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核酸ワクチンと自己免疫疾患②

今回は症例報告などから実際の自己免疫疾患発症を考えていきたい。例えば「RNA vaccine autoimmunity」とPubmedで検索すると、RNAワクチン接種後の自己免疫疾患発症や再発について医師が危惧して報告した症例が出て来る。この検索結果について興味深い事の一つは、2021年は50数件だったにも関わらず、2022年は2月終了時点ですでに20を超えている事だ(これは検索結果の数だけなので、その全てが意図した内容を含む訳ではないが、傾向は変わらない)。このままのペースだと2022年は症例報告数が昨年の倍以上になる。これが自己免疫疾患において「核酸ワクチンの繰り返し投与」や「長期的な悪影響」を懸念する理由のひとつでもある。DNAワクチンについても同様に多くの報告があるが、ここではRNAワクチンに限って述べる事にする。

さて、それでは疾患ごとに見ていこう。まず初期から報告され始めたのは「臓器特異的自己免疫疾患」のいくつかである。最も有名な「心筋炎」については言うまでもないので省略する。おそらく次点で多いのが「自己免疫性肝炎」である。これはかなりの症例報告があり、総説などでも危惧されている(J Autoimmun. 2021 Dec;125:102745. ,J Autoimmun. 2021 Dec;125:102741. ,J Autoimmun. 2021 Sep;123:102688. ,J Hepatol. 2021 Nov;75(5):1250-1252. ,J Autoimmun. 2021 Sep;123:102706. ,など)。また、「自己免疫性溶血性貧血」についても同程度の多さである(Case Rep Hematol. 2022 Jan 29;2022:2036460. ,J Investig Med High Impact Case Rep. Jan-Dec 2022;10:23247096211073258.,Transfusion. 2021 Nov;61(11):3267-3271.,Cureus. 2021 May 15;13(5):e15035.,など)。一般論として、これらはいずれもCD8陽性T細胞の増殖・活性化や、組織への浸潤が認められる自己免疫性炎症性疾患であり、核酸ワクチンによるCD8活性化が一因となっている可能性は高いと考えられる。その他の機序についても、各々の症例報告で仮説や示唆がある。

少し経路は違うが「バセドウ病」も多くの症例報告がある。つい先日出た論文には過去のものも含めて網羅的に収載されているのでそれが参考になるだろう(J Clin Endocrinol Metab. 2022 Mar 2;dgac119.)。この論文では12の症例が報告されているのだが、私が注目したのは12人中11人が女性だったという点だ。通常、バセドウ病の男女比は1:3~5と言われている。数は12人と言え、女性が12倍というのはかなり極端な偏りに見える(仮に「ランダムに6分の5が女性の集団中から12人選んで男性が1人だけになる確率」を計算すると10%ちょっと)。これは自然発症時に見られない他の要因が関わっていると考えても不思議ではない。

但し、バセドウ病は既に書いた通り、主に「自己抗体」によって引き起こされる「恒常性機能亢進疾患」である。そして、このワクチンに関してのバセドウ病との関りも、「Sタンパク質に対する抗体が、甲状腺の抗原と交差反応している」という仮説が提示されている(Clin Immunol. 2020 Aug;217:108480. )。逆に言えば、核酸ワクチンによらずとも同様の現象は起こり得ると言えるので、「特有の」リスクかどうかについては議論が必要である。

全身性自己免疫疾患については影響が出るまで時間が掛かると思っていたが、最近になってSLEで新規発症や寛解状態だったのに再燃といった症例報告が増えてきた(Case Rep Rheumatol. 2022 Feb 11;2022:6436839.,Dermatol Online J. 2021 Nov 15;27(11). ,Case Rep Rheumatol. 2022 Feb 1;2022:9698138. ,QJM. 2022 Jan 9;114(12):882-883. )。全身性自己免疫疾患は自己抗体によって免疫複合体が形成され、それが慢性的に炎症を引き起こすため、自己免疫が成立しても発症までの時間が掛かる。遺伝的素因を持つ人が、どの様に核酸ワクチンから影響を受けて「後天的要因」の一つとなったか、「症状が出るトリガー」となったかは、個別に異なるだろう。だが、自己免疫疾患の中でも「全身性自己免疫疾患」は根治が不可能でQOL低下につながる疾患であり、予防的措置を優先する事は非常に重要と言える訳で、無思考にこのリスクを看過するのは愚の骨頂である。

その他にも稀な自己免疫疾患の報告はちらほらと出ている。傾向としては重症筋無力症や神経系の炎症性疾患など(Cureus. 2022 Jan 4;14(1):e21571.,RRNMF Neuromuscular Journal, 2(2).,Eur J Neurol. 2022 Feb;29(2):555-563. )、天疱瘡を始めとする皮膚の炎症性疾患など(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2021 Dec 12.,J Eur Acad Dermatol Venereol. 2021 Oct;35(10):e649-e651.,Dermatol Ther. 2022 Feb 15;e15381. )が多い。珍しいところだとI型糖尿病もある(Intern Med. 2022 Feb 8. )。そのほかにも全身性に炎症性の症状を呈した症例は報告されている(Vaccines (Basel). 2021 Dec 30;10(1):43.,BMC Rheumatol. 2021 Dec 28;5(1):60. など)。このように、免疫系の活性化は様々な炎症性のリスクを持っているという事は理解してほしい。

最後に、これらの症例報告は「何割の人間がこうなる」という解析ではないので、現時点で「どの程度のリスクがあるのか」というはっきりした数字は誰にも分からない。自己免疫疾患というのはそもそもが、極めて例数の少ない希少疾患であり、関連を調べるのも難しい。新規発症者数の統計が出るのも数年かかる為、その後に後ろ向きのコホート研究を行う必要があるだろう。ただし、これらの症例報告は、「大勢の新規発症者」が居る中で、担当した医師が「ワクチンとの関連を疑うべき」と考えて報告されているという事は理解しなければならない。その背景には「報告されたけど実は偶然発症した」人も居れば、当然ながら数倍の「報告されてないけど本当はワクチンがきっかけで発症した」人も含まれるだろう。バセドウ病で見られたような「不自然な数字の偏り」など関連を示唆する現象を基に機序を考察し、研究が深まっていく事を期待している。

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