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冷徹メガネと天職探しの旅 第30話 終わり

第30話 終わり
「このあと商談があるからついてきなOJT研修だ」
「今日は午後休を取っていて」
僕は曖昧に笑って答えた。
「時期変更権の話をしたよね」
藤原マネジャーも口角を上げた。目は笑っていなかった。
「どうしてもこの後いかないといけない用事がありまして」
時計を横目で見る。いつの間にか時間が経っており最終面接までギリギリの時間だ。今出ても間に合うだろうか。
「時間が気になるみたいだな」
藤原マネジャーが僕の時計をチラッと見る。
「大事な打ち合わせか何か?」
僕は答えられずにいる。
「とりあえず荷物をまとめて」
藤原マネジャーが立ち上がろうとする。最終面接までは本当にギリギリの時間だ。僕はカバンを引き寄せると
「本当にすいませんッ!」
と言って部屋から急いで出た。後先のことなど考えてはいられなかった。この最終面接さえ受かってしまえば、転職を出来るし、藤原マネジャーと顔を合わせることもない。エレベーターが来るのが酷く遅く感じた。藤原マネジャーが追いかけてくる気配は無い。ゆっくりと開くエレベーターに急いで乗り込み、1階と閉まるボタンを押した。どうにか間に合ってくれ!気持ちだけが焦っていた。
1階についた後は焦れったく開くエレベーターのドアからはい出て東京駅まで走った。周囲がこちらを見ていたが気にしている暇は無かった。全力で走った。背中でカバンが揺れているのを感じる。ホームで電車を待ちながら携帯で乗り換えを調べる。最終面接の時間まではギリギリ間に合うかもしれない。頭を面接のことに切り替える携帯で会社情報の確認と予想問答を繰り返した。
面接会場のある二子玉駅に到着をして時計を確認する。あと10分!走れば間に合う!僕は革靴であることも忘れて思いっきり走った。最近運動をしていないから5分ほど走ったところで息が切れて苦しくなったが歩きを挟みつつ面接会場へ向かった。

本社ビルに到着をすると巨大なガラス張りの高層ビルが目の前に広がっていた。残り3分。本当にギリギリになってしまった。エレベーターに乗り込み指定された25階へ向かう。時計とにらめっこしながら息を整えた。25階へ到着したのは時間ピッタリになってしまった。慌てて受付けの電話から総務へ連絡をした。
面接部屋の扉を開けると大理石のサーフィンボードのようなテーブルが置かれており、正面に男性3人と女性1人が座っていた。後ろの巨大な窓からは二子玉の美しい景色が広がった。
「失礼します」
僕は頭を下げて部屋へ入出した。
「どうぞ真ん中の席にお座りください」
一番左の席に座っている男性が笑顔で言った。
「ありがとうございます」
僕は天神さんとの訓練を思い出しいつもの1.5倍の声を出して口角を上げた。
「それでは簡単な自己紹介お願いします」
「はい!」
笑顔を意識しながら用意していた自己紹介を聞き取りやすいようにゆっくりと言った。

「失礼致します」
僕は頭を下げ退出をした。退出後に別室で人事担当から採否に関しては電話かメールにてできるだけ早く伝えると言われた。
「ありがとうございます」
今後の流れの説明が終わり僕はエレベーターを使って一階まで降りた。ビルから出ると外はすっかり暗くなっていた。全てが終わったからか気持ち体が軽くなっていた。販売機で炭酸飲料を買って一気に飲み干した。くぅ~っと声が漏れた。自分もおっさんになったと思い1人笑った。マラソンを走った後のような爽快感だった。
面接では練習どおり出来た。何かミスをしたと感じる部分は無い。後は連絡を待つばかりだ。ふと上司の顔が思い浮かんで憂鬱になったが明日は土曜日で休みだし、面接が通っていたらもう会うこともない。ウキウキした気分で僕は帰路についた。僕は土日を公園に散歩をしにいったり、YouTubeを見て時間を過ごした。公園ではカップルや子供連れが和気あいあいとしており少し寂しさを感じた。この最終面接が受かったら彼女に連絡しようと思った。胸を張って報告できるし誤解もどうにかして解消できるだろう。日差しが差し込む公園を後にして家へ帰った。

月曜日の朝は憂鬱だった。藤原マネジャーの指示を振り切って勝手に帰ったことについて謝らなければいけないからだ。グルグルと謝りの言葉を考えながら山手線の新宿駅から東京駅行きの電車に乗った。転職を強く意識するのは月曜日の朝に違いないと何故か頭に浮かんできた。携帯を確認するが合否の連絡はまだ入ってきていない。何度も更新を押しても同じだ。
初めて面接で来た時は心が踊った高層ビルだが2年も経つと感動は無くなり当たり前となっていた。ギュウギュウに詰まったエレベーターを無言で上空を見上げていつもの階に着くまで待った。到着階につき部屋へ入る小さい声で挨拶をしていつもの席に座った。荷物をおろして藤原マネジャーの机に行き頭を下げる。
「先日は失礼致しました。どうしても抜けられない私用がありまして・・・」
沈黙が続く。藤原マネジャーはこちらを見ずに手で追い払うようなジェスチャーをした。
「今忙しいから」
僕はもう一度頭を下げてデスクに戻った。怒鳴られるよりも何故か憂鬱さが増した。PCを開けてメールをチェックする。横に同僚が座った。
「何かあったか?」
「まぁね」
僕は曖昧に誤魔化す。
「転職活動は上手く行ってる?」
同期の佐藤は好奇な目をこちらに向けながら言った。僕は直感的に藤原マネジャーへリークしている犯人がわかった。
「お陰様で」
僕はPCから目を離さずに言った。
「それは良かった。これから名古屋出張に行くからまた名古屋でおすすめの飲食店教えてよ」
名古屋は僕のエリアだ。藤原マネジャーが案件を僕に振らず彼に振ったのだろう。
「こっちと変わらないよ」
PCを打つ手を早める。
「そう言えば谷口さんは退職だってよ」
佐藤がつまらなそうに言った。
「これでいちいち質問されなくて済むから良かったな」
佐藤は僕の肩に手を置いて席から離れて行った。谷口さんの震える声を思い出していた。僕は何もできなかった自分に無力さと嫌悪感を覚えた。
その日のミーティングではやり玉に上げられ徹底的にやられた。周囲は見て見ぬふりだ。精神的にキツかったが転職という希望があったので折れずにいれた。昼時間にメールアプリを開いて更新を何度も押したが選考結果は来ていなかった。今までかなり早く来ていたので焦らされているような気持ちになった。
1日がいつもより2倍遅く感じた。肉体的にも精神的にも疲労が溜まる1日だった。僕は仕事が終わった開放感から息を大きく吐いてリラックスをしたが最終面接の結果メールが来ているかもしれないと思い出し、また一気に体が硬直した。新宿駅JR山の手線のホームで電車を待ちながらメールアプリを開くとそこには『最終面接の結果』というタイトルのメールが来ていた。僕は高鳴る鼓動を感じながらメールをクリックした。


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