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冷徹メガネと天職探しの旅 第38話 よかったな

第38話
会社が入っているビルの一階では複数のお弁当屋さんが出店をしている。ワンコインで買える弁当などもありお財布にとても優しい。中華弁当、焼き肉弁当、唐揚げ弁当とどれも美味しそうだ。散々悩んだあげく一番値段の安い唐揚げ弁当にした。これから無職になる可能性が高いのでできるだけ安い弁当を選んだ。オフィスに戻りお弁当を食べようと思ったが気持ちが乗らなかったのでカフェテラスで1人お弁当を食べることにした。唐揚げが4つ入っているシンプルな構成のお弁当だったが美味しかった。お弁当を食べ終わりお茶を飲んで一服していると社長とエースの小宮山さんさんが一緒に歩いているのを見た。二人とも少し険しい顔をしていた。時計を見ると昼休み終了まで残り10分となっていた。僕は急いで本社へと戻った。机に行き筆記用具と手帳を持ってルームBに向かう。ルームBにはまだ誰も来ておらず空調の音だけが鳴っていた。数分すると人事の多田さんと藤原マネジャーが資料を手に持ち部屋に入って来た。
「お疲れ様です」
多田さんが笑顔で言う。目は笑っていない。
「お疲れ様です」
僕も静かに答えた。
「お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。本日はPIPの振り返りと今後についてお話させて頂ければと思います。1時間程度を予定しております」
「わかりました」
多田さんはパソコンを開き、資料を藤原マネジャーと僕に手渡した。その資料には今までの売り上げ成績が記載されていた。
「またここでの話を録音等はしないでください」
録音という言葉にビックリした。もしかしたら他の誰かが録音をしていたのかもしれない。
「もちろんです」
何もやましいことは無かったが、変な汗が背中に流れた。
「本日はPIPの振り返りを行いたいと思います」
藤原マネジャーは何も言わずに腕を組んでいる。
「一か月目と、二か月目は残念ながら目標は達成できていません」
数字は残酷だ。そこの裏にある商談や様々に影響する可能性が見えにくい。
「一か月目と二か月目はいかがでしたか?」
「通常どうりの営業活動だったので中々売り上げを上げる事ができなかったです」
多田さんはうなずきながら聞いていた。そのうなずきは大きくわざとらしかった。
「しかし三か月目の最終月は達成されていますね!」
「お客様の紹介案件が何個か重なり新規で大きな受注が何個か入り売上達成することができました」
笑顔で多田さんはこちらの話を聞いている。
「わたしもお伺いしています。藤原マネジャーの指示どうり動いて結果が出たそうですね」
藤原マネジャーの指示どうりという言葉を聞いて一瞬耳を疑ったがあえて何も言わなかった。部下の結果を藤原マネジャーが自身の手柄にするのはよくあったことだ。藤原マネジャーの顔を見ると満更でもない顔をしていた。
「三ヶ月間をPIPで最初の二か月間は未達成」
多田さんが話すのをボンヤリと聞いていた。他の人からはPIPが終わった後に退職勧奨がされ、退職金の話になると聞いていた。退職金が給料半年分出たという話も聞いていたのでどれくらい出るか、それが今の一番興味があることだった。
「しかし最後の一か月間は藤原マネジャーの指示もあり達成。現在も売り上げが上がっていることも考慮してこれでPIPは終了したいと思います」
予想と違う話の流れになり、僕は思わず人事の顔を二度見してしまった。人事は満面の笑顔で話している。
「よかったな」
藤原マネジャーが小さく口角を上げて言った。
「どういう意味ですか」
「これでPIPは終了です。通常の業務に戻って頂いて構いません」
「退職勧奨とかは無いのですか」
多田さんの目が一瞬温度を失った。そしてすぐに笑顔に戻った。
「色々と噂が出ているみたいですね。そもそもPIPは社員の方の能力開発を行うために実施する施策です。能力開発をしても結果が出ない方には違う提案もするこたがあります。しかし今回荒田さんはしっかりと結果を残されました。PIPの成果が出たということです。退職勧奨はありませんよ。荒田さんはこれからも弊社で一緒に仲間として働いて頂ければと考えております」
多田さんは笑顔を崩さずに流れるように話した。
「特に質問が無ければこれで終了したいと思います」
僕は何かを言わなければならないと思ったが言葉が出ずにいた。藤原マネジャーが腕時計をチラッと見た。多田さんも書類を片付け始めた。
「それでは失礼します」
多田さんが書類を片手に立ち上がろうとした。藤原マネジャーも背もたれに一度体をあずけてその反動で立とうとした。
「すいません」
「はい?」
多田さんが中腰の姿勢でこちらを見た。藤原マネジャーは露骨にめんどくさそうな顔をした。
「退職勧奨をされた人が退職金半年以上出たというのは本当ですか」
一瞬部屋の空気が固まった。
「他の方の事柄に関しては個人情報の観点からお答えすることはできません」
「もし今私が退職をしたいと言ったらその対象となりますか」
多田さんは座り直してこちらを見て言った。
「なりません。自己都合退職となります。もともと弊社は退職金制度がありませんので自己都合退社でお金が支払われることはありません。また自己都合退社のため失業手当の受給にも待機期間が必要となります」
多田さんは身体の前で手をクロスさせている。表情から温度が消えている。
「PIPも頑張ってきましたし、また一緒に頑張っていきましょうよ」
多田さんは笑顔に切り替えて言った。
「辞めたいのか」
藤原マネジャーが立ったままで僕に聞いた。その言葉を聞いて多田さんの顔が強張った。
「転職先も決まってないんだろ。ここで逃げたらまた同じことを繰り返すぞ」
僕は何も答えない。何故だか同僚佐藤の顔が浮かんでいた。
「今のお前みたいに中途半端な状況だったら、どこに行っても通用しないぞ」
「そんなこと、わかりませんよね」
僕は机の端を見ながら言った。言葉が自然と出てしまっていた。
「わかるよ。お前の仕事を管理しているんだから。今逃げ出したら失敗するよ。他の会社でも同じように逃げ出して、短期離職を繰り返して最終的には単発バイトだよ」
「藤原マネジャーは仕事楽しいですか?」
「仕事に楽しいも、悲しいもない。甘いこと言うな、だからダメなんだよ」
「人事の多田さんは楽しいですか」
多田さんは無言で答えなかった。ただこちらを見ていた。
「僕は…」








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