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冷徹メガネと天職探しの旅 第40話 最終話

数分歩いて地下にあるパスタ屋さんを見つけた。下を覗き込んでみると数人座って待っているだけだったので浅見さんと一緒に階段を降りて行った。運よくそれほど待つことも無く、席に座る事ができた。僕は何を話して良いのかわからずあまり喋ることができなかった。
メニューリストを2人で見ていると、黒髪ツインテールで無表情のウェイターがやってきて水が入ったコップを置いた。
「ご注文は?」
仏教面でウェイターが聞いてくる。
「このランチセットBください」
「私も同じBセットで」
「かしこまりました」
ウェイターが手元の機械に注文を入力をする。入力が終わるとそのまま厨房の方へと消えて行った。ウェイターがいなくなるとまた二人とも無言となった。僕は手元にある水を何度か飲む。何度も口に運ぶので最後にはほとんど水は残っておらず氷が唇に当たって冷たかった。
「荒田君・・・ごめんなさい!」
浅見さんが大きな声で言い頭を下げた。僕は急な浅見さんの大きな声にビックリしてグラスから氷を落とした。
「勝手に私が勘違いをして連絡取らなくなったりして、本当にごめんなさい!」
また浅見さんが大きな声で謝罪をした。
「いや、むしろ僕が転職の情報を自分の知識のように披露して、そのことを話さずに誤解をさせてしまって・・・僕の方こそ本当にごめんなさい」
僕も頭を下げて浅見さんに謝った。そこにウェイターが無表情でやってきて。パスタとサラダをテーブルに置いた。目の前にパスタが置かれいい匂いがした。そして二人が頭を下げている状況が無性に可笑しくなり僕は笑いをこらえて顔を上げた。浅見さんもクスクス笑っていた。
「変なシチュエーション」
その後はパスタを食べながら、合わなくなった後の転職活動のことや天神さんのことを話した。ぎこちなかった空気は消えていき2人笑い合いながら何時間も一緒に話した。

「また会おうね」
「連絡するね」
浅見さんは手を振りながら改札口へ消えていった。浅見さんとの時間は楽しくあっという間に過ぎて至った。ポケットに入れてある携帯電話が振動するのを感じた。携帯を取り出すとWからの電話だった。
「荒田さん、お疲れ様です!今お時間大丈夫ですか?」
いつもの谷口さんの声が携帯から聞こえた。
「大丈夫ですよ。どうしました?」
「荒田さん元気かな~と思いまして」
「何ですかそれは」
僕は笑って答えた。
「僕も谷口さんに伝えたかったことがあったので丁度良かったです」
「何ですか」
僕は人込みを離れて話しやすい場所へ移動した。
「会社を辞めることにしました。退職願も提出済みです」
「転職先決まったんですか?」
谷口さんは驚きながら言った。
「決まってないです。これで谷口さんと一緒です」
「そうなんですね。実は営業のエースだった小宮山さんも退職するらしいですよ」
「小宮山さんが!?」
社長と険しい顔をして歩いている小宮山さんが思い出された。
「どうやら他社からヘットハンティングにあったみたいで。あと複数の社員も辞めるみたいです」
「そうなんですか・・・」
全然知らない情報だった。谷口さんはどこからその情報を得ているのか不思議だった。
「まだ事務の方と繋がっているので、そこから得た情報なので確実ですよ」
谷口さんは僕の考えを見透かすように情報源を言った。
「どうやらPIPは退職させたい人間に実施をしたのに加え、緊張感を与えるためにほとんどの営業に実施をしていたみたいです」
同僚佐藤の顔も浮かんだ。佐藤もPIPを受けていたのだろうか。
「退職させたい人間は退職させ、実際に他の営業の成績も上がったみたいです。しかしPIPを実施した会社に対する不信感が溜まって荒田さんみたいに辞める人が続出しているみたいです」
いつか辞めようと思っていた人にとっては最後のトリガーになったのかもしれない。そしてそれが波及していったのだろう。
「このままだと営業がままならないみたいですよ。社長は大激怒しており人事や余分に退職者を出した管理者は降格等のペナルティーがかされるようです」
慌てていた多田さんや引き留めに入った藤原マネジャーの理由が谷口さんの話を聞いてわかった。
「そうなんですね」
僕は息を小さく吐いた。何だかどれも遠い国の話のように思えた。
「それよりも僕らは就職活動を頑張らないと」
「そうなんですよ~!助けてください荒田さん!今度時間貰っていいですか?履歴書と職務経歴書を見て欲しくて」
「わかりました。今度一緒にやりましょう」
「約束ですよ!あとで候補日を送っておきます」
「待ってます」
僕は笑いながら電話を切った。空は晴れ渡っている。汗ばむぐらいの気温だ。僕も早く人事職の求人を探さないといけない。携帯で求人サイトを開こうとしたら前回受けた介護関係の会社からメールが来ていたことに気が付いた。題名は“一次選考の結果”だった。僕は少し緊張をしながらメールを開いた。結果は一次選考通過、それも人事職として選考をすると記載があった。何度も見返したが間違えなく人事職との記載があった。僕は少し混乱をしたが、それよりも御輿さんと一緒に人事として働ける可能性があることに喜びを強く感じた。急いで面接可能日をメールで返信をした。

御輿さんの隣に座るのが社長だ。ショートのグレーヘアーが綺麗に整えられていて目元に優しさのある女性だ。年齢は御輿さんと同じぐらいだろうか。
「本当は人事の枠が空いてるわけではなかったんだけど、御輿がどうしても後進を育てたいと言うの」
「私もそろそろ年ですからね」
「70歳まで働いて貰わなきゃ」
2人は仲の良い友人のように話している。今までに見たことが無い関係性だった。
「荒田さんは人事を目指しているのよね」
「そうです」
「人事は採用、教育や社員の働き方に対してたずさわることができるやりがいのある仕事。でも、楽しいことだけじゃない」
社長は真剣な眼差しでこちらを見る。
「時には社員に退職を伝えるなど、厳しいことをしなければいけないこともある。あなたはそう時どうする?」
僕は一瞬考えてから口を開いた。
「正直に言うと、そのような場面でまだ自分がどこまでできるかわかりません・・・しかし、正面から誠実に向き合いたいと思います」
僕ははっきりとした口調で伝えた。
社長は僕の顔を優しく見ていた。御輿さんも何も言わずこちらを見ていた。
窓から見える空には雲一つなくどこまでも青い空が広がっていた。

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