クライアントから「それが言いたかった!」と喜ばれる言語化のコツ
あなたはクライアントから
「みんなが、なんとなく持っていた価値観を言語化してくれた」
と喜ばれた経験はありますか?
僕が運営しているデザインメンターでは、デザインの学習だけではなく、契約しているメンティーさんの実務もサポートしています。
クライアントへの提案内容を一緒に考えたり、デザインの方向性を整理したり、コンセプトを言葉にしたり。完成したデザインへのフィードバックだけではなく、そこに至るまでの思考も含めて伴走しています。
先日、あるメンティーさんから、店舗ロゴの制作について相談を受けました。
クライアントとのミーティング内容や、店舗名、事業への思い、目指している雰囲気などを聞きながら、ロゴの方向性を整理していきました。
その中で僕は、今回のロゴコンセプトとして、
「街に昔からあったように感じる、新しい店」
という言葉を提案しました。
新しく生まれる店ではあるけれど、いかにも新しくつくられたブランドには見せたくない。昔からその街に存在し、地域の人の生活に自然と馴染んでいたような佇まいをつくりたい。
クライアントが話していた内容から、僕はそのような価値観を感じ取りました。
後日、メンティーさんから、クライアントがこの言葉をとても喜んでいたと教えてもらいました。
「あのミーティングで、みんながなんとなく持っていた価値観を言語化してくれた」
そう言っていただけたそうです。
そして、メンティーさんから次のような質問をもらいました。
「村田さんのように、たくさんの情報からエッセンスを抽出して、こういった言語化ができるようになるには、何を意識すればいいのでしょうか?」
そこで、この記事では、クライアントから「それが言いたかった」と喜ばれる言語化のコツについて考えます。
大切なのは、次の3つです。
言語化とは、細分化すること
読解力より、妄想力を鍛える
自分自身との対話を重視する
1. 言語化とは、細分化すること
言語化について話すと、よく「語彙力を増やしたほうがいい」と言われます。
もちろん、言葉をたくさん知っていることは無駄ではありません。しかし、言語化が苦手な原因の多くは、語彙力が足りないことではありません。
僕は、言語化とは「適切な単語を知っていること」ではなく、曖昧な感覚をどこまで細分化できるかだと思っています。
今回の案件では、クライアントから「レトロ」「老舗感のあるロゴにしたい」という話がありました。
一見、分かりやすいように思えます。
しかし、「レトロ」とは具体的にどのような状態でしょうか。
昭和の喫茶店でしょうか。明治時代から続く和菓子店でしょうか。色褪せた印刷物でしょうか。それとも、手書き文字や古い木材の質感でしょうか。
同じ「レトロ」という言葉でも、人によって頭に浮かぶ景色は違います。
人はそれぞれ、自分の中に異なる辞書を持っています。
誰かにとっての「親しみやすい」は、丸みのある文字かもしれません。別の人にとっては、地域の商店のような素朴さかもしれません。
誰かにとっての「高級感」は、黒と金を使った豪華さかもしれません。別の人にとっては、余白が広く、情報の少ない静かなデザインかもしれません。
つまり、同じ単語を使っていても、同じイメージを共有できているとは限らないのです。
僕の中では、「レトロ」「老舗感」「高級感」「信頼感」といった言葉は、「ヤバい」「エモい」「イケてる」と同じくらい抽象的です。
なんとなく意味は伝わる。しかし、具体的に何を指しているのかは分からない。デザインの現場では、このような言葉が頻繁に使われます。
なぜなら、楽だからです。
「高級感のあるデザインにしてください」と言えば、方向性を伝えた気持ちになれます。「親しみやすくしてください」と言えば、意図を共有した気持ちになれます。
しかし、その言葉だけでは、クライアントならではのデザインはつくれません。
抽象的な言葉を、そのまま抽象的なデザインに変換すれば、誰にでも当てはまる、どこかで見たようなものになります。
だからこそ、細分化が必要です。
「レトロとは何か?」
「なぜ老舗感が必要なのか?」
「新しい店なのに、なぜ昔からあるように見せたいのか?」
「クライアントは、どのような体験を老舗という言葉に重ねているのか?」
このように、抽象的な言葉を少しずつ分解していきます。
今回、クライアントが求めていたのは、単純に古い見た目のロゴではありませんでした。
新しい店ではあるけれど、地域から浮いて見えたくない。昔から街の人に愛されてきた店のように、自然に馴染んでほしい。一時的な流行を追った店には見せたくない。
そうやって「レトロ」「老舗感」を細分化していくと、クライアントが本当に求めていたものが見えてきます。
それらを短くまとめ直したものが、
「街に昔からあったように感じる、新しい店」
という言葉でした。
言語化とは、難しい言葉に置き換えることではありません。曖昧な言葉を分解し、その中に含まれていた感情や目的を見つけ直すことです。
2. 読解力より、妄想力を鍛える
クライアントの話から本質を見つけるには、「読解力」や「分析力」が必要だと思う人もいるかもしれません。
しかし、僕はそれ以上に「妄想力」が重要だと思っています。
なぜなら、クライアント自身も、自分たちが本当に求めているものを明確に理解しているとは限らないからです。
実際の打ち合わせでは、話が前後したり、内容が矛盾したり、「うまく言えないんですけど」と感覚的に話されたりします。
すでに明確な答えがあるのであれば、デザイナーがあらためて言語化する必要はありません。
まだ輪郭がないからこそ、こちらで考えを膨らませる必要があります。
そこで必要になるのが、妄想力です。
クライアントは、なぜこの店名にしたのだろう。
どのような人に来てほしいのだろう。
その人は、どのような一日を過ごしたあとに、この店を訪れるのだろう。
このロゴは、Webサイトだけでなく、看板やショップカード、包み紙にも使われるのだろうか。
仕事帰りの人がこの看板を見たとき、どのような気持ちになってほしいのだろう。
10年後、この店は地域の中でどのような存在になっていてほしいのだろう。
このように、与えられた情報を起点に、自由に妄想を膨らませます。
ここで重要なのは、妄想なので、正しくなくていいということです。
「分析しなければいけない」「正解を見つけなければいけない」と考えると、人は途端に思考が止まります。
クライアントの言葉を間違って解釈してはいけない。変な提案をしてはいけない。論理的に説明できなければいけない。
そう考え始めると、安全な答えしか出てきません。
「親しみやすく、信頼感のあるデザイン」
「伝統と革新を融合したロゴ」
「地域に愛されるブランド」
間違いではありません。しかし、どの企業にも当てはまる言葉です。
正解を出そうとすると、言葉は一般的になります。
一方で、妄想には正解がありません。
クライアントの話を聞いたとき、自分は何を感じたのか。この店が本当に存在したら、どのような風景になると思ったのか。
客観的に合っているかどうかは、一度横に置いて構いません。
まずは自分の中で思考を膨らませ、そのあとでクライアントの話と照らし合わせていけばいいのです。
「僕はこう感じたのですが、合っていますか?」と問いかければ、クライアントは「近いです」「そこは少し違います」「こちらのほうが重要です」と反応してくれます。
その反応によって、さらに輪郭がはっきりしていきます。
言語化は、一発で正解を当てるクイズではありません。
仮説をつくり、問いかけ、反応を受け取り、少しずつ輪郭を整えていく作業です。
3. 自分自身との対話を重視する
では、妄想力はどのように鍛えればいいのでしょうか。
答えは、自分自身との対話を増やすことです。
先ほど挙げた、
「クライアントは、なぜこの名前にしたのだろう?」
「ターゲットは、どのような人だろう?」
「どこでこのロゴを見るのだろう?」
「どのような場所や時間帯で目にするのだろう?」
という問いは、すべて自分自身への問いかけです。
妄想するとは、自分に質問を投げかけ、自分の中から返ってくる答えを聞くことです。
コンセプトは、天才的なひらめきによって突然思いつくものではありません。問いかけを繰り返す中で、少しずつ見つけ出すものです。
「レトロなロゴが欲しい」
なぜレトロなのだろう。
「安心感を出したいから」
なぜ、新しい店に安心感が必要なのだろう。
「初めて入る店なのに、緊張してほしくないから」
なぜ、緊張してほしくないのだろう。
「地域の人に、日常的に使ってほしいから」
日常的に使われる店とは、どのような店だろう。
「特別な日に一度だけ訪れる店ではなく、いつもの場所として思い出してもらえる店」
では、ロゴを見たとき、どのように感じてほしいのだろう。
「初めて見るのに、どこか懐かしく感じてほしい」
このように問いを重ねることで、「レトロ」という言葉の奥にあった、本当の目的が見えてきます。
自分自身との対話で大切なのは、最初の答えをすぐに採用しないことです。
「なぜ?」
「具体的には?」
「誰にとって?」
「どのような場面で?」
と、何度も聞き直します。
自分の答えを、自分でもう一度疑う。
すると、表面的な言葉が少しずつ剥がれ、その奥にある感情や判断基準が現れます。
今回の「街に昔からあったように感じる、新しい店」という言葉も、僕が特別な言葉を発明したわけではありません。
ミーティングの中で、クライアントが何度も話していた価値観を拾い、短くまとめ直しただけです。
こうした言語化をするときに重要なのは、新しい情報を大量に増やすことではありません。すでに出ている情報の中から、何度も現れる感情や判断基準を探すことです。
意識するとよいのは、次のような点です。
クライアントが、何度も繰り返している言葉は何か。
逆に、避けたいと言っている印象は何か。
見た目の話ではなく、最終的に人にどのように感じてほしいのか。
どの話題のときに、クライアントの声が強くなったか。
人は、自分が大切にしていることを必ずしも明確な言葉で話すとは限りません。何度も同じ話をしたり、特定の話題だけ長く話したり、「これは違う」と強く否定したりします。
そうした会話の強弱の中に、その人が本当に大切にしている価値観が表れます。
デザイナーがやるべきことは、外から格好いい言葉を足すことではありません。すでにその場に存在していた価値観を見つけ、輪郭を与えることです。
「誰にとって、いつ、どう感じるか」まで考える
クライアントから「親しみやすいデザインにしたい」と言われたとします。
ここで、「では丸いフォントを使いましょう」とすぐにデザインへ進んではいけません。
誰にとって親しみやすいのか。
学生でしょうか。子どもがいる家族でしょうか。地域に長く住む高齢者でしょうか。
どのような場面で親しみを感じてほしいのでしょうか。
Webサイトを初めて訪れたときでしょうか。店の前を通ったときでしょうか。商品を受け取ったときでしょうか。
親しみやすいとは、気軽に話しかけられそうな印象でしょうか。昔から知っているような安心感でしょうか。
「誰にとって、どのような場面で、どう感じるのか」まで考えると、抽象的だった言葉が具体的になります。
高級感も同じです。
豪華さを見せたいのか。静けさを感じさせたいのか。素材の品質を伝えたいのか。長い歴史を感じさせたいのか。
それを細分化せずにデザインを始めれば、黒、金、明朝体という分かりやすい記号に頼るしかなくなります。
しかし、クライアントの価値観まで掘り下げられれば、色やフォント、余白、写真にも固有の理由が生まれます。
強いデザインは、強い装飾から生まれるのではありません。
具体的な解釈から生まれます。
クライアントの中にある言葉を見つける
「それが言いたかった」と言われる言語化には、一つの特徴があります。
それは、初めて聞いた言葉なのに、以前から知っていたように感じることです。
突飛すぎる言葉では、クライアントは自分たちの言葉だと感じられません。
反対に、ありきたりすぎる言葉では、「それはそうですね」で終わってしまいます。
良い言語化は、新しさと納得感の間にあります。
言われるまで自分では気づかなかった。しかし、言われた瞬間に「自分たちが大切にしていたのはそれだ」と思える。
今回の言葉も、クライアントの外側から持ち込んだものではありません。
すでにクライアントの中にあったものです。
ただし、複数の発言や感情に分散し、一つの言葉にはなっていなかった。
そこから共通する部分を拾い、余分なものを削り、短くまとめた。
言語化とは、ゼロから言葉を生み出すことではありません。
点在している価値観をつなぎ、一つの輪郭として見せることです。
まとめ
クライアントから「それが言いたかった」と言われると、何か特別な才能によって、相手の心を読んだように見えるかもしれません。
しかし、実際にやっていることは、もっと地味です。
クライアントが話した言葉を拾う。
何度も出てくる価値観を探す。
抽象的な言葉を分解する。
自分なりの妄想を膨らませる。
その妄想に対して、何度も自分で問い直す。
そして、複数の情報に共通する感情を短い言葉にまとめる。
言語化とは、格好いい言葉をつくることではありません。
相手の中にすでにあるけれど、まだ本人にも見えていないものを見つけ、輪郭を与えることです。
だから、語彙力がないと悩む必要はありません。
まずは、クライアントが使った抽象的な言葉を、そのまま受け取らないことから始めてみてください。
「高級感とは何か?」
「信頼感とは何か?」
「親しみやすさとは何か?」
「誰にとって、どのような場面で、どのように感じることなのか?」
問いを重ねるたびに、言葉は少しずつ具体的になります。
コンセプトは、机の前で待っていれば突然降りてくるものではありません。
自分に問いかけ、自分の答えを聞き、その答えをさらに疑う。その繰り返しの中から見つけ出すものです。
良い言語化とは、外から言葉を足すことではなく、すでにそこにある価値観を見つけることです。
そして、クライアント自身もまだ気づいていなかった価値観に輪郭を与えられたとき、初めて、
「それが言いたかった」
という言葉が返ってくるのだと思います。
参考図書
言語化について、どちらもとても参考になるオススメ本。
言語化とはなにか?に対する解釈が違って面白いです。
