類から始めてみる。『試験的に』という形なら、反対も少ないはずじゃ」
佐藤さん「確かに!社内の勉強会の出席申請なら、比較的ハードルが低そうです」
一休「その通り!そして、その成果を数値で示すのじゃ。『紙の削減量』『処理時間の短縮』『承認スピードの向上』など、具体的な効果を見える化する」
佐藤さん「なるほど。でも、きっと反対意見も出てくると思います...」一休「もちろんじゃ。そこで大切なのが『共感』と『巻き込み』じゃ。例えば、こんな作戦はどうじゃろう?」
佐藤さん「どんな作戦ですか?」

一休「反対が予想される部署の担当者を、最初の段階から『アドバイザー』として招き入れるのじゃ。『あなたの経験とアドバイスが必要です』とな」
佐藤さん「なるほど!相手を『批判者』ではなく『協力者』として位置づけるんですね」
一休「その通り!そして、もう一つ大切なことがある。『逃げ道』を用意することじゃ」
佐藤さん「逃げ道...?」
一休「そうじゃ。例えば、デジタル化に不安を感じる人のために、移行期間中は従来の方法も並行して認めるとか。急激な変化への不安を和らげる工夫じゃ」
佐藤さん「確かに。私の祖母も、スマートフォンを使い始めた時、最初は固定電話も残していました。でも、慣れてきたら自然と固定電話を解約していましたっけ」
一休「その通り!人は強制されると反発するが、自分で選択できる余地があれば、自然と便利な方を選ぶものじゃ」
佐藤さん「なるほど...。変革を進めるには、相手の立場に立って、きめ細かな配慮が必要なんですね」
一休「そうじゃ。そして最後に忘れてはならないのが『称賛』と『感謝』じゃ」佐藤さん「称賛と感謝...」
一休「変化に協力してくれた人、特に最初は反対していた人には、心からの感謝を伝える。そして、その変化がもたらした良い結果を、組織全体で共有し、称賛することじゃ」
佐藤さん「つまり、『あの時の変化は正しかった』という実感を、みんなで共有するということですね」
一休「その通り!そうやって少しずつ、『変化は怖いもの』という意識を『変化は成長の機会』という意識に変えていくのじゃ」
佐藤さん「一休さん、ありがとうございます。明日から早速、小さな一歩から始めてみます!」
一休「うむ、その意気じゃ!変革は一朝一夕にはいかんが、知恵と工夫があれば、必ず道は開けるものじゃ。がんばるのじゃぞ!」

読者へのメッセージ
みなさん、組織の形式主義は一見、頑強な城壁のように見えるものです。
しかし、その城壁も、もともとは人々の不安や迷いから築かれたもの。
ですから、その不安に寄り添い、一つ一つ丁寧に対話を重ねることで、必ず突破口は開けるものなのです。
大切なのは、相手を否定するのではなく、その立場を理解すること。そして、変化がもたらす価値を、誰もが実感できる形で示していくこと。
時には、私が和尚さまにしたように、少し遠回りに見える方法を選ぶことも必要でしょう。
変革は、決して一人では成し遂げられません。
仲間を増やし、小さな成功を重ね、その喜びを分かち合う。
その積み重ねが、やがて組織文化そのものを変えていくのです。
さあ、明日から皆さんも、自分の組織の中で、知恵と工夫を凝らした「小さな改革」を始めてみませんか?必ず、新しい扉が開かれることでしょう。
南無
