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核酸ワクチンと自己免疫疾患

さて、ここまでの話で賢明な読者諸氏の中には既に結論に至っている方も多いと思うのだが、最近話題のトピックに少し触れておこう。現在、世界では様々な種類の核酸ワクチンが使用されている。これは新規のワクチン製剤であり、新しい機序に基づいた機能が発揮されている。一方で、「核酸を基にした製剤」に自己免疫疾患の発症リスクが伴う事は今までの基礎的な知識を踏まえて考察していただければ自ずから理解出来ると思う。

核酸ワクチンには色々な種類があるのだが、原則として「核酸分子を主体として細胞内で抗原を生産させる事で獲得免疫を成立させる製剤」という事になるだろう。その点において、理論上の分類をすると「DNAワクチン」「RNAワクチン」「ウイルスベクターワクチン」が存在する事になる。送達経路や副成分、構造に違いこそあれ、いずれも細胞内において核酸成分がセントラルドグマを利用して標的タンパク質を合成するという機序は共通である。個別の議論は複雑化するので、以降では核酸ワクチンの一般論を中心の述べる事にする。

大前提として、核酸ワクチンは通常のワクチンよりも有効性が高い。その理由は既に述べた免疫の色々な反応に関して、「自然免疫」「液性免疫」「細胞性免疫」の全てを活性化するからである。通常のワクチンではアジュバントと呼ばれる免疫賦活剤として「水酸化アルミニウム」が用いられる(何も使わないものもある)。これは「自然免疫」を殆ど活性化しないため、「液性免疫」だけが成立する(抗体産生だけが誘導される)。これが今までの多くのワクチンである。しかし、核酸ワクチンは先に示した通り、強力な核酸認識シグナルによって「自然免疫」を活性化し、後述する特有の抗原提示機序によって「細胞性免疫」も活性化する。抗体産生だけではなく、あらゆる免疫システムを活性化する事が高い有効性に繋がっている。

ただし、何度も言っている様に免疫系と言うのは「バランス」の維持が最も重要であり、強ければ良いというものでは決してない。強過ぎる免疫の活性化は炎症性疾患、自己免疫疾患を始め、免疫バランスの崩壊・免疫疾患発症のリスクを必ず上昇させるからだ。核酸ワクチンの免疫活性化能が既存のワクチンと比べて異質である事は一般的な副反応の顕出などで既に自明の事と思うが、さらに特有の分子生物学的機序や免疫学的理論に基づいた核酸ワクチンの具体的なリスクは以下の3点だと考えている。

1点目は、いつも触れている核酸認識シグナルの活性化、自然免疫の活性化、I型IFNの産生である。先の記事で触れた通り、外来の核酸は極めて危険な免疫活性化因子となる。これらのシグナルが活性化するという事、そのものが自己免疫疾患の発症リスクを高める要因として長らく研究されてきたものなのだ。但し補足しておくと、RNAワクチンに関しては現在使用されている製剤に施されているウリジンの修飾によって、いくつかの核酸認識受容体(TLR7など)に対する反応性を低下させている。しかし、全てのシグナルを抑えている訳ではなく、どの程度の自然免疫活性化が生じているのかについてのデータも不十分であり、より慎重な評価が必要である。

2点目は「細胞性免疫」、つまりCD8陽性キラーT細胞の活性化である。抗原提示の項で「細胞質内にある抗原」はMHC-I経路を通じてCD8陽性T細胞を活性化する、と書いたのを覚えているだろうか。この現象を非常に高効率に誘導するのが核酸ワクチンなのである。何しろ細胞質、正にその場所で抗原を製造するのだから。繰り返すがこの機序による抗原特異的キラーT細胞の誘導は効果という面で非常に大きな寄与をしている。しかし、同時にこの機序は非常に強力な炎症性悪影響を及ぼしていると考えるべきである。核酸ワクチンによるCD8活性化に関して最大の問題点は「あらゆる自己の細胞に抗原を提示させ、それに反応するCD8T細胞が活性化されている」という状況の出現である。CD8T細胞の標的となった細胞は当然ながら破壊の対象となる訳で、それが様々な炎症に結びついているのだ。また、自己の細胞が破壊されるという現象も、以前に書いた細胞死による細胞内物質の漏出という自己免疫疾患リスクに直結する。ずっと昔から、CD8に自己細胞を標的に反応させるだけで炎症性疾患や自己免疫応答状態になる事は実験されているのだが、類似の減少がそこかしこで起こる事になるのだ。心筋炎や自己免疫性肝炎など含め、臓器特異的自己免疫疾患ではCD8の活性化・浸潤が多くみられ、主要なエフェクター細胞と考えられているが、ワクチンの副反応としてこれらの臓器特異的炎症性疾患が多いのはこの機序が関係していると考えても不思議はない。

3点目は「核酸分子」そのものが自己抗原であるという問題である。SLEなどの全身性自己免疫疾患では自己抗体として、抗核抗体、抗DNA抗体、抗RNA抗体が産生される。RNAに関しては関連分子との複合体を認識するものが殆どであるが、DNAなどはそのものが自己抗原として成立しうる。核酸ワクチンというのはこのように自己抗原となり得る分子を大量に外部から取り込んでいるという事実を考慮する必要はある。

以上が「核酸ワクチンに特有の問題」であるが、一応断っておくと、核酸ワクチンに限らず、免疫を活性化する製剤はもちろん免疫疾患のリスクになる。例えば標的抗原と自己抗原のクロスリアクションなどが原因で、臓器特異的自己免疫疾患に繋がるケースはあるのだ。これは製剤が核酸であっても、タンパク質であっても、可能性としては同じである。但し、「免疫活性化の強度」が違うという点に於いて、結果的な発症率に差が出る事はあり得るが。

そして、「核酸ワクチン」という製剤が無くなった後も、免疫系に対する影響は残り続ける(というか、ワクチンの効果としても、免疫に対する変化は製剤が消えても残っているのだから当然なのだが)。免疫応答が強く活性化された状態が続けば、僅かな「トリガー」で自己免疫疾患を発症しやすくなるし、一度自己免疫が成立していれば、製剤としての核酸が消えた後も炎症反応が続く訳だ。

ちなみに勘違いしてもらっては困るが、上記のリスクによって100%の人間が自己免疫疾患になる訳という事ではない。当然ながら、自己免疫疾患というのは遺伝子などの「先天的要因」と先に示したリスク要因を含めた「後天的要因」の複合要素によって、「発症リスク」が上がっていき、何らかの「トリガー」をきっかけに発症すると考えられている。核酸ワクチンについては「後天的要因」の一つであり、「トリガー」となり得るだけのリスクを持っている、と考えるべきなのだ。一般的に疾患ごとの新規発症者数など統計値が出るまでには数年待たねばならないが、自己免疫疾患の発症率が2倍に上がる程度だとしても、自己免疫疾患を専門とする免疫学者として看過できるものではない。現時点でも核酸ワクチンと自己免疫疾患の関連を示唆した報告は多くされており、それらはまた別の記事でまとめさせてもらおうと思う。

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