服飾文化論 モードとアイコン 2025年のなんとなく、クリスタル

私のブランド生活

 私にも一応好きなブランドがあって、バーバリーとポール・スミスは好きだ。バーバリーは本国よりもブラックレーベルが好き。その流れでユナイテッドアローズやビームスなどのDCラインも好き。
 ワイズやヨウジヤマモトも昔よく着ていた。古着でなかなか手頃なものが出ないので買わないが。

 ヴィヴィアンはアクセはキャラではないが、シャツやニットは好きだ。アウターは攻めすぎる。ただヴィヴィアンは私が見ていた2010年代には、既に保守的になりつつあった印象。高品質なアイコンとしてのモード、アヴァンギャルドという立ち位置だ。 
 それにしてもヴィヴィアンが、いつの間にかオーブなどのアクセに関してはスタンダードなアイテムになっているのが面白い。同じブランドを身に付けてもスタンスは全く異なる。
 これを私はモードとアイコンの分離と読んでいる。

ブランドにおけるモードとアイコンの分離

 いわゆるハイブランドのアパレルは、一般的な服飾感覚からすると日常服にはしにくいデザインと価格帯なので、ブランドイメージを気軽に楽しめるアクセやバッグなどの小物が人気になるのは分かる。内情は知らないが、アクセや小物で稼いだ金でハイカルチャーなアパレルを作っているのだろう。
 そしてアパレルを作ることにより、ブランドイメージという象徴的価値が生じ、それが更にアイコンの価値を高める再帰的な関係にある。

パリコレモデルがなぜ強い?(みんな今年のコレクションを知らないのに)

 例えるなら「パリコレモデル」はモデルの価値を強調するためによく使われるが、実際にパリコレをチェックしている人は極小しかいない。けれど、みんなパリコレをパリコレとして認識しているから価値発生装置になる。そんな関係。

ストリートファッションのフェティシズム(物神化)

 この関係を更に転倒、あるいはハックしているのがヒップホップ/ストリートカルチャーだ。

 例えばヴィトンやグッチが分離の典型パターンだ。アパレルにしても、ファッジやヴォーグのハイコンテクスト文化からモードとして着る層と、ヒップホップ/ストリート的なアイコンとして着る層で分離している。ストリート感覚でハイコンテクストとして構築された価値を裏書き(ハック)する構造が面白い。
 かつてはデザイナーやブランドの美学を審美し受容する形であったのが、むしろ自らそのロゴに価値を乗せる。文脈の操作によって価値を生み出すヒップホップ的な態度が服にも表れていると言えるだろう。ここではブランドロゴそのものに価値が見出されている。 
 グッチのキャップにロゴが一つもなかったら、ジャージにグッチのキャップというファッションは成り立たないだろう。もはや象徴的資本やパリコレと関係なく、ロゴがロゴとして価値を持っている。いわばフェティシズム、あるいは偶像崇拝にも例えられるだろう。
 そしてブランド側もこのカルチャー的消費、あるいはフェティシズムを前提として、アイテムを量産している。例えばロゴを前面に出したデザインを供給しているなどだが、どんな風にブランドを維持する戦略なのか興味深い。つまりアイコンである自己とモードである自己はどのように両立可能なのだろうか。

モードでもアイコンでもない文化的儀礼としてオープンハート

 クリスマス前の話題でガールフレンドへのプレゼントが挙がるが、ティファニーのオープンハートが未だに定番なのが面白い。もはやこれは日本人の文化的儀礼みたいなレベルで定着したのだろう。多分バブル期から40年くらい続いている。(ちなみに私の実家にはオープンハートが3つくらいあった。10代の頃にこっそり売り飛ばして小遣いにした)
 ここにもブランドやアイコンとも違う独自の消費構造がある。オープンハートを付けている女性と遭遇したことは恐らくない。これだけみんなが持っているのに。しかし私がもし年頃の女の子だったとしたら、オープンハートは恥ずかしくてつけられないもする。多分、プレゼントをしてくれた相手と会う時にだけ付けているのだろうか。
 もしそうだとしたら、モードでもアイコンでもなく関係性の確認儀礼という極めてミニマムな目的のためのファッション行動がある。これもそのうち調べてみたい。

おわりに〜古着屋、服の発掘現場で〜

 そんなことを久々に古着屋でポール・スミスのジャケットを買ったので考えた。ここはあらゆる歴史と文脈が流れ着く場所。ジバンシー、アンダーカバー、グッチがユニクロと同じフロアに並ぶ化石発掘現場。ここは過去20年の服飾文化史の終着地だ。
 古着に関しては昔から好きなブランドの値段が落ちていないのが嬉しい。逆にまったく見なくなったブランドは懐かしい。エイプリル77やリチウムなど。ただし買わない。もう着られる年齢でも体形でもない。
 それでも服は楽しい。そんな話。

 なお、オープンハートをプレゼントする男性に注意してほしいのは、多分あなたのプレゼントは数日以内にメルカリへ流れるということだ。だってもう持っているから、売っても分からないでしょ。オープンハートを収めた古着屋のケースは、まるで博物館のそれだ。

 『なんとなくクリスタル』は一度だけ読んだ。

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