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小説:冷徹メガネと天職探しの旅 第7話不安

第7話 不安
PIPプログラムの話があってから2日たったがまだ整理ができていない。PIPプログラムの情報をネットで調べてみるとアメリカで主流の解雇方法らしい。日本とアメリカでは法制度が違うのでPIPプログラムで到底実行できない内容を設定された場合は解雇は無効になった判例を見つけることができた。しかし裁判をするにもお金や労力がかかる。僕にそのお金も根気も無い。通常はサインをしてはならないとネットでは書いてあったが僕はサインをしてしまっている。すぐにでも転職活動を始めなければならないのにまだ一歩を踏み出せていない。
本屋の転職コーナーには複数の転職関連本が並んでいる。『絶対内定』『自己分析』『業界地図』と様々だ。新卒以来自己分析や業界研究はやっていない。というか今の会社で首切りにあうダメ社員の僕が転職できるのだろうか。不安が頭を過る。それならいっそ今とは全く違う職業を選ぶのもいいかもしれない。僕は本屋をうろうろしながら色々と妄想を膨らませていた。最近はエンジニアの年収が上がっていると聞いたことがある。それにリモートで仕事もできるから最高の職業に思える。僕はエンジニアコーナーに行って本を見てみることにした。
エンジニアコーナーには専門書が複数並んでいる。Java、C#、HTML等様々な言語の解説書があった。中には初心者向けも多数置いてあり僕はパラパラと本をめくっていた。
「荒田」
後ろから急に声をかけられたので僕はビクッと体を震わせた。後ろを振り返ると、そこには佐藤が立っていた。
「そんなにビックリするなよ」
「後ろから急に声をかけるから」
佐藤は僕が手に取っている本をチラッと見た。
「プログラミングでも勉強するの」
「お客様に説明する時にこういう知識もあったほうがいいかと思って」
「勉強熱心だな」
佐藤も本を一冊手に取り無関心そうにパラパラとページをめくった。
「それより知っているか」
「何を」
「会社で人員の削減を計画しているみたいなんだよ」
「・・・そうなんだ。増収だって聞いていたのに」
僕は人事と藤原マネージャーとの話し合いを思い出し憂鬱な気分になった。
「株式上場を狙うために人件費を減らして収益を上げるらしい」
佐藤は無造作に本を平積みの場所に戻した。
「そうなんだ」
僕は自分がPIPプログラマに選ばれてしまったことを言おうかと思ったが、プライドにより言い出すことができなかった。
「誰がクビになるんだろうな。可哀そうに」
「本当だね」
「谷口さんは間違えないな」
佐藤は笑いながら言った。
「あれだけ覚えが悪いとクビになってもおかしくないだろう。だって1つ教えたら前に教えたことが忘れちゃうんだぜ!頭の容量少なすぎだろう」
佐藤はおかしくて仕方がないようだ。
「これでお前も谷口さんの質問地獄から解放されるな」
「でも谷口さんは社長さんと仲良くなるのが凄くうまいよ。僕では信じられないぐらいの早さで仲良くなっていく」
「へぇ~そうなんだ」
佐藤は興味がなさそうだが僕は続けた。
「谷口さん人に愛されるキャラなんだよ。お酒を飲むのも好きだし、論理的な説明や知識に関しては苦手かもしれないけど関係構築では足元にも及ばないよ」
「ふ~ん。でも売り上げに反映されてないだろう」
「まだ入って間もないからこれからさ」
「でも谷口さん凄い落ち込んでたぜ」
佐藤はニヤニヤと僕に告げた。谷口さんが背中を丸めて席に座っているのが思い出された。
「あの落ち込みようはいつもの失敗とは違うな。たぶん人員削減に関することで話し合いがあったんじゃないかな」
佐藤は顎に手をよせ探偵のように思案していた。
「お前も気をつけろよ」
「僕も?」
急に話が自分の方に向いたのでドギマギした。
「藤原マネジャーに目をつけられてるからな」
「確かにそうだね」
動揺が悟られないように僕は無理に笑った。
「でもいきなりクビってのも可哀そうだよな~」
「うん」
「転職活動って運の要素もあるみたいだろ」
「時期とかも関係あるみたいだね」
ネットで読んだことある数少ない転職活動の知識で話についていく。
「今いるところよりいい場所にいけるかわからないし、転職に失敗して何度も仕事を変える人も多いらしいぜ」
「そうなんだ」
気持ちがどんどんと落ち込んでくる
「最終的には年を取って、たいしたスキルも身につかず落ちぶれていくんだってさ」
「それは怖いね」
まるで自分の将来を言われているようで暗い気持になった。
「そもそも転職で成功できる人は一握りのスキルを持った人だけらしいな。俺も昔仕事が嫌になって調べたけど、年収アップや満足いく転職をできる人は稀らしい」
「転職考えていたんだ」
初耳で僕は驚いた。
「以前な、お前も転職考えたことあるだろう」
今がまさにその時だとは言えなかった。
「まあそうだね。でも最近は転職してる人も多いって聞くけどね」
「転職している人は多いけど、上手くいっている人がいるかはわからないだろ。転職はギャンブルみたいなもんなんだよ」
「ギャンブルか・・・」
「荒田はギャンブルしないタイプだろ」
「パチンコ、競馬1度もやったことないよ」
「安全志向だな。荒田らしい」
「佐藤は何の本を買いに来たの」
転職の話は何だか落ち込んでくるので、僕は話題を変えることにした。
「今日は集めてる漫画の発売日なんだよ!忘れてた!じゃなあな」
佐藤はそそくさとマンガコーナーへと消えていった。僕は転職コーナーにも行こうかと思っていたが辞めて小田急線の改札口に向かった。
小田急のプラットフォームには人があふれていた。ほとんどの人が携帯を見ている。律儀に列を作って並んでいる。快速急行の小田原行を待っている。
僕もその列に並んだ。これだけ多くの人が会社に行っている事実に改めて驚きを覚えた。こんなに多くの人が働く場所があるなら仕事場も同じように沢山あるんではないだろうか。つまり転職もできるのではないだろうかと思ったが皆必死に働いており世間の中で椅子取りゲームをしていると考えると自分の力でもぎ取る自信は無かった。
快速急行が駅に到着をした。先頭に並んでいた人は我先にと空いている席に座っていく。まるで争いをしているようだ。僕は席に座ることが出来ず立ったたまま満員電車で帰宅をした。





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