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冷徹メガネと天職探しの旅 第28話 誤解

第28話 誤解
新宿東口に行くと複数の人が携帯を見ながら待っていた。人々の顔を見て浅見さんを探す。改札口から出て左の方に浅見さんは待っていた。僕は小走りで駆け寄った。
「待たせた?」
携帯から顔を上げる浅見さん
「私も来たばかり」
浅見さんが答える。デートは3回目だ。手を繋いだ前回のデート。今回は告白までしたいと密かに思っていた。転職も恋愛も同時にゴールをさせる。ノッてる時に結果を出すつもりだ。
 転職活動や芸能関係のニュースの話をして新宿の映画館へ向かった。今回の映画は邦画のラブストーリー。口コミサイトで評判を見たら星4つだったのでデート映画には間違いないだろう。ポップコーンとペプシ、烏龍茶を持って指定の席に向かった。真ん中の席でちょうど見やすい場所だ。話をしている間に周辺が暗くなり予告が始まった。

ストーリーはしっかりとしており、最後にはどんでん返しがありただのラブストーリーではなく、面白い作品だった。浅見さんと映画の話をしながら夜ご飯を食べるレストランへと向かう。

浅見さんが行ってみたいと言っていた和食店だ。和食店はカウンターが中心で目の前には鮎の炭火焼きが5〜6本立ててあった。店内は混んでいたが不思議と騒がしさは感じなかった。飲みやすいと店員におすすめされた日本酒を頼み2人で乾杯をして夕食を食べた。どれも落ち着いた味で自然と心が暖かくなった。目の前に刺してあった鮎も二人で食べた。絶妙な塩加減で一尾をペロリと食べてしまった。浅見さんとの他愛ない会話が続く。
「鮎だけどうして串刺しで焼かれることになったんだろう」
「言い方」
浅見さんの突飛な表現方法に僕は思わず笑ってしまった。
「前世で相当悪いことをしたのかもしれない」
「どんな悪さをしたら串刺しになるんですな?」
串刺しにされる悪さってどんな悪事を働いたのか少し興味が湧いた。
「犯罪を犯した人間は確かに悪いけど多くが現世で罰を受けてる可能性が高い」
浅見さんは日本酒を口に運びながら言葉を選ぶように言った。
「そしたら捕まっていない人になるのかな」
浅見さんは鮎の身をほぐし口に運ぶ。
「捕まっていない人も罪の意識に苦しみを感じていると思う」
何だか話が複雑になってきた。浅見さんの思考が深い場所に行っている。
「つまり現世で罪にはならないが、人を傷つけ自分は罪の意識が薄い人の可能性が高い」
僕も鮎の身をほぐすが、何だか食べづらく日本酒を口に運んだ。浅見さんは思いもよらない発想をするのが面白い。
「それならどういう人が串刺しになるの?」
僕は湯葉に箸を伸ばして食べた。浅見さんは少し考えてから言った。
「信頼を裏切った人かな」
「信頼?」
「信頼してくれてる人を裏切っても罪にならないでしょ」
「そうだね」
「でも裏切られた側は深く傷つく。相手が思っている以上に深くね。だからこの場合だと傷つけた側と傷つけらた側の感じ方に大きな差が出る」
なんだか重い話になってきた。
「そうなると」
浅見さんはご飯を口に運びモグモグと食べた。僕は浅見さんの次の言葉を待つ。
「串刺ししかないよね」
浅見さんはニヤリと笑った。悪そうに笑った顔が可愛いやら、可笑しいやらで僕も笑った。
「酷いね」
「裏切った方が酷いよ」
「確かに」
僕は身をほぐした鮎に箸をのばし口に運んだ。
ほろ酔い状態で外に出ると日曜日の夜にも関わらず多くの人が歩いていた。この日本食店にしたのは味が良いのもそうだが近くに夜景が見えるロマンチックな場所があるとネットに載っていたのも理由だ。他愛のない会話をしながら浅見さんと道を歩く。
「どこに行くの?」
浅見さんが僕に聞いた。その声はなぜか暗く聞こえた。
「この先にちょっと行きたいところがあって」
僕は心臓の鼓動が早くなるのを感じながら早口にならないように言った。
浅見さんは何も喋らず僕の横を歩いていた。
ネットで載っていた夜景が綺麗な場所へ到着した。周囲には自分と同じようなカップルが複数居た。もしかしたら同じネット情報を見て来たのかもしれない。しかしネオンの色以外で明るく照らす照明などは無かったので周囲の人はそれほど気にならなかった。僕は緊張して無口になる。浅見さんも何も話さない。ますます緊張感が増してくる。この無言をいつまでも続けるわけにはいかないので僕は何か喋ろうとした。
「和食美味しかったね」
ぎこちない笑顔で浅見さんを見る。浅見さんの表情は思っていたのとは違い下を俯いていた。
「今日ね」
浅見さんが小さな声で話始めた。
「遅刻しないように早めに家を出たら待ち合わせより1時間も前に新宿に着いちゃったの」
浅見さんは小さく笑った。
「新宿をぶらぶらしてウィンドウショッピングしてたまたまお洒落な喫茶店があったから覗いてみたの」
僕は話の先が読めずに困惑していた。
「そしたら奥の席に荒田君似た人がいたから喫茶店に入ったの」
冷たい風が頬に当たる。
「綺麗な人だったね」
その時、僕はやっと浅見さんが天神さんと僕がデートしていると勘違いしていることに気がついた。
「違う!」
僕は反射的に言った。
「何が違うの」
僕は天神さんから教わった転職スキルをさも自分の情報のように教えていた。
「・・・」
言葉が出なかった。
伝えていた情報が実は全て天神さんから教えて貰った情報だとバレるのが怖くて言葉に詰まってしまった。
浅見さんは諦めたような顔をした。
「私、今転職活動だけでもいっぱい、いっぱいだから今後会うのは控えたい」
浅見さんはそう言うと駅に向かって歩いていってしまった。綺羅びやかなネオンとカップル達の中に僕は取り残された。

帰りの電車内でラインにメッセージを書いては消すを繰り返していた。5回目の添削の後僕は結局メッセージを送るのを辞めた。頭の中では後悔の言葉がグルグルと回っていた。待ち合わせを新宿にしなければ良かった、友達だと言えば良かった。天神さんなら呆れた顔をしつつも協力はしてくれたと思う。転職活動にプライベートを両方とも一気に叶えるのはハードルが高すぎたのかもしれない。笑おうと思ったけど口角は上がらなかった。自分が思っているよりも精神的ダメージを受けているのかもしれない。新宿から家まで記憶がほとんど無かった。僕は上着も脱がずにベッドへ倒れ込んだ。涙が出ていて枕を濡らしていた。頬に涙が伝うのを感じながらほおっておいた。そして気が付かないうちに眠りに落ちていた。

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