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冷徹メガネと天職探しの旅 第34話 可能性

第34話 可能性
ラインの通知を開いてみると、それは企業からの面接オファーメールだった。天神さんに言われて行った転職フェアで話を聞いた福祉用具のレンタル会社だった。僕は携帯の画面を見つめていたが鞄にしまい、会社携帯を取り出しアシスタント事務への見積作成依頼の電話をした。今は仕事に集中をしたかったので一旦オファーメールの内容は忘れることにした。

一日の仕事が終わり、PC等を片付けてオフィスから出た。最近は一日が過ぎるのがあっという間だ。時間が過ぎるのが早い。これも充実している証拠なのかもしれない。あと一カ月しかこの会社にいることはできないのが何とも皮肉に感じられた。電車の中で携帯でyahooニュースを見ていると面接のオファーメールが届いてたことを思い出した。内容を見てみると福祉用具のレンタル営業職だった。8割がルート営業で既存のお客様との仕事、直接感謝の言葉が貰える等の文言記載があった。お客様との長期の関係性を構築することが出来て、感謝の言葉を貰える仕事は正直興味が湧いたし、自分自身にも合っていると思った。
しかし何かがしっくりせずにそのままラインを閉じた。僕は電車で座りながら考えた。なぜしっくりこなかったのだろうか?ルート営業で感謝の言葉を貰えるのは自分の中では一番やりたい仕事に近いはずなのに、何かが違う。電車の中で考えても結論は出なかった。駅から自宅までも歩いて帰る間も考え続けていたが答えはでない。モヤモヤとした気持ちを抱えながら帰宅をした。そのモヤモヤが夕飯中も頭から離れなかった。スーパーで買った生姜焼き弁当を食べ終え、シャワーを浴び、寝巻に着替えたころにはモヤモヤは解決はしていなかったが忘れようとしていた。もう一度ラインを確認すると隔週だが土曜日の面接も可能との記載があった。条件的には悪くなく、自分の特性にもあっている。面接も平日では無く土曜日にあるので有給を取らずに面接を受けることが出来る。このモヤモヤ解消をするために実際に現場に行って面接を受けてみたいと感じた。僕は少し遅い時間だったが面接希望の返信を送った。携帯を充電してそのまま寝た。

最近また早起きを始めている。5時半に起床をしてモーニングノートを書いてランニングをしている。失恋や第一志望の最終面接が落ちてから崩れていたルーティンだったが、再度開始をした。朝のランニングは気持ちが良い。涼しい風が頬を撫でる。呼吸も自然と上がって来る。リズミカルに足を運ぶ。額に汗が流れるのが感じられる。最初は色々な雑念が頭をめぐるが10分もすると、その雑念は薄くなり頭がクリアーになってくる。瞑想をしているようだ。ハッハッと自分の呼吸音が聞こえる。苦しさを感じるがまだ走れる。スピードはそれほど上げずに自分が走れるスピードを維持している。誰かと競争しているわけではないのでこれで十分だ。走っていると視界が移り変わる。美しい緑林、公園、一軒家、早朝の朝なので人は少ない。昼よりも空気が澄んでいる気がする。汗と一緒に不安やモヤモヤとした気分が流れていく。ただリズミカルに足を交互に出して手を振る。空白の出来た頭に意図せず考えが浮かぶ。谷口さんの顔、現職のオフィス、鳥島社長の話、天神さんの顔。規則性の無く情報が頭に浮かんでは消えていく。その情報に意味合いをつけようとはしない。ただ流れに任せて肉体を動かし続ける。それらの情報もまた頭から消えていく。折り返しも終わりいつもゴールとしている公園が見えてきた。最後は緩やかな坂道になっている。見た目よりも体に効く。太ももに疲労が溜まっていくのがわかるが、足を止めることは無い。どんなにゆっくりでも走り続ける。それがこのランニングで設定した、唯一のルールだ。思い足を前に進めていく、雑念は頭から完全に消えている。息も上がっている。緩やかな坂道を登り切りついに公園に到着をした。僕は大きく息を吐き、歩き始めた。呼吸が落ち着いてきたので蛇口から水をがぶ飲みした。喉が潤い体が蘇ってくる。その時モヤモヤの理由がわかった。僕は「人事がやってみたい」谷口さんや自分のように苦しむ人を無くし、鳥島社長の会社のような人がイキイキと働ける職場を作りたいんだと直感的に理解が出来た。モヤモヤは営業職で進めようとしていたことなのだ。自分は営業では無くて人事職に興味がある。これがモヤモヤの正体だった。しかし未経験で人事職に就くことはできるのだろうか。不安が頭を過る。しかしそこで天神さんの“可能性は思っているより広い”という言葉が思い出された。天神さんは何でもお見通しなんだなと一人で笑った。
「可能性は思っているより広い」
言葉に出してみると、それが真実のような気がしてきた。僕は汗をぬぐい家に帰った。シャワーを浴びて、バターを塗ったトーストとコーヒーを飲む。その後着替えて会社に向かった。会社に向かう道中に携帯電話で人事職への転職を調べてみた。やはり未経験での人事転職は難しいとの記載が多数だった。天神さんにラインで聞いてみようと思ったが、連絡は辞めた。自分の力で一度考えてみる。天神さんには十分すぎるほどアイデアを貰った。それに転職活動が終わってもキャリアの旅は続く。その時には自分自身で考えなければならない。
しかし未経験からの人事職への転職記事は中々見つからなかった。携帯で毎日調べるが有益な情報は出なかった。やはり無謀な挑戦なのだろうか?諦めの気持ちが心を覆ってきていた。ベッドに寝そべり天井を見るが打開策は思い浮かばない。諦めてシャワーを浴びることにした。頭からシャワーを浴びて泡だてていると天神さんとの会話が急に頭に浮かんだ。
『面接はある意味自分を売る営業です。自分自身という商品を知り、人事という顧客に必要だと思って貰う営業です』
「面接は自分という商品を売る営業…」
シャワーを浴びながら呟いていた。自分自身を未経験職種で売るとしたらどのような手段を営業として取るだろうか?顧客(人事)は何をニーズとしているのだろうか?今まで営業職しかしてこなかったが、今こそ、その知見を活かせるのではないかと希望と熱意が胸に灯った。僕は急いで体を洗い、外に出て体を拭いて部屋着に着替えた。この想いがあるうちに何か行動へ移したかった。


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