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小説:冷徹メガネと天職探しの旅 第16話 褒められた記憶

第16話 褒められた記憶
「子供が野球選手やYouTuberに憧れるのはそれが身近にあるからです」
「身近にあるから」
「そうです。違う言い方をすれば魅力的な職業をそれしか知らないからです」
天神さんはデスクトップを閉じた。
「これは大人にも言えます。転職活動の時に自分が知ってる範囲内で転職先を決めようとします。しかし実際は知っている業界や職種は限られています。その人が知らない業界や職種は大量にあります」
「確かに今回の転職フェアに出て知らない業界が職種が沢山ありました」
「もしかしたら知らない業界や職種にその人の天職があるかもしれません。無知のせいでその転職に出会えないのは勿体なさすぎます」
僕はノートをカバンから取ってメモを取った。
「そこで大切になるのが知らない業界・職種を知ることです」
「だから転職フェアに参加したのですね」
「言葉で説明するより体験して貰ったほうが理解がしやすいですからね」
転職フェアで回った今までは接点が全くなかった業界や職種が頭に浮かんだ。
「転職フェアに参加して良かったです。だけど参加者も多くてあれだけの人から選ばれないといけないと考えると少し落ち込みました」
「全員がライバルになるわけではないです」
「でもいい会社には良い応募者が集まりますよね・・・」
僕の頭には転職フェアで会った2人の顔が浮かんだ。
「それは事実ですね」
天神さんは涼しい顔で言った。僕の胸には不安な気持ちが雨雲のように広がっていった。「どうすればいいんでしょう」
「荒田さんの強みは何か知ることができればその問題は解決します」
「強みですか…」
平凡なサラリーマンで売上がトップなわけでも無い。顔が特別に良いわけでもなく背も低い。僕は自分の強みの無さに頭を抱えた。
「天神さん!僕に強みは無さそうです」
天神さんは僕の目をジッと見つめた。
「強みが無い人間はいません」
天神さんはスッと立ち上がった。
「コーヒーと紅茶どちらがいいですか」
突然の質問に僕は少し動揺した。
「紅茶でお願いします」
天神さんはスタスタとカウンターへ歩いていった。注文を終えた天神さんはアイスティーとミルクレープをおぼんに乗せて席に戻ってきた。
「どうぞ」
天神さんはアイスティーをこちらへ渡してくれた。
「ありがとうございます。いただきます」
僕は頭を下げてアイスティーを飲んだ。渇いた喉にアイスティーが染み渡っていった。考えてみれば転職フェアに参加してからまともに水分を飲んでいなかったので喉はカラカラだった。天神さんの優しがありがたかった。
「天神さん、強みが無い人間がいないってどうゆうことですか?自分自身には強みがあるとは思えないのですが」
「それは荒田さんの考えている強みが1つの物差しで考えられた強みだからです」
天神さんはドトールの紙ナプキンに絵を書き始めた。2人の男性だ。
「強みとは相手が決めることです。例えば顔が整ってカッコいい。これは世間一般的に言えば強みとなります。しかしカッコよさより安心感を求められる場面もあります。その場合は格好良さよりも親しみやすい顔の方がメリットになります」
天神さんの絵は味がある。
「つまり強みとは他者との違いで、その違いが場面や仕事に求められる事柄で強みになるということです」
天神さんの話は少し難しかった。
「えっとつまり場面によって強みは変わるということですか」
「そうです」
天神さんはミルクレープを頬張りながら答えた。
「つまり他者との違いでニーズがある事柄が強みになります。同じ人間がいないように強みが無い人間はいません」
強みがない人間はいない。その言葉に僕は救われた気がした。
「でもやっぱり自分の強みが全く思い浮かびません!」
僕は机に突っ伏して頭を抱えた。他者との違いは思い浮かぶけど、それはどれもニーズがあるものでは無いように思われた。
「強みを見つける効果的な方法が何個かあります」
「ぜひ教えて下さい!」
僕はテーブルを乗り出して聞いた。天神さんは少し引いているようだった。
「すぐにできる方法は自分が褒められた経験を思い出すです」
「自分が褒められた経験…」
「そうです。これは仕事以外でも構いません。プライベートでも大丈夫です」
「自分が褒められた経験なんてあるのかな」
「20年以上生きているのだから必ずあります。10個書き出して下さい」
「でも」
天神さんはノートパソコンを開き違う仕事に取り組んでいた。僕が話しかけても反応はしてくれなさそうだ。仕方がないのでノートをカバンから取り出して自分が褒められたことを書き出すことにした。10分ほど考えたが褒められた過去が朧気に浮かんできた。商団でお客様から説明がわかりやすいと言われたこと、先輩からホスピタリティがあると褒められたこと、同僚から面倒見が良いと言われたことなどだ。意外としっかり時間を取って考えると浮かんでくるものだ。思い出した文言を忘れないようにノートへ急いで書き写した。褒められた過去を思い出していると色々な人の顔が浮かぶと同時に不思議と感謝の気持ちも浮かんできた。
「順調に書けたみたいですね。どんなことを褒められましたか?」
「そうですね、説明がわかりやすい、ホスピタリティがある、やさしい、面倒見が良い、話を聞いてくれる、安心するとかです」
自分の褒められたことを話すのは少し恥ずかしがったが天神さんが真剣に聞いてくれたので何だか自己肯定感が上がった。
「ホスピタリティに関する強みが多いですね。この強みを活かせる働き方や仕事を見つければ成功しやすいです」
「ありがとうございます」
「自分が褒められたことを書いてみてどうでしたか?」
「最初は恥ずかしい思いと疑念が頭によぎりましたが懐かしい顔が段々と思い浮かび、同時に感謝の気持ちも湧きました」
「誰かを褒める行為は受け取りてにポジティブな影響を与えることができます。日本では褒める文化が少ないので褒めることは意識してする必要がありますね」
「そうですね」
天神さんはあまり褒めるタイプじゃないよなと心に思ったが何も言わなかった。天神さんは残りのミルクレープを丁寧に食べた。
「このミルクレープはチェーン店の中ではかなり上位に入る美味しさです」
何故かミルクレープをぎこちなく褒める天神さんだった。

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