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地方出版社発 現代日本社会の淵源を問い、日本近代文学史のミッシングリンクをつなぐ傑作小説。松本薫著『火口に立つ。』

女性が生き抜く力を時代と共に描いた傑作。

文芸評論家 絓秀実

二回読みました。二回とも泣きました。

元米子市立図書館司書 / 大人のための100選 監修者 大野 秀


今井印刷出版部です。
今回は、小社より出版した、松本薫著『火口に立つ。』を紹介します。

現代と響き合う物語

今、私たちはどんな時代を生きているのでしょうか。
社会の閉塞感や行き詰まり、生きづらさを感じるとき、「この世界はどこから来て、どこへ向かうのか?」という問いが頭をよぎります。答えの見えない混迷のなかで、私たちはどのように生きるべきなのでしょうか。
 
小説『火口に立つ。』は、そんな現代の問いと響き合う物語です。
舞台は、大正時代——明治維新による近代化が推し進められる一方で、社会のひずみが露呈し始めた時代。この歴史の渦中で懸命に生きる、ひとりの女性・律の姿を描きます。彼女は、自らの人生を模索しながら、時代の激流の中で翻弄されていく。社会における女性の自立とは何か、家族とは、病とは、自由とは。律の生き方は、過去の物語ではなく、今を生きる私たちと地続きのものとして響いてきます。 

近代の黎明期を生きた生田長江

そしてこの物語のもう一人の鍵となる人物が、生田長江(1882-1936)です。
彼の名を聞いたことがある人は少ないかもしれません。しかし、彼こそが日本で初めてニーチェ(1844-1900)を翻訳し、よく知られた夏目漱石(1882-1936)の講演録『私の個人主義』を世に問うきっかけをつくった人物でした。彼は近代を推進しながらも、同時にその限界を鋭く批判した。一見すると矛盾しているように見える彼の思想は、しかし近代と真に向き合い格闘したことを証し立てるものだといえます。そして本書は、既存の歴史の枠に収まりきらなかった、しかし、自らの思想においては貫徹した彼の姿を、浮かび上がらせます。

 「国家的道徳というものは、個人的道徳に比べると、ずっと段の低いもののように見える。」

(夏目漱石『私の個人主義』)

漱石がこう語った時代、人々は近代化の波に翻弄されながらも、自らの生き方を模索していました。律も、生田長江も、そのなかで自分の足で立とうとし、思想や生き方を形作っていった。 では、私たちはどうでしょうか?

私たちもまた、「火口に立つ」

タイトル『火口に立つ。』は、生田長江の詩から取られています。

ひややかにみずをたたえて
かくあればひとはしらじな
ひをふきしやまのあととも

(『火口に立つ』 p.519)

今は穏やかに見える景色の下には、かつて激しく燃え盛った炎の名残が横たわっています。これは過去の話ではありません。21世紀の今、私たちはパンデミック、大震災、戦争、金融危機といった「火口」に立たされているのではないでしょうか。

生田長江が問うていたものを、ニーチェの顰に倣って、「近代の彼岸」と呼ぶことができるかもしれません。この物語は、単なる歴史小説ではなく、現代を生きる私たち自身に突きつけられた問いです。私たちは、律の生き方や長江の苦闘に、いまの時代とそして自分自身を重ねずにはいられないでしょう。

ぜひ、あなた自身の目で、この物語を確かめてみてください。

この小説の登場人物
平塚らいてう / 伊藤野枝 / 尾竹紅吉 / 市川房江 / 有島武郎 / 石川啄木 / 大杉栄 / 堺利彦 / 森田草平 / 高畠素之 / 住井すゑ / 与謝野晶子 / 馬場孤蝶 / 夏目漱石 / 森鷗外 / 佐藤春夫 / 生田春月 / 高群逸枝 など


お寄せいただいた感想から
●自立とは何か?
私たちにとって自立とは何だろうかと考えさせられました。たとえば、経済的に自立していれば、自立していると考えてよいのか。やむなく郷里に子どもを残してきた律の姿に、社会のあり方をふくめ、いろいろな問いをもらいました。(40代女性) 

●現代を生きる私たちに響く物語
夏目漱石や、民藝の柳宗悦も加わった白樺派などの同時代人で、今回初めて生田長江という人物が活躍していたことを知りました。自身もらい病を患い、表向き、矛盾も感じる言動には、じつは、時代もまた混乱していたのだということを感じさせました。目指すべき目的地を手探りで模索していく姿に感銘を受けました。(50代男性)


『火口に立つ。』
著:松本 薫
発行: 小説「生田長江」を出版する会
発売:今井出版
発行日:2024年2月
ISBN:978-4-86611-372-2
判型:四六判
ページ数:526ページ

本書は、民間有志の団体『小説「生田長江」を出版する会』の企画によって生まれました。行き詰まりを見せる現代社会において、生田長江の思想が生きるための指針となり、多くの人に届くことを願っています。

著者紹介
松本薫 (まつもと かおる)
鳥取県米子市生まれ。2000年「ブロックはうす」で早稲田文学新人賞を受賞し、2005年「梨の花は春の雪」が鳥取県西部で制作される市民シネマの原作に選ばれる。
おもに鳥取県内の歴史や、ゆかりの人物をモチーフにした小説を書いている。
梨の花は春の雪』(2006)、『TATARA』(2010)、『ばんとうー山陰初の私立中学をつくった男』(2017)で鳥取県出版文化賞を受賞。
その他の著書に『謀る理兵衛』(2013)、『天の蛍ー十七夜物語』(2015)、『日南X』(2019)、『銀の橋を渡る』(2021)などがある。


今井印刷では、これまでにも多くの自費出版を手がけてきました。
『火口に立つ。』も今井印刷の自費出版事業より出版されています。
本づくりをお考えの方、ぜひお問い合わせください。



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