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冷徹メガネと天職探しの旅 第37話 本心

第37話 本心
「そうですね。どちらかというと企画することは好きです。しかし行動力も高い方です。アポイント電話は一日50件以上行い、飛び込みなどもしていました。また売り上げる工夫としてはフォローに力を入れていました。一か月、三ヵ月、半年と期間を決めてフォローすることによりお客様と信頼関係が強まり追加のご依頼を頂けることが増えました」
緊張をしているのか早口になっているのがわかる。もう一人の自分が落ち着けと言うのが聞こえてどうにかコントロールしようとする。フォローのエピソードは最近のことだが決して嘘を言ってるわけではない。
「フォローも力を入れていたのですね」
御輿さんはまた考えるような仕草をして紙に何かしらを書き残した。
「今のお話を聞いているととても活躍しているように思いますが、なぜ転職をしようと考えているのですか」
「BtoB向けの商品を取り扱っているので中々直接役に立っているか現場の人の声を聞くことが出来ず、直接現場の人に提案をして今度は喜んでもらえるようにBtoCの営業をしたく転職活動を始めました」
PIPを受けていることなど言えるはずがない。評価が落ちることが目に見えているからだ。複数ある転職理由の中でも無難で他責にならない事柄を選択をして話した。
「なるほど」
御輿さんはほほえみながら聞いていた。
「それでは今の転職軸を教えてください」
「お客様と直接触れる機会が多く、喜んで頂ける仕事がしたいと思っています」
「業界や職種に関してはどうですか」
「業界はIT関連以外でも幅広く見ていきたいと考えています。職種は」
ここで言葉が詰まってしまった。目線が泳いでるのが自分でもわかる。空調の音だけが響く。御輿さんは何も言わず聞いている。
「職種は営業です。できればお客様に直接触れ合えるBtoCにチャレンジしていきたいと思っています」
今回の求人内容に合わせたベストな答えだ。しかし本当に思っていることは違う頭の隅でチクチクと響くものがある。
「それと」
「それと?」
御輿さんが優しく言った。
「それと人事も興味があります」
言うつもりはなかったが、なぜか言葉に出てしまった。
「人事にも興味があるのですね」
「はい」
僕は口を結び、頷いた。
「なぜ人事職に興味があるのですか」
こぶしを無意識にギュット握っていた。背中が緊張しているのがわかる。息を吐き出し答えた。
「今、会社でPIPが実施されています。私もその対象になっています。そして一緒に働いていた友人もPIPの対象となりました。その友人は精神を病んで自主退職という道を選ばされました。その姿を見て何とかできなかったのかと感じることが多いです。そして会社全体の雰囲気も暗く、冷え切っています」
御輿さんは何も言わず頷いて話を聞いている。
「そんな時にお客様の会社に商談に行った時に雰囲気が明るく、活気に溢れている職場がありました。うちの会社とは正反対です。しかし驚いたことにその職場も数年前まではうちの職場と同じようだったと知りました。人事担当と社長の努力で変わったとのことです。その話を聞いて人事に強く興味を持つようになりました。僕も同じように会社を良くしていきたい。友人のような辛い思いをする人を出したくない」
言葉がとめど目無く出て来る。それも作った言葉ではなく、血肉が通っている言葉だ。自分自身でも不思議な感覚だった。
「未経験ですが、人を集める企画や商談、お客様のフォローの経験は人事として母集団形成、内定承諾を得ること、定着のためのフォローに活きると考えています。なので未経験ですが、人事も目指しています」
「なるほど」
御輿さんは一瞬考えたように顎に手をやった。
「今は実際にどのような企業を受けていますか?」
「今は御社のみとなっています。営業中心で転職活動を行っていたのですが人事職も視野に入れつつ動こうと他社はまだ検討段階です」
「営業と人事どちらを希望されますか」
御輿さんが僕の目をしっかり見て聞いた。僕は自分が息を止めていることに気が付いた。軽く息を吐いて気持ちを落ち着かせた。ここで人事と答えれば今回の求人とはズレた答えとなる。不採用は確実だ。
「営業職なら自分自身の今までの経験が活かせるので良いと思っています」
御輿さんは何も言わず聞いている。
「でも人事に強く興味を持っているのも事実です」
僕は御輿さんから目線を外して言った。この答えで面接の結果はほぼ決まった。業界や仕事内容に興味があり、御輿さんのような人と一緒に働きたいと思っていたが自分の心には嘘はつけなかった。
「人事にかなり興味があるのですね」
「…はい。自分の中からやりたいという強い気持ちが出てくるのがわかります。こんなことは今までなかったので」
「そうですか」
御輿さんはやさしく微笑んだ。
「それでは事務的な質問をさせて頂ければと思います。健康に不安な点等はありますか」
「特にありません」
「もし弊社とご縁があった場合はいつから入社が可能ですか」
「まだ退職の意向は伝えていませんが、内定後一か月程度で可能だと思います」
「ありがとうございます。それではこれで面接を終了したいと思います。この後、適正検査が荒田さんのメールアドレスに届きますので、届きましたら受講をお願いします。この面接の結果と適性検査の結果を合わせて一次面接の結果とします。一次が通過した後は弊社取締役との最終面接となります」
「はい」
「今後の流れで何か不明点などはありますか」
「ありません」
「ではこれで終了をしたいと思います。本日はお時間を頂きありがとうございました」
御輿さんは立ち上がり丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございました」
僕も頭を下げ、部屋から出た。
鞄を背負いトボトボと駅に向かった歩いた。人事に興味があることを言うべきだっただろうか少し後悔をしていた。内定を貰うためには言うべきでは無い言葉だったかもしれない。しかしあそこで言わないわけにはいかなかった。面接を通じて人事への関心がこんなに強いのだと自分でも驚くほどだった。会社用の携帯が振動するのを感じた。一瞬躊躇したが緊急の連絡だとまずいので確認をした。人事の多田さんからのメールだった。 
“お疲れ様です。明日13時よりPIPの最終面談となりますのでルームBにお越しください。”
僕は簡単に返信をして携帯を鞄に戻した。無職が現実味をおびているのを感じた。


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