ベトナム市場調査の教科書|元コンサルが本音で解説
ベトナム留学→大学院でベトナム研究修士号→JETRO→ベトナム市場調査・進出コンサル10年、ベトナムに関わって12年超の経歴があり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを運営する会社を立ち上げた三浦です。
以下の記事で完全版の記事を掲載していますが、要点をまとめた記事をnote向けにも掲載しました。「ベトナム市場調査」に関わるビジネスパーソンには是非読んで頂きたい内容として、過去10年分のベトナム市場調査・進出コンサルの経験とノウハウを詰め込みました。
なぜ「ベトナム市場調査」でつまずく日本企業が多いのか
ベトナム市場調査・進出コンサルティング業界に約10年携わり、数百社のベトナム市場調査プロジェクトに関わってきました。この経験から見えてきたのは、多くの日本企業に共通する3つの課題です。
形式的にベトナム市場調査を実施したものの、期待通りの成果物を得られていない
調査結果を受け取っても、具体的なベトナム事業のアクションに繋げられていない
市場調査会社やコンサルティング会社を、自社のベトナム事業推進にうまく活用できていない
この記事では「ベトナム市場調査を発注する事業者側」の視点に立ち、次の4点を解説します。

成果物の質を落とさない発注方法
ベトナム市場調査にかかる費用の落とし所
調査に要する期間とスピード感
「調査して終わり」を防ぎ、社内の事業を前に進める方法
初めて調査を発注する方から、すでに発注経験のある方まで役立つよう、基礎から応用までまとめています。関心のある章から読んでいただければと思います。
結論:ベトナム市場調査を事業に活かす4つのポイント
先に結論を述べると、ベトナムでの事業を成功させる鍵は「自社の知見やネットワークだけに頼らないこと」にあります。
知名度やブランドに囚われず、ベトナムに本当に詳しい市場調査・コンサルティング会社が持つ知見とネットワークを、必要な分だけリーズナブルな価格で活用すること。
そして調査レポートやパートナー候補リストの提示だけで終わらせず、成長戦略や事業シナジーのストーリーを踏まえた資料・事業計画にまで落とし込み、社内の検討を実務的に前に進めてくれるパートナー会社と連携すること。これが最も重要なポイントです。

市場調査が「調査して終わり」になってしまう理由
市場調査はビジネスを展開するための手段であり、目的ではありません。しかし多くの調査会社にとっては、調査すること自体がゴールになってしまいがちです。ここに発注者と調査会社の間のギャップが生まれます。
生成AIを使えば数分でどの業界の調査レポートも出力できる時代だからこそ、発注先に本質的に求められるのは次の3点だと考えています。
ベトナム現地のリアルな動向と実態を詳細に理解しているか
ベトナム現地企業とのネットワークやトップ層とのパイプを持っているか
成長戦略や事業展開のシナジー創出、ストーリーへの落とし込みという構想力と、高度な資料作成能力を持っているか
そもそも市場調査は必要なのか
経済成長が著しいベトナムでは市場環境の変化も激しく、政府主導で法規制が短期間に変わることも珍しくありません。進出が早すぎれば市場はまだ未成熟、遅すぎればすでに競合がひしめいている——だからこそタイミングの見極めが最重要課題になります。

暴論であることは承知の上で言えば、ベトナムでのビジネスは「やってみないと分からない」というのが実感に近いところです。仮説に基づいて事業活動を進めながら改善を繰り返す、アジャイル的な前進が望ましいと考えています(ただし投資規模が数億〜数十億円に及ぶ製造業・不動産・エネルギー・インフラなどの業種では、市場調査がより重要な経営判断の一部になります)。
一方で、社内、特に上層部の承認を得ずに無策のまま進出することは現実には起こり得ません。
真のベトナム進出パートナーに求められる役割
海外事業担当者の多くはベトナム専任ではなく、複数市場を同時に見なければならない立場にあります。日々の業務に追われる中で、ベトナム事業を前に進めたくても情報収集や資料作成に十分な時間を割けないのが実情です。
そこで力を発揮するのが、ベトナムに詳しいコンサルティング会社です。

社内を説得するための資料作成(ドキュメンテーション)を代行してくれる
単なる調査レポートに留まらず、上層部に説明できる量と深さを備えている
発注者の成長・拡大戦略を咀嚼し、「なぜベトナム市場で事業を展開するのか」という論拠を備えたストーリーと事業シナジーを訴求できる資料に仕立て上げる
これらを一貫して実現できて初めて、真の「ベトナム進出コンサルティング会社」と呼べるのではないでしょうか。
コンサル会社は「受注後の熱意」で選ぶべき
調査会社・コンサルティング会社にとっての原価は、突き詰めれば人件費です。売上を追うあまり案件を抱えすぎ、受注前の営業には必死な一方で受注後の支援が手薄になる会社を、これまで何度も見てきました。こうした会社を見抜き、熱意に溢れた支援会社を選び抜くことが、ベトナムでの事業成功に欠かせない視点です。
ベトナム市場調査とは何か:3つの軸で理解する
ベトナム市場調査とは、進出や事業拡大を検討する際に、現地の市場規模・競合環境・消費者ニーズを、データと実態の両面から把握する活動を指します。
一口に「ベトナム市場調査」と言っても中身は一様ではなく、大きく「目的」「調査手法」「推進方法」という3つの軸で分類できます。
目的による分類
成長性を検証する市場調査、消費者調査、競合調査、M&A目的の調査、ビジネスDD、営業活動を目的とした調査、実現可能性調査(FS)など、何を明らかにしたいかによって設計が変わります。
調査手法による分類
デスクリサーチ、定量調査(アンケート)、定性調査(インタビュー・ヒアリング)、店頭調査・視察調査、視察ツアー、テストマーケティングなど、情報の集め方が異なります。
推進方法による分類
調査項目を事前に合意して1ヶ月〜数ヶ月かけて実施するプロジェクト型、必要なタイミングで単発の助言を受けるスポット型、数ヶ月単位で顧問的に伴走するリテイナー型(定点観測型)があります。
こうした分類が生まれる背景には、ベトナム市場特有の難しさがあります。日本国内の常識やロジックがそのまま通用しない海外市場であり、経済発展のスピードも著しいため、調査の難易度は想定以上に高くなります。
だからこそ、着手前に「自社はこの調査で何を明らかにしたいのか」という目的の解像度を上げておくことが、コストを抑え情報の質を高める最も確実な近道になります。
ベトナム市場調査が「特に」重要とされる6つの理由
市場調査そのものはゴールではなく、意思決定に至るための一過程にすぎません。しかし「ベトナム」を前提とすると、この過程の重要性は他国以上に高くなります。

理由1:経済成長のスピードが速く、市場環境が目まぐるしく変化するから
ベトナムの名目GDPは2015年の約2,370億ドルから2025年には約4,940億ドルへと、10年間で約2倍に拡大しました。コロナ禍の2020年・2021年も東南アジアで唯一プラス成長を維持し、2025年の実質GDP成長率は8.02%と2011年以来の最高水準を記録しています。
これほどのスピードで経済が成長する市場では、数ヶ月前のデータや先行事例が、現在の消費行動や競合状況とすでに一致しないことも珍しくありません。市場調査は一度きりのプロジェクト型で完結させず、定点観測やアジャイル的なアプローチを継続していく姿勢が重要です。
理由2:「安価な製造拠点」と「有望な消費市場」という二面性を持つから
ベトナムは長らく人件費の安い製造拠点として捉えられてきましたが、一人当たりGDPが5,000ドルを超えた今、中間層の拡大に伴い有望な消費市場としての顔も併せ持つようになっています。まずは自社がベトナムをどちらの市場として捉えているのか、根本的な認識を揃えることが重要です。

理由3:進出のタイミングの見極めが非常に難しいから
進出が早すぎれば市場規模がまだ小さく、遅すぎればすでにレッドオーシャン化しています。一方で、「進出がやや早い」と思われるタイミングで市場に入り、赤字を先行させながら地道に営業活動を積み重ねてきた企業が、結果としてトッププレイヤーに収まっているケースも数多く見てきました。だからこそ、「今、この市場に入るべきかどうか」自体を検証する調査の重要性が高まります。

理由4:日本人が想像する以上に、多様性のある国だから
南北に細長い国土を持ち、地域によって消費者の気質や商習慣が大きく異なります。
南部(ホーチミン中心):新しいものへの抵抗が少なく、トレンド感度も高い。商談のスピード感が早く、合理性・コスト効率を重視した意思決定が見られる
北部(ハノイ中心):品質や信頼性を重視した購買行動が特徴で、比較的保守的。一度築いた信頼関係やブランドロイヤルティは長期的に維持されやすい。行政機関・国営企業との関係が深く、意思決定における階層性・手続きの重視や関係構築に時間をかける傾向が南部より強い
理由5:統計・データが十分に整備されていないから
政府統計や業界データの整備がまだ発展途上にあり、二次情報だけで市場の全体像を描くことは困難です。業界団体としてのまとまりも薄く、地方政府ごとに統計の粒度や更新頻度にもばらつきがあります。
副業収入や家族単位の複数収入源、税務申告と実態の乖離に加え、零細な個人商店や屋台といったインフォーマルセクターの経済活動は、統計上に十分反映されていないことが多いのが実情です。だからこそ、統計に表れない一次情報を対面のヒアリングや現場観察から拾い上げられる、現地調査員の存在が不可欠になります。
理由6:現地の商習慣が特有だから
流通の各段階で中間マージンが積み重なる構造や、取引慣行としてのリベートは珍しくなく、こうした商流の実態は公式な取引条件や価格表だけでは見えてきません。会計面でも、税務申告用と実態管理用の帳簿を使い分ける慣行が一部で残っているとされ、財務データを鵜呑みにすると収益構造や取引規模を見誤るリスクがあります。M&Aやビジネスデューデリジェンスの場面では、この乖離をどう見抜くかが調査精度を大きく左右します。
建設・不動産では許認可プロセスに絡む慣行、医薬品・医療機器では代理店を介した独特の流通構造、小売では棚代やプロモーション費用の負担ルールなど、業界ごとに「暗黙のルール」が存在します。なお2026年、トー・ラム書記長が国家主席を兼任した新体制下では、こうした商慣行を是正する動きが強まっています。
ベトナム市場調査が「想定以上に難しい」3つの理由
難しさ1:現地の一次情報が取りにくい
ベトナムではインターネット上で公開されている公知情報がそもそも限定的で、真偽の定かでない情報も少なくありません。生成AIを使えば手軽に大量の情報を収集できますが、内容を鵜呑みにはできません。
結局のところ、ものを言うのは足を使って集めたローデータです。企業のマネージャー層、有識者、顧客、競合など複数の関係者に個別にヒアリングし、地道にかき集めた情報こそが、競合他社との差別化につながります。

調査目的によって必要な一次情報も変わります。M&A目的であれば、ロングリスト作成の段階はデータベース調査で足りますが、ショートリストへの絞り込みには対象企業への直接ヒアリングが必要です。
営業活動強化が目的なら、顧客候補・競合企業へのヒアリングが中心になり、中でも競合企業へのヒアリングは、情報開示の義理のない相手から本音を引き出す必要があるため難易度が高くなります。
難しさ2:「ベトナム人に聞けば分かる」とは限らない
変化のスピードが速いベトナムでは、市場調査に「未来予測」の要素が必然的に含まれます。今の消費者に将来の嗜好や行動を尋ねても、まだ経験したことのない生活様式を自ら言語化することは難しいものです。
以前、ベトナム小売業界の10年後の姿や食文化の変化を予測し、そこから逆算して戦略を策定するプロジェクトをマネジメントした経験があります。こうした未来予測型の調査で成果を出すには、高度な質問設計スキルを持つ調査員が、取得データから示唆を抽出する極めて難易度の高い作業が必須です。
理想は、ベトナムに詳しい日本人マネージャーと、現地で深い情報を拾えるベトナム人調査員の両方が含まれる混成チームです。ベトナム人調査員のみでは日本企業の意図を汲み取りにくく、日本人のみでは現地の深い情報に手が届きにくいためです。

難しさ3:調査会社の選定が難しい
ベトナム市場調査サービスを提供する会社は予想以上に多く、各社で得意領域や価格帯も異なります。必ずしも大手やブランド力のある調査会社が最適解とは限りません。市場調査で本当に重要なのは、結果がその後の具体的なアクションにつながるかどうかです。
規模こそ大手には及ばなくても、ベトナム事情に精通し、南北両エリアに現地調査員を配置し、現地企業との深いパイプを持つブティック系の調査会社も存在します。ブランド力や体制の大きさだけでなく、「実行可能な示唆」を引き出せる会社かどうかを、目的や予算に応じて見極める視点が求められます。
ベトナム市場調査、7つの手法をどう使い分けるか
目的や予算に応じてさまざまな手法があります。重要なのは、費用対効果とのバランスを見ながら、目的に最も適した手法を選び抜くことです。
デスクリサーチ(デスクトップ調査)
既存の統計・レポート・ニュースをもとに基礎的な市場理解を深める手法です。生成AIによってある程度の情報が手軽に入手できるようになった現代では、情報そのものとしての価値はかつてより低下しています。2026年時点では、「情報を得る」というより「ファクトチェックや資料の体系的な整理を外部に任せる時間を買う」という発想で捉えるのが良いと考えています。費用は数十万円程度が相場で、100万円を超えると個人的には割高に感じます。

定量調査
主に消費者向けのアンケート調査です。見極めのポイントは各社が保有する消費者パネルの質。インターネットパネルは安価ですが、きちんと向き合って回答してくれる回答者の割合は決して多くありません。推奨したいのは調査員が対面で一人ひとりから回答を取る形式で、費用は割高(数百人規模で数百万円規模になることも)ですが、データの質と解像度が高くなります。
定性調査
消費者向けデプスインタビューに加え、企業ヒアリングも主要な手法です。企業ヒアリングでは、顧客候補・競合・提携パートナー候補の3者を対象に聞き取ります。数字だけでは見えてこない「なぜそう考えるのか」という意思決定の背景を掴みたい場面で効果を発揮します。
費用目安は、消費者インタビューで1人あたり数千円〜数万円、企業ヒアリングで1社あたり数万円〜数十万円です。競合企業へのヒアリングは、情報を開示する義理のない相手から本音を引き出す必要があるため難易度が高くなります。
店頭調査
スーパー・コンビニ・ドラッグストア・専門店の売場を実際に歩き、競合商品の品揃え・価格帯・陳列位置・POPやプロモーションを確認する現場調査です。「今、実際の売場で何が起きているか」を自分の目で確認できる点に最大の価値があります。ベトナムは南部と北部で主要小売チェーンの勢力図が異なるため、複数都市を回ることで地域差も見えてきます。
視察ツアー
現地企業との情報交換を通じて有益な情報を得られることが多く、ベトナム事業展開を検討する企業がまず最初に取り組むべき手法です。訪問先は企業だけでなく政府機関・業界団体・工業団地・病院・学校にまで及ぶため、現地でのアポイント取得が課題になります。現地企業とのコネクションを持つパートナーへの依頼を推奨します。
テストマーケティング・ポップアップストア

本格展開前に小規模なテストを行い、実際の市場の反応を検証する手法で、重要性は年々高まっています。AIが導き出す答えはあくまで既存データの延長線上にある「もっともらしい仮説」に過ぎず、変化の速いベトナム市場の唯一の正解を最初から言い当てることはできません。
AIで仮説の精度をある程度高めたら、小規模なテストマーケティングを通じて現地の反応を見ながら軌道修正を重ねる——この「小さく試して、素早く学ぶ」サイクルが、机上の仮説を現地の最適解へ近づける最短ルートです。
オンライン調査(SNS分析・ソーシャルリスニング)
ベトナムは平均年齢が若く、スマートフォンの普及率も非常に高い国です。Zalo・Facebook・TikTokなどを活用したソーシャルリスニングや、ECモールのレビュー分析といった手法の有用性も増しています。
業種別に見る、ベトナム市場調査の設計ポイント
製造業
大手企業ではサプライヤー探索、中堅・中小企業では販路開拓が調査のメインテーマになりやすい業種です。近年は、これまで輸出専用ラインだった工場が、所得水準の向上を背景にベトナム国内市場向けの製品も並行して手掛けるケースが増えています。
輸出拠点としての調査:部材調達先の信頼性、労務・物流コスト、周辺国への輸出網や関税・貿易協定の活用可能性
内需開拓のための調査:国内需要の規模・成長性、競合の輸入品動向、現地の流通チャネルへの対応可否

消費財・食品
日用消費財の調査市場は歴史が長く、地場系・欧米系・日系の調査会社が揃っているため相見積もりによる選定はそれほど難しくありません。ただしBtoBかBtoCかで調査設計は大きく異なり、工場投資を伴う場合は精緻な市場規模・成長率の算出が肝となる一方、BtoC向けは消費者の嗜好・購買行動を捉える調査が中心になります。
BtoB商材
機械設備・部材・業務ソフトウェアなどは、消費者調査ではなく顧客企業・競合企業への直接ヒアリングが中心になります。対象が非上場企業の場合、情報開示義務がないためヒアリングでしか実態がつかめません。競合企業へのヒアリングは対象1社あたり数十万円〜、プロジェクト全体では数百万円規模になることも珍しくありません。
飲食・サービス業・小売業
立地選定と現地の生活導線の理解が調査の核になります。商圏内の人口動態や競合店舗の状況に加え、実際に現地に足を運び曜日・時間帯ごとの人の流れやテナント配置、賃料水準を肌感覚で掴む店頭調査・視察調査の重要性が高い業種です。南部と北部で外食・消費行動の傾向が異なるため、1号店をどのエリアから始めるかという意思決定自体が、事実上の市場調査の一部になります。
なお、現在の商圏分析は「徒歩・バイクでの到達圏」を前提に設計されていますが、メトロ網の拡大により「駅からの距離」を軸にした商圏の再定義が必要になりつつあります。
不動産・インフラ・電力・エネルギー
政策動向や法規制の改正を定期的に収集する必要性が、他業種以上に高い分野です。象徴例が電力開発の基本方針を定める第8次国家電力開発基本計画(PDP8)で、当初予定から2年半遅れて首相決定第500号にて最終決定・即時発効しました。「政策が決まるまでは投資が止まり、決まってからの反動が大きい」という特徴があり、継続的にウォッチできる調査体制が望ましい分野です。

M&A関連調査(企業選定・スクリーニング)
まず対象業界の成長性を見極め、買収候補のロングリストを作成し、ショートリストへ絞り込むのが基本プロセスです。ロングリスト作成はデータベース調査で足りますが、ショートリストへの絞り込みには、オーナーの株式保有比率・後継者問題・既存株主との関係・簿外債務の可能性といった、直接ヒアリングでしか確認できない定性情報が欠かせません。
ベトナム市場調査の発注前チェックリスト
発注者側が主導権を持って進めるための工夫として、調査したい内容(調査項目)をドラフトでもよいので自社であらかじめリストアップしておくことを推奨します。この一手間が調査スコープのブレを防ぎ、費用対効果を高めます。

市場環境を把握するための項目
市場規模・成長性:過去数年の成長率、今後の予測。統計未整備のため複数ソースの比較・補正や、フェルミ推定による推計も必要
競合他社の動向:シェア、新規参入・撤退、価格帯、製品ラインナップ、マーケティング施策。非上場企業が多く実態把握が難しい
ターゲット顧客のニーズ・購買行動:誰が、何を、どこで、いくらで買っているか。年齢層・地域・所得階層別の違いも含めて把握
流通チャネルの構造:伝統的小売・モダンチャネル・EC/ライブコマースの比率と使い分け、有力な代理店・ディストリビューター情報
参入条件を把握するための項目
規制・法制度・許認可:業界特有の規制、輸入関税、ライセンス取得要件、最近の法改正動向。外資規制の有無・内容は特に要チェック
進出スキーム(独資/合弁/M&A):外資規制の内容によっては独資での進出が難しい場合もあり、合弁比率や資本構成は現地法律事務所と詰める必要がある
規制運用の実態:中央政府と地方政府、省庁間で判断が分かれるケースもあり、机上の法令調査だけでなく現地実務家への確認が必須
提携・パートナー候補の情報:代理店・合弁先・M&A対象のロングリストからショートリストへの絞り込み条件を事前に用意
現場で起きるベトナム市場調査の落とし穴

落とし穴1:成果物が「求めていた量・深さ」を満たしていない
「〇〇について調査する」という項目レベルの合意はできていても、「どのくらいの粒度で、何件のヒアリングに基づいて、どこまで踏み込んだ示唆を出すのか」という深さの認識までは揃っていないケースが多くあります。
これを避けるには、発注前に過去の類似プロジェクトの成果物サンプルを見せてもらう、ヒアリング対象者数と役職者レベルをすり合わせる、調査項目ごとのボリューム感を確認するといった対応が推奨されます。
一つの目安として、「何でもできます」という調査会社ほど注意が必要というのが経験則です。むしろ「この領域は対応できるが、この部分は難しい」と正直に伝えてくれる調査会社の方が、対応できる範囲については責任を持って深く掘り下げてくれる傾向があります。
落とし穴2:「紹介だから安心」という思い込み
紹介元が評価しているポイントと、自社が今回の調査で重視したいポイントが一致するとは限りません。紹介はあくまで候補を知るきっかけとして活用し、最終的な発注判断は自社自身のチェックポイント(人員体制・現地ネットワーク・成果物の深さ)に照らして行う必要があります。
落とし穴3:提携先候補が見つからないとき
ベトナム企業、特に国営企業や大手ローカル企業では意思決定がトップダウンで動く傾向が強く、担当者レベルで提携の意向を伝えても経営層に上がらずブロックされるケースは珍しくありません。調査会社が「ドアノック」役を代行してくれる場合、そのアプローチが現場担当者止まりなのか経営層に直接話を通せるパイプを持っているのかは、依頼前に確認しておきたいポイントです。
落とし穴4:良いレポートが良い意思決定に直結するとは限らない
ベトナムの実情を知らず現地ネットワークも持たないものの、知名度やブランド力だけは高い調査会社に発注した場合に起こりやすい落とし穴です。市場の全体像は整理されていても、「この結果を踏まえて自社はどう動くべきか」という一歩踏み込んだ示唆が提示されず、レポートを受け取って終わりになってしまいます。
この「一筋縄ではいかない市場を、どう攻めるか」を具体的な戦略・事業計画にまで落とし込めるかどうかが、市場調査を超えた進出コンサルティングの力量が問われる部分です。
ベトナム市場調査、費用の落とし所と期間の目安
手法別の費用相場
デスクリサーチ:10万円〜100万円未満(100万円超は割高な水準)
定量調査(アンケート・ネットパネル):数十万円〜100万円程度。対面調査は数百万円規模になりやすい
定性調査(消費者インタビュー):1人あたり数千円〜数万円
定性調査(企業ヒアリング):1社あたり数万円〜数十万円
競合調査(非上場企業・外資系企業対象):1者あたり数十万円〜、プロジェクト全体で数百万円
戦略策定を含む総合調査:500万円〜800万円程度
同じ手法でも、対象業界の難易度や調査対象者の階層によって費用は数倍単位で変わります。見積もり比較の際は、金額だけでなく「誰に、何を、何名分聞くのか」というスコープの中身まで確認することが重要です。
推進方法別の費用・期間感
プロジェクト型:調査項目を事前合意した上で1ヶ月〜数ヶ月かけて実施する、最も一般的な形態
スポット型:必要なタイミングでコンサルタントから口頭ベースの助言を単発で受ける形式。1回あたり数万円〜十数万円程度から依頼できる場合が多く、本格調査前の仮説検証に向く
リテイナー型(定点観測型):数ヶ月単位で顧問的に伴走し、特定業界を継続的にウォッチする形式。月額固定契約が一般的
まずスポット型で仮説出しを行い、有望なテーマが見えた段階でプロジェクト型の本格調査に進む、あるいは進出後はリテイナー型で市場環境の変化を継続的に追う——事業のフェーズに応じて型を使い分ける進め方を推奨します。
なぜ費用に差が出るのか:4つの要因
調査項目のボリュームと深さ:項目数や掘り下げの深さで必要工数が変わる
対象業界の難易度:非上場企業や外資系企業は情報開示のハードルが高く費用も上がりやすい
調査対象者の階層:一般消費者か経営層かで謝礼水準やヒアリング難易度が変わる
戦略策定の有無:調査結果の報告に留めるか、事業計画や展開スキームの提言まで含めるかで必要工数が大きく変わる
(この記事の完全版は以下の記事からご覧ください)
この記事の筆者 三浦 賢弥(Kenya Miura)
・筑波大学大学院でベトナム研究、ホーチミン市師範大学へ留学後JETRO(日本貿易振興機構)入構。ベトナム進出コンサルティング
・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBaseを創業、代表取締役に就任。
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この記事は noteマネー にピックアップされました

