【本望】
「雪がこの上なく好き!」
そう言ってはしゃいでいた、集めた雪をボクに、結構本気でぶつけて、
ニヤニヤしながら走って逃げて、ド派手に転けて、1人大笑いしてた。
笑いながら立たせようと腕を引っ張られて、ボクまで転けさせた。
2人してびしょびしょで、雪まみれでまた大笑いしてた。
なんだか、子供に戻ったみたいで。
全てが無邪気で。
ボクとそんなに違わない彼女の背の高さ、すっと立った姿に、屈託のない笑顔。
…そして、それとは裏腹に鋭い目が。
ぎゅぎゅっと響く足音、びしゃびしゃの靴に、深々と降る雪。
「死ぬほど好きだけど、めっちゃ寒がりやん?わたし。」
…知らんし笑
ホッカイロや、ヒートテック、ダウンジャケット重ねに重ね、
ここぞとばかりに重ね着、
まるで、極寒の国から来た様な格好でいつも電車に乗り、
暑い!と言って文句を言い出す矛盾が多すぎる彼女は、
原因が自分にあるとは思っていない。
…そういう人だ。
そして、電車のドアが開き、ぶあっと寒い空気が入ってきて、
そこに「寒い!」とまた文句をいいながら、
突っ込んでいく彼女の後ろ姿を見るとわらけた。
彼女はよく、1人で海外に行ってた。
「恐怖心より好奇心が勝つんよね〜」
英語もままならないのに1人チケットを取って、知らぬ間に。
「今、アイルランドやねん!」とLINEしてきたり、
いきなり訳の分からない土産が届いたりした。
ただ、共通して、寒いところにしか行かなかった。
毎回帰国する度に、
「今度こそはあったかいところいく!ハワイとか!」と言いながら、
わざわざ暑い夏に、南半球の冬真っ只中のニュージーランドに行ったりしてた。
免許更新後、すぐに美容院に行き、髪を40センチも切って、
身分証として出す度、不審がられることがよくあった。
女の人でそんな切るの滅多にないし、そりゃ不審がられるだろうと言ったら、
「顔整形したわけでもないし!」とキレてた。
はちゃめちゃなことを普通にして、よく理不尽にキレてた 笑。
想定外というか、
ボクにはホンマに考えつかないような事を、やってのけていた。
何もかもが、不可解で、愉快で、たまにイラッともした。
LINEで相談してきたので、真面目に考えて答えたら、その後返事もなし。
そして、相談してきたからにはその後どうなったか気になるので、
一時して「前に聞いてきたやつどうやってん?」と聞くと、
「は?なんのことや?」
…こんなことが、度々あるので、
ボクもいちいち真面目に答えなくてもいいのだが。
それでもボクはつい考えて、調べて答えてしまい、
そして案の定、返事を待ってしまうのだ。
「じっくり真綿で、口を押さえられて、呼吸を失っていく感じ。」
彼女は、雪の降る、極寒の海で、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。
「え?どういうこと?」
と聞き返すと、
「え?何か言った?私?吹雪いてるから雪女の声でも聞こえたんじゃない?」と、荒れ狂う日本海のしょっぱい雪か波かわからないものを眺めていた。
何もかもが、なんだか儚く見えた。
何故だろう。寒くて鼻垂らしてるのに笑
両極端というか、100か、ゼロか、白か黒か。
なんかそういう日々を送ってる感じだった、彼女は。仕事以外では。
常に崖っぷちを感じているのが、好きな感じだった。
急に「バイクの免許取るわ!」って言って、
次の時には、ハーレーを乗ってきたので、流石に驚愕した。
人の人生を、どうこう言う気はないのだが、
ちょっと危険な方面に…と思い、彼女に聞いたことがある。
「私ハマると中毒になるねん〜。
だから、”酒、タバコ、賭け事、ドラック、殺し”
…はしないようにしてるんだよね」って。
ふんふん…
「いやいやいや!!最後の二つのやつ絶対ダメ!
こらー!殺しは入れたらいけん!元々!怖すぎるわ!
こわーーー!他には絶対言わない様に!」
と声を大にして言ったら、
「冗談だよ」って言ってw笑い転げていた。
「どんだけシリアスにとらえてんねん!ウケるわ!」
…どこまでも命への、暑苦しい力を感じる彼女。
寒いとこに行きたがるのも、分からなくもない気がした。
自分の中の狂気の熱を、上手くバランスを取っているのではないかと。
エピローグその彼女は、もうこの世にはいない。
自分の父親を殺し、その横で、首を掻っ切って死んでいた。
極寒の雪の中で、血の海に、雪がしんしんと積もっていたという。
ボクは、どうして気づかなかったのだろう、一度あの極寒の日本海で聞いた。
あの「真綿」意味をもう一度聞き返すことができたのなら…。
何か変わっていたのかもしれない。
でも、実際は何も知らなかったし、
何も察することも、何もできなかったし、
変えることもできなかった。
止めることもできなかった。
ボクの意思なんてものを、聞いた試しのない彼女だ。
ボクのことなんて聞きやしない。
もう誰も何も知らないし、わからない。
何一つ残してないし、メッセージもない。
遺書もなく、スマホにも。
何もかも。全てに“そういう”予兆のあるものはなかった。
彼女らしいと言えば…彼女らしい。
ただ…
ただ、ボクは生きて欲しかった。
あの、暑苦しい太陽のような、無駄に眩しい生命の…彼女。
そう感じる存在の人間を。
間近で見るのは本当に驚愕するし、
でも、面白くて仕方なかったし、イラつきもした。
もう二度と会うもんかと思いながら、連絡が来れば会いに行ってたし、
こちらからも連絡していた。
恋とより、タバコや、麻薬のようだった。
ないとイラつく、吸うと落ち着く、でも後で後悔する。
…まぁタバコなんて吸ったことないし、麻薬なんてもってのほか。
「ハマると中毒になるから…」
彼女の強烈なセリフが頭によぎった。ははっ。笑いがでた。
ボクは、理由がなんであれ彼女が。
それを望み全うしたんだと思った。
どんなことであれ殺人は罪だし、気が狂ってたのではと囁かれたのだが、
強い意志を持って殺したことは確かだ。自分自身も…。
だから。
捧げよう、君に、似つかない真っ白の百合。
…本当は何色にも染まらない漆黒の黒が、似合うんだけどね。
”ただ生きて欲しかった、君には。“
地獄で再会したら、そう言ってやりたい。天国になんていない、絶対。
どうせ地獄でも暴れて、閻魔様を困らせているに違いないから。
彼女に。
最も、似合わない純白の百合の束を…ぎゅっと握った。
どさっ!と、
雪の塊が木から落ちてきて、現実に引き戻された。
涙はもう止まっていた。
信号を渡ると、あの「真綿」の海に繋がる道が開ける。
しょっぱい塩の香りと、斜めに振り始めた雪を頬に感じながら、
ボクは抱えてた百合を持ち直した。
ボクも、その強い意思の元、今から…この百合と一緒に、成し遂げる。
彼女の好きなこの極寒の雪の海に身を投げて、
『じっくり真綿で口を押さえたれて呼吸を失っていく感じ。』
…を味わおうと思う。
ボクの人生、好きにしたい。猛烈に思ったのが、これなのだ。仕方ない。
人それぞれ望むものが違う。
ボクは今までこれほどまでにしたいと思ったことがなかった。
彼女に会って、それが生まれ、そして彼女の死によって、
それを叶えることができるのだ。
なんと残酷で、甘美なんだろうか。
きっと言われるよなぁ…「狂気の沙汰じゃない」って。
それほど求めるものがあることに出会えたのなら、寧ろ幸せでしかないと思う。
わからない。
地獄できっと暴れてまくってる彼女を、
驚かすためだけに死ぬなんてアホくさすぎてウケる。
だって、ボクら、セックスなんてしたことないし、手すら繋いだこともない!
恋人でもない彼女のために、「ホンマにアホ」笑える。
でも、ボクの最大の幸せで、最高の瞬間なんだ。
もう現実で…
手に入らないなら、死ぬまでだ。
