ゾンビパンデミックについての疫学的考察

講義でゾンビパンデミックの話が出たので帰りに薬局の待ち時間で考えた。

序論 変化するゾンビ〜ファスト化、隣人化

ゾンビにおいてもファスト化は進んでいる。その結果、感染から発症までのスパンは年々早くなる傾向が見られる。
例えばゾンビ事例報告者として知られるジョージAロメロの最初期の報告では、感染から発症まで数日を要していたのに対して、近年の事例(「アイアムアヒーロー」「ラスト・オブ・アス」「ドーン・オブ・ザ・デッド」など)では発症まで概ね24時間程度に短縮されている。

またロメロなどによる初期のゾンビ事例で見られた感染者が生物的な死を経て、ゾンビ、すなわち蘇った死者として活動するラザロ型の消滅だ。近年のゾンビ事例で共通するのは、感染者が徐々に人間性を喪失して段階的にゾンビへと変化していく隣人型である。
本稿ではこれらの変化はどのようにして生じたのかについて考察する。

1.社会的存在としてのゾンビ

初期ロメロが数日要したのに対して、「ラスト・オブ・アス」では一日まで短縮された。これは人間社会のゾンビ対策が高度化し、感染後速やかな死体処理などが一般化したことに対しての反応であると考えられる。
一方で火葬が主流である日本では長らくゾンビパニックが発生していなかったが、2010年代から「アイアムアヒーロー」など国内におけるゾンビ事案の発生が報告されている。このケースにおいても、発症のサイクルは早く、感染から一日以内の発症が確認されている。これは従来の数日を要するに発症モデルが、時代を経て短縮されたため、日本の火葬文化に適応したといえるだろう。

またこの短期型のサイクルは、医療制度が発達し、人口密度の高い日本をはじめとする先進国の都市部において、即時に感染者がゾンビとして処理されることなく、人流の集中する医療機関や雑踏で発症することで感染の拡大を最大化させることに淘汰圧が生じたと考えられる。

ラザロ型から隣人型への変化は、ゾンビが社会構造の変化に伴い社会的存在として社会システムに浸透する淘汰圧の結果として、感染サイクルのファスト化と同時に生じたと説明できる。
すなわちゾンビは外在的な存在ではなく、社会に内在する者として変化したのだ。

2.超短期型のジレンマ 事例「28日後」

しかしながらこの都市部における感染拡大への最適化の立場に立てば、「28日後」における数秒での超短期発症は、感染源をゾンビとして即時処理される事態を招き不利であると考えられる。しかしながら同事例では、それを強力な感染力で補っていた。感染者の体液が一滴でも体内に入れば即座に発症するほどの感染力であり、対応にあたる治安部隊も接触からほぼ同時にゾンビとして拡散源となるため、その拡大速度は速い。感染予防のための防護服などの手配が間に合わないほどの速度で拡散した結果、都市の中央部から壊滅したいったと推定される。このゾンビ株は特に都市圏に特化していると言えるだろう。

だが、この超短期発症型が都市部を越えて地方の閑散部にまで拡散したことは疑問だ。なぜなら潜伏期間中に感染源が移動することで更なる拡散へ繋がるモデルが適用できないからだ。

このケースでは、感染源への曝露量による発症期間の二重化が仮説として考えられうる。事実、エボラ出血熱や狂犬病では、病原体への曝露量により発症と症状の差が生じることが知られている。

すなわち、直接的にゾンビからの咬傷や体液への被曝により即座に発症するケースと、飛沫により時間差をもって発症するケースの二重の感染が生じていると仮定するなら、都市部での激烈な打撃と、地方への伝播が説明できる。

しかしながら「28日後」では、28日のうちに確認できる限りで地方を含むイングランド全土を中心にヨーロッパ大陸の大部分まで感染が拡散している。

人類史上稀に見る速さで感染が拡大したCOVID-19では、一カ月足らずで大陸をまたぐ拡散も見られたが、COVID-19の症状は風邪と識別が困難であった点が異なる。発症後のゾンビは誰から見ても一目で識別が可能だ。事実、症状が外見的に激烈なエボラ出血熱が、アフリカの一部地域で辛うじて封じ込めができている。
このような疾病の特性を鑑み、都市部の壊滅に伴い航空便や船便などの交通網が麻痺し・封鎖されているであろう状況で、人の移動による感染拡大がこの短時間で海峡を跨ぎ拡がったことは説明が出来ない。

3.現代的接触とゾンビ

どのような経路で感染が拡大したかについては、現在の疫学では説明が困難であると認めざるをえない。現在までに確認されていない新たな感染経路の存在が示唆される。考えられうる可能性として、情報による伝播が挙げられる。アメリカの報告者スティーブン・キングによる「セル」事例では、携帯電話の電場を媒介して人々がゾンビのように変化したことが報告されている。また日本国内のケースでは、鈴木光司による「リング」シリーズではビデオテープ等の情報メディア、また秋元康による「着信アリ」シリーズでは前出の「セル」と同じく携帯電話を媒介に、人体に病理的な変化が生じることが報告されている。更にCOVID-19パンデミックにおいても、5G電波を介してウィルスが拡散した例がSNSを通じ多く確認されている。

4.なにが我々を繋ぐのか?

このような事例に見られる非物理的接触による伝播をゾンビ事例に適用するならば、近年生じている爆発的な拡大にも一定の説明が可能だろう。つまりインターネット、スマートフォン、SNSなどにより、人から人へ伝播する速度は爆発的に加速している。

ゾンビは常に人と人との関わりの中に生じてきた。現代において私たちは隣人とインターネットにより繋がる。ならばそこにゾンビが生じないと断定はできない。なぜならゾンビは常に人間の想定外からやってくる。故にゾンビは消滅しない。

今後のゾンビパンデミックへの対応を考える上で、新たな形態による拡散は、更なる調査が求められる。

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