小説:冷徹メガネと天職探しの旅 第3話 商談
第3話 商談
「こちらの商品はお客様の電話対応の時間を削減することができます。1回の電話対応で10分ほど時間がかかっているとします。1日に10本以上電話があると100分は電話対応に時間がかかっている計算となります。弊社のAIを使った電話受付システムを使用して頂けばその手間を無くし、従業員様を他の有益な仕事に集中させることができます」何百回も繰り返したセールストークは自動的に口から出てくる。
「AIのシステムでの音声認識はどの程度のレベルでできるんだい」
今日の商談相手のお客様は中小企業の社長だ。決裁権を持っており、上手くいけばすぐに導入をしてくれる。
「ありがとうございます。AIの音声認識レベルは通常の人と変わりないと言われています」
この質問もいつも貰うので答えが自動的に出てくる。
「実際にAIが対応するのをご体験頂ければと思います」
僕は胸ポケットから社用携帯を取り出しアプリを起動させた。
「もしもし、株式会社アップストールの荒田と申します」
携帯の画面が波模様を映し出す。
-お電話頂きありがとうございます。株式会社FVA電話AIアシスタントでございます。お手数をおかけ致しますがご要望の担当部署、名前とご要件をお教え下さい。担当部署がご不明な場合はご要件のみお教え下さい-
流暢な女性の声が流れてくる。一昔前の一度聞いたら合成音声だとわかる機械音では無く、言わなければわからないごく一般の女性の声だ。
「経理部の佐藤様に請求書の件でご連絡しました」
僕はいつもの要領で携帯に話しかける。
-畏まりました。経理部の佐藤宛、請求書の件でよろしいでしょうか-
「問題無いです」
-少々お待ち下さい-
保留音と共にアプリに通知が届く。アプリには電話内容が記載されている。
「このアプリを社員の皆さんのパソコンにインストールして頂き、担当社員に通知が届くようになります。今までの一次請けをする負担を無くすことができます」
社長は驚いた目で携帯をマジマジと見ている。
「今のAIはこんなに流暢に話して理解力もあるのか」
恐怖感と期待が入り混じった声で社長は腕組みをした。
「今のAI技術は想像以上に発達しています。私の仕事も奪われかねませんよ」
「本当にそうだな」
社長と僕は目を合わせて笑った。声が大きくコンプラに引っかかることを時々言う社長だが僕は少しの時間話しただけで好きになっていた。
「さっそく見積書が欲しい」
社長は前のめりぎみで口早に言った。
「ありがとうございます。見積書の内訳ですが社員様事にアプリをインストールして頂き、その数によって見積書を作成させて頂きます。社員様の総数は120名でよろしいでしょうか」
「そうだ」
ここで藤原マネジャーの言葉が頭によぎる。-できるだけ高めのプランを説明して顧客単価を上げろ-
「アプリには3つのプランがありますが最初に複雑な作業は混乱をきたすので1番シンプルなプランをオススメします」
「わかった。それで見積書を作って」
「また全員にアプリをインストールして貰わず部署毎に数名アプリをダウンロードして頂くだけでも対応が可能で経済的です」
つい自分がお客様の立場であったらどのような情報が欲しいか考え話をしてしまう。例えそれが会社の売上に貢献しなくてもだ。今回も顧客単価は上げられず、販売数もマックスでは無い。マネージャーが小言を言うのが想像できて少し憂鬱な気持ちになってきた。いつの間にか外では雨が降っていた。社長室の窓に大粒の雨があたっている。
