『素戔嗚』(神名という牢獄)…
崇められるほど、真実は深く埋もれてゆく。
神として祀り上げられる「封印」。
極東の果てに、素戔嗚という名に書き替えられる前、真実の響きがあった。
ナイルの熱砂からパミールの雪嶺を越え、東の深淵へと滴り落ちた黄金の雫、「ソナカ」。
かつてユーラシアの草原で、正統の王は「鹿(サカ)」と呼ばれた。
天を突く枝角、それは神に許された王権の印。
しかし、その角が折れたとき、王統は激しい脈動とともに引き裂かれた。
一派はヒマラヤを南へ下り、絶望を「慈悲」へと昇華させ、世界を照らす「釈迦」という光の道を選んだ。
対して、もう一派はあえて太陽に背を向けた。
世界を救うのではなく、闇の底で王統の核を護り抜く道。
彼らは自ら真名を砂塵に埋め、職能の影に紛れ、この島へと降り立った。

彼らが選んだ究極の擬態、それは「神」という名の牢獄に、自らの霊威を閉じ込めること。
記紀という名の漆(うるし)が黄金の輝き(ソナ)を塗り潰したとき、その名は煤けた鉄(スサ)の響きへと書き換えられた。
灼熱の鉄を打つたびに散るあの沈黙の火花、その一閃の中にこそ、封じられた王の眼差しが宿っている。
雅びを装う網の下、鈍い黄金と化した王は、いまも地の底で沈黙を貫く。
それは敗北による封印ではなく、再臨の刻まで火種を絶やさぬための、冷徹なる意志。
いまだ明けない夜の底で、その刻を待つ明け星。
名もなき者は、ただ息を止めている。
神名という峻烈な牢獄こそが、魂を汚さぬために課せられた唯一の聖域。
数千年の鎖を解かれた記憶は、いま、ふたたび草原の風のあたる場所へ。
足跡を消す砂塵は、孤独ではなく、自由の名だった。
